軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人事面談 side:強

日常訓練を終えたある日、私は御剣家の応接間に呼び出された。

半年に一度行われる面談の為だ。

叱られるわけではないと分かっていても、当主様に呼び出されると緊張してしまう。

我ながら、こういうところは学生時代から成長しないな。

入室前に改めて身だしなみを整え、挨拶をする。

「強です。失礼します」

「入ってくれ」

入室の作法に則り、襖を開く。

上座で待っていたのは、御剣家現当主、御剣 朝日(あさひ) 様だ。

「訓練終わりの疲れているところに、すまないな。掛けなさい」

朝日様に促され、私は向かいの座布団へ腰を下ろす。

「失礼致します。こちらこそ、朝日様の貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」

面談自体は、私がここへ勤め始めた頃から行われている。

「最近調子はどうだ」「困っていることはないか」「不満に思っていることはないか」など、一通りの質問も変わりない。

しかし、2年ほど前からこの後の内容に変化があった。

「前回に引き続き、戦闘任務の比重を高めてほしい、と。分かった。考慮しよう」

「ありがとうございます」

面談に必要な項目を埋めたのだろう。

朝日様はペンを置き、視線で語りかけてくる。

ここから先は雑談である、と。

「後継者の育成は順調かね?」

「はい。縁武様の取り計らいにより、貴重な実務経験も積ませていただいております」

2年前から、こうして聖に関する話題が増えた。

面談に限らず、夕食の席でも時折話題に出してくる。

「陰陽術の方はどうだ?」

「一通り教えました。残りは元服後と考えております。とても勤勉な子で、私がいない間も自主的に復習しているようです」

朝日様は満足気に頷き「そうか、そうか」と呟いた。

聖の優秀さは周知の事実だが、何故ここまで聖に傾倒する?

将来有望だからというだけでは説明できない過剰な待遇だ。

まさか、精錬技術が狙いか?

いや、私以外には話していないと、あの子は言っていた。

ならば何故……。

「縁武様を始め、御剣家の皆様に目をかけていただけるとは。感謝の言葉もありません」

「いずれ私達の戦友となってくれるだろう? 気にかけて当然だ。それが先代すら認める天才ともなれば、なおさらに」

朝日様の言葉に嘘はないと思われる。

仮に私が御剣家の当主であっても、強いという一点だけで贔屓することだろう。

しかし、御剣家 現当主(・・・) がそれだけで贔屓するかというと、疑問が残る。

朝日様は理性的な方だ。

御剣家において、優秀な人間を厚遇することはあれど、 依怙贔屓(えこひいき) することはない。

そんな朝日様が聖について語る様子は……なんと言うべきか、感情的に見える。

才能がないという内気の訓練に参加させ、依頼の斡旋までしてくださる。これは依怙贔屓としか言いようがない。

「鬼を従えて以来、戦闘任務を増やしているのも、教育費用を捻出するためではないか?」

「それも理由の1つです」

実演や練習で使う道具の費用は、当然自腹だ。

新たな術を教えるたび、少なくない額が飛んでいく。

それに加えて、鬼退治での大掛かりな仕掛けや式神召喚などで収入の大部分が消えた。

「そういえば、陰陽師にとって有数の買い物もしていたな。そろそろか? 時の流れは早いものだ」

それらを上回る最大の理由が、霊獣の卵なのは間違いない。独身時代の貯蓄が全て吹き飛んだ。今考えても分不相応な買い物だった。

しかし、あと2年で孵ることを思い出すたびに高鳴る鼓動が、それだけの価値はあったと私に思わせる。

「これからさらに霊獣を従えるか。頼もしい限りだ。こうなると知っていれば、卵の費用くらい出したのだがな」

これだ。

朝日様を知っている者が聞けば、皆違和感を覚えることだろう。

御剣家の利益になるか未確定のものに、大金を出す?

普段の朝日様なら決して口にしない言葉だ。

私はここで核心へ踏み込むことを決意した。

「以前よりお伺いしたいことが。御剣家は聖に何をお望みなのでしょうか」

「望みというにはまだ早い。聖君には期待しているのだよ」

期待……。

それは誰よりも私が抱いているものだ。

ビルでの妖怪退治も、私の常識を大きく覆す結果となった。

簡易結界を10回も繰り返し利用する者など、見たことがない。

『毎回霊力を抜いて、注ぎ直してる』と言っていたが……。

精錬同様、霊力の操作に長けていればできるのだろうか……殺人型相手であればどうだったのか……疑問は尽きない。

朝日様がこのことを知るはずもなし。

ならば“期待”とはいったい何を指すのか。

「詳しく教えていただけないでしょうか」

「先代に聞くといい」

「以前伺った際は、はぐらかすばかりで、答えていただけませんでした」

だろうな、と朝日様は呟く。

分かってて聞いたのだろう。

「息子が心配か」

「当然です」

「それもそうだ。私とて、我が子が同じ使命を背負って生まれてきたとしたら、気が気でないだろう」

「それはどういう……」

私の問いに、朝日様は身を乗り出して答える。

「これから話すことは他言無用である。本人に伝えるその時まで、仲間はもちろん、家族にも話してはならない」

朝日様は初めからここへ話を持っていくつもりだったのだろう。

これまで聖について話すことは多々あれど、ここまで露骨に話題に出してこなかったのだから。

「なぜ今になって」

「状況が変わった。予言の時は間近に迫っている。その時に備えるには、父親であるお前の協力が必要だ。故にこちら側へ引き入れることとした」

何があったのか微塵も伝わってこない。

予言とは何のことか。

しかし、聖について隠されていることがあるのなら、聞かないという選択肢は 端(はな) から存在しない。

「お聞かせ願います」

「よいだろう」

朝日様はかつてないほど真剣な表情で語り始めた。

そして私は、知ることとなる。

――世界各地の権力者達が知る、人類最期の予言を。