作品タイトル不明
GWと無人島突入
5月3日になった。
GW、そしてニャンゴト・サービスからのバイトの日だ。
僕たち……僕と真白、そして堂城さんは市内のフェリー乗り場にやってきた。
送迎してくれたのは立花さん。
「お嬢をよろしく」
そう言い残して立花さんは僕たちを見送った。
いままでの雰囲気からだと、なんかたくさんお付きの人がいそうだと思ったけど、そんなことにはならなかった。
「よくいらっしゃいました。では、参りましょう」
フードスーツさんが声だけは朗らかに僕たちを出迎え、高速フェリーに案内する。
「お仕事とはいえ、真面目になさる必要はありません。どうぞ旅を楽しんでください」
フードスーツさんはそんなことを言う。
そんな楽しい旅になるとは思えないんだけど。
そしてそこから3時間。
途中、なぜか濃い霧に包まれたりしたけれど、無事に目的地であろう無人島に辿り着いた。
すごく小さな島にとても立派な洋館がある。
こんなところに建材を運ばせて家を作るって……たぶんだけど普通に建てるよりも高く付いてるんだろうな。
金持ちのお遊びって感じだ。
船着場から島に降り立つ。
フードスーツさんは降りることなく、船と共に去っていった。
「ここは寒いわね」
吹き抜けた風に堂城さんが腕をさすった。
「あ、そうだった」
船の中では堂城さんが真白を相手にハイテンションだったから忘れてた。
持ち込んだ荷物を探って堂城さんに渡す。
「これは?」
パッと見は缶バッヂなそれに堂城さんは首を傾げる。
「それは……」
「ちょっと待って!」
僕が説明しようとする前に堂城さんに止められた。
そして鼻を近づける。
手の中に包んだ缶バッヂを必死に嗅ぐ美人。
なんだこの絵。
「この匂い……この気配……莉菜さんが作ったのね!」
「ええまぁ」
気配はともかく匂いって……転生して肉体も変わったのに体臭は変わらないのか?
「姉から堂城さんにって、バッヂタイプの護符だよ」
「それはとても素敵ね!」
堂城さんに渡した護符には【魔力補正+5】【防御力強化+5】【対魔力攻撃+5】の効果がある。
姉が作ると補正が+5確定なのかな?
むう、僕はまだまだか。
「素敵! ぜんぜん寒くないわ!」
と、全身で海風を受け止めてる。
いや、寒さ耐性的なのはなかったと思うんだけど?
ちなみに僕も春用にジャケットなんかを新調した。
強化ジャケット(春用)【武器隠蔽】【防御力強化+3】【速度補正+3】
強化ズボン(春用)【防御力強化+3】【筋力補正+3】【速度補正+3】
うん、僕が作ると+3が限界だ。
アイテムボックスの機能として組み込まれているが故だったりするのかな?
ゲームで言えば、効率化機能がプレイヤーより上の結果を出すことはない的な?
まぁ、悔しくはあるけど、姉ががんばってくれればそれでいい話だというなら、そうしてもらうだけなんだけど。
僕はちゃんと、アイテムボックスの管理人としての仕事はしてるんだから。
「ここの空気には妖気が混ざってます」
ジャケットの内ポケットから真白の声が響いた。
「え? つまり?」
「本当に寒くなくなっているかもしれません」
「そうなんだ。真白は大丈夫?」
「はい、この中はとても暖かいですから!」
付与性能ではなくて、ジャケットの基本性能の方で防寒が活きているらしい。
これ、春用のはずなんだけどね。
「さて……いきましょうか」
バッヂを付けて「うふふあはは」と回っていた堂城さんが正気を取り戻してそう言った。
「じゃあ」
と洋館の方に伸びた道に踏み出そうとしたら、堂城さんに止められた。
「そちらではないわ」
「え?」
「まずは周辺の地形を調べる」
そう言って道から外れた方へと歩き始める。
「あそこが怪しいことはもう確定なんだから、周辺の地形との関係性を調べるのよ」
「堂城さん、実はこういうことに慣れていたりする?」
悠々と歩き出す堂城さんに、僕は問いかけてみた。
「私はそうではないけれど、こういうことを本業にする人たちもいるのよ」
「へぇ」
「私は、その人たちの真似をしているだけ」
そう言った堂城さんの後を、僕は追いかけた。
道なき道を進んでいく。
無人島の外周は岩ばかりで、砂浜はない。
いまは干潮なのか、岩は海藻まみれだったり、潮溜りがそこら中にあったりする。
岩の表面にいたフナムシの大群が岩の隙間に逃げ込む光景はゾッとする。
潮溜りに鯛みたいな魚がいたから観察していると、胴体にとても立派な目があった。
「「ええ……」」
思わず真白と声が重なる。
「どうやらこの島自体が異界化しているようね。近くの海底に寝坊助の邪神がいると言われても驚かないわ」
堂城さんがとても怖いことを言う。
それはさすがにやめてほしい。
正気度を削るようなことはしたくないんだけど……。
「あら」
そんな感想を呟く僕に、堂城さんはとてもキラキラした顔で言った。
「正気を捨ててからこそ、人生は輝くのよ」
きっとそれはダメな格言だと思う。