作品タイトル不明
とある怪談話
●某巨大掲示板オカルト板『地元の怖い話しようぜ』より
俺、霊能者の助手してるんだよね。
なにするんだって? だいたい運転手。
霊能者の先生、車は持ってるけど自分で運転はしないんだ。
だから依頼された場所に連れて行くのがメインの仕事ってわけ。
後は、呼ばれた時に細々とした買い物を頼まれるかな。
塩とか日本酒?
いや、そういうのは先生が自分で選んでるみたい。
らしいのだと、仏花とか? 線香とか?
だいたい、依頼人の家の仏壇とか、墓参りとかに使うかな?
後、たばこ。
先生、ガチの愛煙家だから電子たばこ吸わないんだよね。
だから、車ん中、すごいヤニ臭い。
それでこの間さ、呼ばれてK市まで運転したんだよ。
新築の一軒家なんだけどさ、先生、その家の前に来た途端にたばこ吸い出したんだよ。
しかも一本だけじゃなくて、二本、三本と吸っていく。
その場から動かずに、じいっと家に向かって睨みつけながらたばこを吸ってんだよ。
怪しさマックスだよな。
そんなんだからさすがに家の人が出てきてさ、それで先生が名乗ったら家の中にどうぞって言われたんだけど、先生は「もうちょっと」って言って、さらに二本も吸ってったんだよ。
なんなんだよって思うよな。
「古来より、山の妖にはたばこと決まっていますので」
先生がそう言ったら、家の人……出てきてたのは旦那さんと奥さんだったんだけど、二人ともがなんかハッとした顔してさ。
それから先生、二階にある窓の一つを指さして、「あそこの部屋ですよね? 息子さんが寝てるのは」って言い当てたんだ。
それですっかり、夫婦は先生のこと信じちゃった。
ようやくたばこを終えてから、先生が家の中に入って、夫婦の話を聞いて……ああ、どんな話をしたのかは秘密な。
バレたら先生に呪われちまう。
そういうのもできるらしいからな。
ともかく、息子は山の妖に取り憑かれて、ひどい皮膚病みたいなのと高熱に襲われて寝込んでるんだよ。
病院でも原因不明で……んで、お祓いとかなら地元の神社に頼まないんですかって先生が聞いたら、なんか信用できないとかなんとか言ってた。
喧嘩でもしたんかね?
神社のお祓いなら高くて万札一枚とかで済みそうな話を、わざわざ遠くから先生を呼んで二桁万円支払うことになるってんだから、俺からしたらバカな話だよなって思う。
そんで、先生は話を聞き終えて、息子の部屋に行ったんだ。
そこでなにしたかは知らない。
俺は外で待ってろって言われた。
だいたい、先生の仕事現場には近づくなって言われてるんだよ。
どうにも俺は取り憑かれやすい性質らしくてさ。
俺が先生と知り合ったのも、取り憑かれておかしくなったのを助けてもらったからだったんだ。
で、俺が外にいるのは俺の安全のためって思うかもしれないが、これが違うんだよ。
先生がお祓いし損ねて逃げられた時に、俺の体に吸い寄せるためなんだよ。
弱っている悪霊とか妖とかは、咄嗟に取り憑けそうな奴の体に逃げ込むんだそうだ。
つまり、俺のところにな。
その時も、「あ、なんか出てきた」って思ったんだ。
ボーッっとスマホ見ながら待ってたのに、なにかに引っ張られるみたいに見上げたら、先生が指さした息子の部屋の窓から黒い影が飛び出した。
ソフトボールサイズぐらいの黒いモヤの塊みたいな?
なんかそんなの。
上から落ちてくるのを見上げながら、ゾッとした。
あ、これは受け入れたらヤバいかもって思ったんだ。
いままでも何回か先生が祓い損ねて逃げたのに取り憑かれたことがあったけど、今回のはやばい。
もしかしたら死ぬかもって思ったんだよ。
ああ、やばいやばいやばい、逃げなきゃ逃げなきゃって思うんだけど、体は動かないんだ。
反射神経が追いつかないっていうんじゃなくて、たぶん金縛りみたいなのになっていたんだと思う。
だんだんと黒いモヤが近づいてきて、それがなんかの顔に見えた。
人じゃないんだけど、人みたいな。
そう、カエルだよ。
そいつはカエルなんだ。
で、カエルっぽい顔の人っているだろ?
だからそいつは人っぽい顔したカエルなんだよ。
顎がしっかりしてて、唇が横に長くてって感じて……。
そんで……そう、目が人間のそれなんだよな。
で、そいつが、俺を見て笑っているのがわかるんだ。
なんか、餌にされた虫の気分みたいなのを感じて背筋がゾワっとしてたらさ。
いきなり、さらに黒い影が視界を覆った。
で、体が動けるようになって、俺は尻餅を付いたんだよ。
黒い影が消えたら、落ちてきていたカエルもいなくなってた。
「大丈夫ですか?」
っていきなり言われて、そっちを見ると高校生ぐらいの男がいたんだ。
でもなんか顔が見えない。
なんでかって、そいつの胸元からなんか大きいのが飛び出して上に伸びてるんだ。
「あの? 救急車とか呼んだほうがいいですか?」
高校生はなにもわかっていないみたいだ。
俺はそいつの胸から伸びているナニカの正体をたしかめようと視線を上に向けた。
そこにいたのは巨大な蛇だった。
半透明の蛇が上から俺を見下ろしていたんだよ。
そいつの首からすぐ下ぐらいがぽっこり膨らんでいたから、もしかしたらあのカエルを食べたのかもしれない。
俺はなんとか、「あ、大丈夫です。ありがとうね」って答えて、立ち上がった。
高校生はそのまま去って行く。エコバック持ってたから買い物帰りとかだったのかな?
その高校生の体に蛇は愛おしそうに巻き付いていたよ。
先生にその話をしたら、「逃げてないんならよかった」ってそれだけ。
あの高校生は大丈夫なのかなって聞いたら、「あの土地で蛇に好かれているのはいいことだよ」って言ってた。
K市ってそういう逸話とかがあるのかね?