軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思い出と遺体の行方

十年前……僕と堂城さんが六歳とか七歳とか、姉がその一つ上だった頃のこと。

驚いたことに、堂城さんは当時、僕たちと同じ団地にいたのだそうだ。

そのころは名字が違っていたという。

「実家が嫌になって出ていった本家当主の妹、それが私の母親よ」

自虐的に堂城さんはそう言った。

堂城家は蛇神に仕える一族だそうだ。

仕え、蛇神に妻を差し出す代わりに富が約束される。

その富で堂城家は有名な大企業の創業者一族になることができた。

そして、次の蛇神の妻と目されていたのが堂城さんの母親だった。

だが、母親はそれを嫌がって逃げた。

で、他の街に男と逃げて暮らしていたのだけれど……結果だけを言えばうまくいかずに男にも逃げられて困窮して、実家に頼ることになった。

さすがに本家の敷居を跨ぐことも許されず、あの団地に住まわされることになった母親は、条件を付けられた。

生まれた子供が娘であった場合、蛇神の妻とするべし、と。

その時、母親は堂城さんを妊娠していたのだ。

母親は、その条件を受け入れた。

自分が嫌がって逃げ出した条件をこれから生まれてくる娘に押し付けるのだ。

とてもいい性格をしている。

そして堂城さんが生まれて、いまから十年前のこと。

ついに先代の蛇神の妻がなくなり、次の妻が選ばれる日が来た。

それまでの間に母親に散々に脅された堂城さんは、行くのを嫌がり、泣き喚いた。

だけど誰も堂城さんをたすけなかった。

団地の人間は見ないふりをしたし、母親は団地の部屋から出てこなかったし、連れて行こうとする大人たちは手を離さなかった。

そんな時に堂城さんをたすけようとしたのが、姉だった。

大人ならばともかくよその子供に乱暴なことはできないと思ったのか、連れ去ろうとしていた人たちは姉に、これは家の行事で悪いことではない、怖いことでもないと説明した。

すると姉は、それなら本当にそうなのか私が見届けると、堂城さんと一緒に車に乗り込んだのだという。

あの陰キャの姉にそんな正義感と行動力があったのかと呆れる思いだったが、思い返してみれば昔の姉は、だらしなくもそんな人物だったような気がしないでもない。

小さな時限定だけれど、変な時に変な行動力を発揮する人物であったような気がする。

その後の陰キャ人生を考えると、あるいはそこで自身の行動力の全てを使い切ってしまっていたのかもしれないが。

そして異世界転生してようやく、アイテムボックスを埋め尽くすほどの行動力を取り戻したとでもいうのだろうか?

いや、物を散らかす性格は昔のままだけど。

ともかく、当時の姉は堂城さんと共にこの立木の屋敷に連れて来られて、蛇神の嫁選びの儀式を受けたのだ。

そしてそこで、結局、堂城さんが選ばれることになったのだけど……。

「私はその時、莉菜に大変心奪われてしまったのだ」

冷たい美貌……よく見れば蛇っぽいかなと思う美青年、蛇神様は当時を思い出してうっとりとそう言った。

人間としての名前は堂城清十郎というらしい。

「もちろん、香澄のことも愛しているよ。それもまた真実だ」

香澄……堂城さんの視線を受けて清十郎さんは慌てて取り繕う。

堂城さんのそんな態度を見る限り、二人の関係は良好のようだ。

僕の視線に気付いて、堂城さんはコホンと咳払いした。

「……この人がこんな性格の人だと知ることができたのは、莉菜さんのおかげです。そうでなければ、私はこの人を恐れたままでいたかもしれません」

「なるほど」

だから、恩人、なのか。

それはわかった。

「なら、その壺は?」

その壺の中に姉の遺体があるというのは?

「少し前に、この人がとあるオークションサイトを指定して、これらを手に入れるように言われ、それを東京の本家に伝えたことがあります。その後、これが送られて来ました」

「もっとたくさん手に入れろと命じたのに、たったこれだけとは。まったく忌々しい」

堂城さんが教えてくれ、そして清十郎さんは苛立たしげに拳を握りしめる。

「そのオークションサイトというのは?」

「会員制の秘密のオークションサイトです」

「そっか。それと……《《たくさん手に入れろ》》って言うのは?」

答えはわかっているけど、これは聞いておかないといけないだろう。

堂城さんが清十郎さんを見る。

清十郎さんは斜めに視線を逸らし、表情を歪める。

「莉菜の弟よ。酷な話だが、莉菜の遺体はバラバラにされておる」

意を決した顔で僕を見ると、そう言った。

「……そうですか」

「驚かんのか?」

「驚いていますよ。それに……」

と堂城さんが抱いている壺を見る。

「骨壷にしたって小さな過ぎるでしょう」

「うむ。入っているのは骨ではない」

ではどの部分が入っているのか。

さすがに聞くのは躊躇われた。

「姉は、どういった理由でそんなことになっているんですか?」

死体愛好にしたってあまりにも酷い有り様だ。

「呪術、魔術、あるいは秘術仙術占術神術……この世における様々な神秘な術のために莉菜の肉体は利用されようとしている」

「なんでそんなことに?」

「死に様の問題であろう。それほどに特殊な死に方をしておるのだ」

そう言われて、僕は異世界転生という言葉が頭に浮かんだ。

姉の魂は異世界に行った。

その経緯が、残された遺体になんらかの効果を及ぼし、オカルトマニアたちが垂涎する存在へと昇華させてしまったというのか?

「莉菜さんは、どんな亡くなり方を?」

「さて、それは私にもわからぬ。だが、特別な亡くなり方だ」

堂城さんの質問に、清十郎さんは首を振った。

蛇神の清十郎さんもわからないというのだから、ここではもうなにもわからないのだろう。

「わかりました。今日はもう帰ります」

「うむ。そうするが良い。そなたもう同胞だ。いつでも頼るがいいぞ」

「それはどうも」

「あっ、尾羽くん、この壺を持って帰って」

「いや、それは……堂城さんが持っていていいよ」

堂城さんが提案してくれたけど、僕は断った。

彼女の背後で清十郎さんがすごい顔をしていたからではない。

「ここなら、それに酷いことはしないでしょ?」

「そう……だと思うけど」

堂城さんは疑うように清十郎さんを見る。

「うむうむ、良い心根だ。これ」

一転して機嫌良くなった清十郎さんが声をかけると、後ろで襖が開き、立花さんが控えている。

廊下で正座している立花さんの隣に小さな木箱があった。

「持ち帰れ、それは莉菜の弟、そなたのだ」

「はぁ、どうも」

とりあえず木箱を受け取り、僕は堂城さんの屋敷を辞した。

帰りは立花さんが自転車を軽トラに乗せて送ってくれた。

「なにか困ったことがあったら連絡してきなさい」

そう言って、立花さんは電話番号を教えてくれた。

こうして僕は戻ってきたわけだけど……疲れた。

まさか、こんな話になるなんて。

思い付いて姉の遺体探しを始めてしまったけど……なんか面倒になってきたな。

でも、たぶん……やめないだろうな。

自分の性格を厄介に思いつつ、もらった木箱のことを思い出した。

机の上に置いたその箱は、ティッシュペーパーの箱よりちょっと小さいぐらいのサイズだ。

なんで蓋に穴が空いてるんだろう?

そんなことを気にしつつ、蓋を開けてみた。

中には赤い目をした白蛇がいて僕を見上げていた。