軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

英雄消失

「やあ、リュート」

王都から早馬で駆け続け帝都レンドへと到着したリュートは、大使館の入り口へとたどりついたところで、突然背後から聞き覚えのある声が彼を呼び止めた。

「アレックス……か。それで奴は?」

後ろを振り返ったリュートは、キツネ目の男性を視界に捉えると、険しい表情のまま端的にそう問いかける。

「僕もユイの仕事を肩代わりして戻ってきたところでね。でも、意識は取り戻したと今朝報告があったよ」

「そう……か」

予定を繰り上げて大使館に戻ってきたアレックスがそう告げると、リュートはわずかに安堵の溜息を吐き出す。

「取り敢えず中に入ろうか、リュート。彼を叱るにせよ、殴るにせよさ、彼の下に行かなければ話が始まらないからね」

「ああ……だが、お前からも釘を差してもらうぞ」

そのリュートの言葉に、アレックスは顎に手をやる。そして少し考えた後にゆっくりと口を開いた。

「例の魔法のことかい? 君の気持ちはわかるけどね……でも、ユイがあれを使わなければ、僕も正直いって打つ手はなかったかもしれない。それは勘案してあげてもいいと思うけど」

「それはわかる。あいつがリスクを覚悟して使ったことくらいはな。だが、誰かが釘を刺しておくべきだろう。お前はそうは思わないか?」

真剣な表情でリュートはアレックスへと同意を求める。

しかしそんな彼の姿に、アレックスはわずかに口元に笑みを浮かべた。

「ふふ……まあ、そうだね」

「何がおかしい?」

「いや、学生時代の君とユイの関係を思い出してね。ああ、そんな怖い顔をしないでくれ」

たちどころにリュートが不機嫌な表情となったのを見て取り、アレックスは苦笑いを浮かべてそこで口を閉じる。

「ふん。とにかくだ、奴を説教するためにも、中を案内してくれ」

「あ、リュートさん、アレックスさん。ちょっと、変なんです」

「変? 一体、どうしたんだい?」

ユイの部屋の前で立ち尽くしているフェルナンドに対し、アレックスは首を傾げながらそう問いかける。

「それが……意識は戻ってるはずなのに、ユイさんが全然部屋から出てこないんです」

「また意識を失ったのか?」

リュートは険しい顔つきになると、フェルナンドはその問いかけに対し首を左右に振る。

「いえ、それなんですが……どうも部屋に鍵がかかっていまして。なので合鍵も使ってみたんですが、どうも内側から部屋に入れないようにつっかえ棒のようなものを置いているみたいなんです」

「……どういうことだ。そう言えば昨日あいつは意識を戻したんだったな。昨日、あいつに何があった?」

「それが……」

フェルナンドは昨日意識を覚醒した際にユイと話した内容、そしてその時のユイの別れ際の様子が変であったことを二人へと告げた。

そのフェルナンドからの話を聞くに連れ、アレックスの表情から笑みが消え失せ、リュートの眉間には深い皺が寄る。

「……どう思う、リュート?」

「現状のレムリアックは既に実質ライン公の土地として、簡単には貴族院の思い通りにはならない。さらに今のクラリスはラインドルと同盟関係にあり、また南に位置する帝国はフィラメントを蹴散らすも、兵を一部失い疲弊している。そして共和国はいつもの万年政争中……か」

「うん、これはまずいかもしれないね」

「……どういうことです?」

一層険しい表情となったリュートとアレックスに対し、二人の会話を耳にしたフェルナンドは、恐る恐る問いかける。

「フェルナンド。今……そうたった今、クラリスから一人の英雄がいなくなったらどうなる?」

「はっ?」

リュートの突然の問いかけに、フェルナンドは虚を突かれたかのように呆けた返事を返す。

そのフェルナンドの反応を目にして、リュートの代わりにアレックスが口を開いた。

「もし今現在ユイがいなくなっても、少なくともクラリスはしばらく最低限の安定は保たれる状態にある。むしろ彼がいないほうが安定するといった方が正しいか。貴族院は王家派に対する攻撃材料を失い、帝国はクラリスに対する介入口実を失う。つまりそういうことさ」

「クソ、こんなときにあの馬鹿がとる行動なんてだいたい予想がつく。学生時代から全く進歩していないじゃないか、あいつは!」

アレックスの言葉を横耳に入れたリュートは、苛立ちの言葉を吐き捨てると、そのままユイの部屋の扉を蹴破ろうとする。しかし内側から相当量の物を押し当てられているのか、蹴りつけられたドアはびくともしなかった。

自らの足の感触から蹴破ることは不可能であると悟ると、彼は舌打ちを一つした後に魔法を編み上げ始める。

しかしそんなリュートの前に片手を突き出して彼を制したのは、ドアをまっすぐに睨みつけたアレックスであった。

「いいよ、リュート。僕がやるからさ」

その言葉を合図とするかのように、彼は腰の剣を抜き放った。

彼の剣光が一閃するや否や、そこに存在していたかつて扉であったものは真っ二つに切り裂かれ、ただの板切れとなり崩れ落ちる。

そして次の瞬間、部屋の内側に設置されバリケードとして使用されていたベッドなどの家財道具が、雪崩のごとく廊下へと崩れ落ちてきた。

「ユイ!」

剣を振るったアレックスより早く、リュートは崩れて散乱した家財道具を飛び越えると、部屋の中に駆け込んでいく。

しかしすぐに彼はその場に呆然と立ち尽くすこととなった。

「どうやら手遅れみたい……だね」

震える彼の肩に手を置き、アレックスは険しい表情のままそう口にする。

「……あの大馬鹿野郎」

無残に破壊された扉の先で彼等が目にしたもの。

それは主の存在しない部屋と机の上に置かれた三通の書き置き、そして開け放たれたままの窓であった。

こうして、ユイ・イスターツは歴史の表舞台から忽然と姿を消した。

この時の彼が取った選択が、この先の大陸の運命にどのような影響を与えるのか、この時点で知るものは誰一人いない。

やる気なし英雄譚 第一部 完