作品タイトル不明
たくさんの人々の声援を受け、堂々とクーデターをすることになりました。
「わっははは! お待ちしておりましたぞ!」
寄宿舎を出た僕達が馬車に乗って王宮へ向けてまだ暗い大通りを進む中、待ち構えていたドレイク師団長が声をかけてきた。
「えーと……ドレイク卿、王宮の包囲はいいんですか?」
「もちろんですぞ! 既に近衛師団が四方を取り囲んでおります! あとはハロルド殿下の号令でいつでもいけますわい!」
「そうなんですね、ありがとうございます」
馬上のドレイク卿に向けて、ペコリ、と頭を下げる。
「それより、暗くてよく見えないかもしれませぬが、王都の住民達も殿下を応援しようと、皆待ち構えておりますぞ」
「え……?」
ドレイク卿の言葉に、慌てて僕は目を凝らして周囲を見た。
うわあ……本当だ。住民達が、大通りの端に並んでいるんだけど。これじゃ深夜四時という時間を選んだ意味がないのでは……。
いやいや、それ以前にどうして住民達が僕のクーデターのことを知っているのか、誰か説明してくれないかな。
「ハロルド殿下の 此度(こたび) のクーデターは、正当なものでなければなりませぬ。我々軍人や文官、それにほぼ全ての貴族が賛同しているとはいえ、国の土台を支えているのは多くの民です。 新しき国(・・・・) を創る者(・・・・) として、彼等の未来を背負わなければなりませぬ」
ドレイク師団長の真剣なまなざしに、僕は思わず言葉を詰まらせてしまう。
今回のクーデターはエイバル王の悪政を 糺(ただ) すという大義名分を掲げてはいるものの、本音ではバッドエンドを回避して、サンドラや『大切なもの』達と幸せに暮らすという、自己中心的な理由によるものなんだ。
でも……ドレイク師団長があえてここでそう告げたのは、それだけ責任と覚悟を持って、この国を支えてほしいという願いが込められているんだろう。
クーデター後、僕がここから去ってしまうことを見据えて。
「……それは、宰相やオルソン大臣からの入れ知恵ですか?」
「いえ、これは我々全員の総意です」
「そうですか……」
『無能の悪童王子』である僕にそんな過度な期待をかけてくれることは嬉しくありつつも、どうしても複雑な気分になってしまう。
絶対に僕は、みんなの期待を裏切ることになってしまうから。
「わっははは! そういった難しい話は、全て終わってからにいたしましょう! とにかく、殿下は正面から威風堂々と入城してくだされ!」
「あ、あははー……」
とにかく、闇討ちまがいでクーデターを起こすことは絶対に無理だねこれ。
だったら最初から朝決行にしたのに。
まあいいや。今さらそんなことを言っても始まらない。
既に 賽(さい) は投げられたのだから。
◇
「デハウバルズ王国の正統後継者、ハロルド=ウェル=デハウバルズ第三王子殿下がまかり通る! 皆の者、構え!」
「「「「「はっ!」」」」」
先導を務めるドレイク師団長に続き、僕達の馬車がその後に続く。
王宮前で隊列を組んでいた近衛兵達は槍を高々と掲げ、僕達の馬車に向けて啓礼した。
しかも、ファンファーレまで鳴らし出したし。こんな時間に近所迷惑も 甚(はなは) だしいと思うんだけど……ま、まあいいのか。
だって。
「これさあ……王都中の住民が集まってない?」
「さすがはハル様です! 住民達からこれほどの後押しを受けておられるのですから!」
サンドラは真紅の瞳を輝かせ、そんなことを言っているけど、クーデターってこういうのじゃないよね? もっと敵に知られないように こっそり(・・・・) するものだよね? そうだよね? ね!
「こればかりは仕方ありません。今回のクーデターの実行に際し、あらかじめハロルド殿下の認知度と支持率を上げるために、宰相閣下やオルソン閣下などの文官の方々がかなり根回しをされておられましたから」
「ああー……」
ドレイク師団長もそうだけど、みんな色々とやり過ぎなんだよ。
人知れずエイバル王を退位させようと思っていた僕の計画をどうしてくれる。
「いいんじゃない? 遅かれ早かれ、ハルが王様をやっつけることは本当なんだもん」
「呑気に言ってくれるなあ……」
僕の肩で頬をすりすりさせてそんなことを言うキャスを、僕はジト目で見た。
仕方ない。もう割り切って受け入れるとしよう。
「ハロルド殿下、ご武運を!」
「ハロルド殿下、万歳!」
近衛兵や住民達からの声援を受け、僕達の馬車は王宮の城門をくぐると。
「「ハロルド殿下、お待ちしておりましたぞ」」
文官のトップである宰相とオルソン大臣の二人が 恭(うやうや) しくお辞儀をし、僕達を出迎えてくれた。
「宰相閣下、オルソン閣下、ありがとうございます」
みんなと一緒に馬車を降り、二人にねぎらいの言葉をかける。
「それで、他のみんなは……?」
「ご安心ください。昨夜のうちに全員退避させております」
「よかった……」
その言葉を聞き、僕は胸を撫で下ろした。
二人にお願いし、王宮に勤める者達に避難しておくように通達してもらっていたんだ。無関係な人々を巻き込みたくないから。
クーデターなんだから本当はそんなことしたら意味がないんだけど、まあ、それこそ今さらだよね。
「ならば王宮には……」
「はい、エイバル陛下しかおりません」
カーディスの問いかけに、宰相が答える。
さあ、あとはエイバル王と……いや、エイバル王 達(・) と直接対決……なんだけど。
「っ!? ハル!」
「来ます!」
僕は『漆黒盾キャスパリーグ』を展開し、みんなを背にして身構える。
そうだよね。そんなはずがない。
「ジャアアアアアアアッッッ!」
「ウウウウウウウウウ……ッ!」
「ヒヒヒ……」
王宮の建物全てにとぐろを巻く巨大な蛇と、玄関前に立ち唸り声を上げる漆黒の狼、それに闇に漂う全身が灰色の女の亡霊。
『世界大蛇ヨルムンガント』、『暗黒獣ヴァナルガント』、『地獄聖女ハリファ』の三体のレイドボスが現れた。