軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

専属侍女は『ノルズの民』の末裔でした。

「そうですね。あなたが」

「っ!? ご……ご、ぽ……」

さらにその背後で待ち構えていたモニカが、カスパーの喉笛にダガーナイフを突き立てた。

どこに現れるかさえあらかじめ予測できれば、モニカの実力なら仕留めることなんて造作もないんだよ。

【転移魔法】のスキルがあるからと、 驕(おご) ったことがオマエの敗因だ。

「さて……まだ息があるな」

「ヒュー……ヒュー……」

喉笛に風穴を開けられ、息を漏らすカスパー。

もうすぐ死ぬだろうけど、その前に聞いておきたいことがある。

「なあ。さっきオマエは『既に代わりを用意している』って言ってたけど、誰がその代わりを務めるんだ?」

こうやって僕を始末しに来たんだから、コイツの言葉どおり王都には僕の 代わり(・・・) である噛ませ犬がいるんだろう。

オーウェンのように隠し子として連れてくるつもりなのかもしれないけど、さすがに無理がある。

となれば、今いる王族を噛ませ犬に見立てることになる……んだけど。

「早く答えなさい」

「ギャブッッッ!?」

真紅の瞳を輝かせたサンドラに思いきりみぞおちを踏みつけられ、血と空気が逆流して喉と口から噴き出した。

【竜の寵愛】が発動している時のサンドラ、情け容赦ないな。

「……わ……たし、は……デハウ……バルズ、の……外道に負け、た……わけじゃ、ない……ノル、ズの民に……負けた、のだ……」

「? 何を言っているんだ?」

僕の問いかけに答えず、カスパーは訳の分からないことを言った。

いやいや、そんなことは聞いていないんだけど……って。

「ハロルド殿下、どうやら息絶えたようです」

「ええー……」

結局何も答えずじまいで、勝手に死んでしまったよ。

だけど。

「『ノルズの民に負けた』って、どういうこと?」

「さあ……」

「分かりません」

僕達は顔を見合わせ、首を傾げる。

つまりこれって、カスパーは仲間に裏切られたってことなのかなあ……。

「まあいいや。とにかく、僕の 代わり(・・・) がいるらしいから、どんな奴なのか王都に帰って見てやろうじゃないか」

「そうですね。ハル様に成り代わる不届き者を、この『バルムンク』ですり潰して差し上げます」

「私は目をくり抜き、鼻と耳を削ぎ落とすとしましょう」

……二人が怖いことを言っているけど、聞かなかったことにしよう。

「むう……っ! まさか、またもやこのシュヴァリエ家に諜報員が入り込むとは……!」

王都に帰り、僕達はマーゴとサラの件について報告すると、シュヴァリエ公爵は糸目を見開いて激怒し、机に拳を叩きつける。

あまりの威力に、かなり頑丈そうな机なのにあっさりへし折れたよ。

「バリー! これはどうなっているのだ!」

「は……も、申し訳ありません……」

床に綺麗なフォームで土下座するシュヴァリエ家の侍従長でモニカの父のバリーは、ただひたすら謝っている。

モニカは優秀だって分かるけど、僕の見た感じ父親のバリーはそんなに優れた諜報員って感じがしないなあ……。

「ハア……だが、こうなっては諜報員はおろか使用人に至るまで、誰一人として信用ならんな……」

一通り怒鳴り散らしたおかげか、落ち着きを取り戻したシュヴァリエ公爵は力なく椅子に腰かけ、深く溜息を吐いた。

「い、いかがいたしましょうか……改めて全員の素性を調査するか、あるいは全員解雇するか……」

「馬鹿なことを申すな! 素性を調べたところで、また同じ結果になるだけだろう! それに、全員解雇だと? 不可能に決まっているだろう!」

「も、申し訳ございません!」

今回が二度目の失態だから気が動転しているんだろうけど、やっぱりこの侍従長、かなり頼りない。

「それでハロルド殿下……マーゴとサラは、本当に王国の手の者だったのですか?」

「はい、間違いありません。ただし、もう一人の男はストーン辺境伯家の執事です」

「むう……っ」

僕の答えを聞き、シュヴァリエ公爵が 唸(うな) る。

やはり王国が相手だと、いくらシュヴァリエ公爵といえども面倒なことには変わりないか。

「……まさかあの家が、 今回も(・・・) 絡(から) んでいるとは……」

「え……?」

シュヴァリエ公爵の意外な言葉に、僕は思わず呆けた声を漏らした。

「実は一度目……つまりモニカの母親は、ストーン辺境伯家の諜報員だったのだ」

「「「っ!?」」」

僕とサンドラ、そしてモニカは息を呑む。

だけど、カスパーが死ぬ間際の言葉……『ノルズの民に負けた』というのは、ひょっとしてモニカのことを指していた……?

「……もちろん、ストーン家の諜報員の娘ではあるが、それ以前にモニカはアシュトン家の後継者だ。私としても、お前をどうこうするつもりは……」

「当たり前です。それ以前に、モニカは僕の専属侍女だ」

「っ!? そ、そうでしたな……」

シュヴァリエ公爵が言い切る前に、僕は低い声ではっきりと告げた。

モニカは誰にも渡さない。たとえシュヴァリエ公爵でも、彼女に何かするつもりなら容赦はしないのだと意思を込めて。

「とにかく、シュヴァリエ家のことが王国に筒抜けであった以上、絶対に 鼠(・) を見つけ出せ」

「は、ははっ!」

バリーは改めて床に額を擦りつけると、シュヴァリエ公爵の命に従い、すぐにこの場を去った。

「さて、僕達も帰ろうか。シュヴァリエ閣下、お邪魔しました」

「え、ええ。何かあれば、またいつでも来てください」

「ありがとうございます」

僕達はシュヴァリエ邸を後にし、寄宿舎……ではなく、王宮へ向かった。

どうしてかって? もちろん、僕の 代わり(・・・) とやらを見てやるためだよ。