作品タイトル不明
主人公が事情を説明しました。
「待ってくれ!」
僕の前に左手を出して言葉を遮り、オーウェンが大声で叫んだ。
まあ、コイツならこう出ると思ったよ。
「悪いけどこれ……俺に譲ってくれねえかな……」
「オーウェン」
「頼む! 俺にはどうしてもコイツが必要なんだ! そのためなら、何だってする! だから!」
席から飛び降り、オーウェンは床に額を擦りつけて懇願する。
オーウェンと初遭遇してから、僕は一体どれだけの土下座を見ただろうか。そろそろ飽きたよ。
「勝手なことを言うな。この『聖者水瓶アクエリアス』はオーランド卿の所有物だぞ」
「だけど、オーランド卿が言ったじゃねえか! 国王陛下が『宝の処遇についてはハロルドとオーウェンに委ねる』って指示したと!」
「それは……」
「なら! こいつの使い道を、俺が決めても問題ないってことだろ!」
あーもう、馬鹿のくせに珍しく頭が回るじゃないか。
考えなしってことには変わりないけど。
「馬鹿を言え。お前が使い道を決めるってことは、それに対する対価をオーランド卿に支払わないといけないんだ。お前にそれができるのか?」
「そ、それは……」
「無理だろう。第四王子になったからって、自分で自由にできる予算は限られているんだ。言っておくが、そんなもの程度で賄えるような代物だと思うなよ」
「う……」
ちょっと 辛辣(しんらつ) な言葉を投げている自覚はあるけど、コイツはまだ王子というものがどういうものか……というより、自分に何ができて何ができないのか、分かっていないからね。
そのあたりのことをちゃんと 分から(・・・) せないと(・・・・) 、エイバル王達にいいように利用されてしまうおそれだってある。
何せ、オーウェンは『エンハザ』の主人公なのだから。
「そもそもお前はこれを使って何を……って、そんなことは どうでも(・・・・) いい(・・) か」
「っ! 『どうでもいい』ってなあどういう意味だコラァッ!」
「そのままの意味だよ。お前にどんな思惑があるか知らないが、どうせ自分のものにできない以上、知ったところで意味はない」
「まあまあ、二人とも落ち着いてください。オーウェン殿下がこのお宝に並々ならぬ思い入れがあるようですが、ハロルド殿下がおっしゃったように無償で譲るわけにはいきません。なら、これをカジノの景品にして、その上で入手いただいたほうがよろしいかと」
まあ、順当だね。
『聖者水瓶アクエリアス』の所有者はオーランド男爵だし、どのように扱うかの最終決定権は彼が持つべきだ。
それに、景品ということならオーウェンにも手に入る可能性はある。
ただし、そこまでコインが稼げるか、だけど。いや無理だろ。
とはいえ。
「国王陛下より『聖者水瓶アクエリアス』の取り扱いをどうするか、僕達に委ねられていることも事実。物が物だけに即答はできませんので、少々お時間をいただいてもよろしいですか?」
「もちろんです。ただし、それまでこのお宝についてはご内密に」
「承知しました」
今日のところは、これ以上オーランド男爵と話をすることはなさそうだ。
日を改め、また来るとしよう。
「ほら、いくぞ」
「…………………………」
土下座をするオーウェンを半ば強引に立ち上がらせ、僕達はVIPルームを出た……んだけど
「……見損なったぜ、兄貴」
「何がだよ」
うつむきながら悪態を吐くオーウェンに、僕は眉根を寄せて返事をする。
「決まってるだろ! アレがあれば、どれだけの人々が救われると思ってんだ!」
「なんだお前、『聖者水瓶アクエリアス』を使って人助けでもするつもりだったのか?」
「そ、そんな大層なモンじゃねーけどよ……」
いや、自分から絡んでおきながら、何を照れてるんだよ。
「その……兄貴も知ってのとおり俺は貧民街の出で、あそこでは人の生き死にがどんなところよりも軽いんだ」
オーウェンが頭を掻きながら、 訥々(とつとつ) と話し始めた。
といっても、要は貧民街の住民なんかには治療にかけられるお金もなく、怪我や病気になれば死ぬことだって珍しくないということらしい。分かっていたけどね。
実際、オーウェンの奴も幼い頃に知り合いを亡くしたらしく、何もできない己の無力を呪ったとのこと。
それもあってオーウェンは強くなることを決意し、気づけばまだ十六歳ながら貧民街でもそこそこの存在にのし上がったんだとか。
「……だからもし『聖者水瓶アクエリアス』があれば、貧民街の連中も悔しい思いをしなくても済むんじゃないかって」
「そっか」
重苦しい雰囲気には相応しくない、それはもう軽い調子で僕は返事した。
「なら、なおさらお前に『聖者水瓶アクエリアス』を渡すわけにはいかないな」
「っ! なんでだよ!」
「どうせ説明したところで納得しないだろ。とにかく、僕は反対だ」
「ちょ!? 兄貴!」
叫ぶオーウェンを置き去りにし、僕はサンドラ達と一緒にカジノを後にした。