軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妻が第四王子の師匠になりました。

「でしたら、拳で語ればよろしいのではないでしょうか」

「「っ!?」」

現れたのは、月明かりに照らされ、瞳を紅く輝かせてクスリ、と微笑むサンドラだった。

というか、僕の妻が物騒なことを言っているんですが、どうすればいいんですかね?

「ア、アンタは……」

「口を謹んでください。それで、オーウェン殿下はリリアナさんを振り向かせたいのですよね?」

「お、おう」

「なら、殿下がリリアナさんに挑めば、否応なく彼女も受けてくれるでしょう。そして、オーウェン殿下というお人柄を、その拳で示せばいいのです」

「! そ、そういうことか!」

オーウェンが何か分かったようなことを叫んだけど、女子生徒と拳で語るなんて、普通にあり得ないだろ。リリアナだって元平民とはいえ、貴族令嬢だぞ。

「分かったのなら、何をすべきかよくお考えなさい。今の殿下が、果たして彼女の前に立つに相応しいかどうかを含め」

「お、おう! そのとおりだ! こんな半端モンの俺が、リリアナ嬢の前に立てるはずがねえ! ならやることは一つ! 俺が強くなって、認めてもらうだけだ!」

「よろしい」

繰り返すけど、この世界は『エンゲージ・ハザード』。恋愛スマホRPGであり、決してヤンキー漫画やバトルものなんかじゃない。

なのでこういう世界観が壊されるようなノリはやめていただきたいんですけど。

「あ、ありがとう……アンタ……」

「ハロルド殿下……ハル様の妻、アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエです」

礼を言うオーウェンに、サンドラは優雅にカーテシーをしてみせた。

「アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエ…… 師匠(・・) ……」

え? 『師匠』?

「ありがとうございます! きっと俺、リリアナ嬢を振り向かせてみせます!」

深々とお辞儀をし、オーウェンは会場である講堂へは戻らず、意気揚々とどこかへ行ってしまった。

「サ、サンドラ?」

「ふふ……単純で扱いやすい男ですね。ハル様とは大違いです」

遠ざかるオーウェンを見つめ、サンドラが 嘲笑(ちょうしょう) を浮かべる。

どうやら彼女、メッチャ適当なアドバイスをしたみたい。だよね、さすがにアレはないよね。

「ですが、これであの男もしばらくはリリアナさんに 絡(から) んでくることもないでしょうし、仮に勝負を挑まれても、彼女が負ける要素はありません」

「あ、あははー……」

ま、まあ、リリアナのためと思えばよかったのかもしれないけど、これはこれでオーウェンが少し可哀想。

「せっかくのパーティーで、私とハル様の二人だけの時間を奪った 報い(・・) を受けなさい」

そう言うと、サンドラはニタア、と口の端を吊り上げた。

僕のヤンデレ妻は、ほんの僅かな時間を奪われることも許せないようです。

「待ってください。先に誘ったのは僕ですよ?」

「いや、私のほうが早かった」

サンドラと会場内に戻るなり、リリアナの目の前で言い争っている男が二人。

ラファエルとカーディスなんだけど、どうやら彼女をダンスに誘ったっぽい?

「ハア……今度はコッチかあ……」

二人の様子を眺め、僕は思わず顔を覆った。

いやでも、好感度が同じくらいの攻略キャラがパーティーの場で主人公を奪い合う展開……乙女ゲーム的には普通にあったりするのだろうか?

だとしたら、これはこれでイベントの一つなんだと割り切って、僕は放っておくことにすれば……はい、主催者だから無理ですよね。だからみんな、僕を見ないで。

「あー、コホン。二人とも、他の生徒達も見ておられますので、口論なら別の場所で……」

「ハロルド、いいところに来た。お前なら分かるだろう? 今日のファーストダンスは、僕が相応しいことを」

「何を言う。それならば長兄であり第一王子の私こそが相応しい。常識あるハロルドもそう思っているはずだ」

「ええー……」

個人的にはどちらが先でも別にいいじゃないかって思うけど、これ、僕がリリアナのダンスの相手を決める流れになってる。メッチャ困る。

なお、本来は主催者である僕が妻のサンドラとファーストダンスを務めるのが正解です。いや、いいんだよ? 今日のパーティーでは、僕は裏方に徹するって決めていたから。

「えーと、それでリリアナはどう……ああ、ハイハイ。聞いた僕が馬鹿だったよ」

「ふぁい?」

リスのように口の中にお肉を詰めて頬張るリリアナを見て、僕はこめかみを押さえてかぶりを振った。

彼女にも『ガルハザ』の主人公であることを認識してほしいところだけど、その事実を知っているのは僕だけだし、肉食系女子のリリアナにそんなことを求めても無駄なことは、僕が一番よく知っているじゃないか。チクショウ。

「そ、そのう……例えばですが、ジャンケンで決めるというのは……」

「リリアナに対してそんな失礼な真似、できるはずがないだろう」

「そうだぞハロルド。彼女は景品なんかじゃないんだ」

こんな時だけどうして息ピッタリなんだよ。二人が揉め事を起こしているから、僕がこんなに骨を折っているというのに。

何より、リリアナとのきっかけを作れってお願いしてきたの、ラファエルだってことを忘れてるんじゃないかな。僕は場所までは用意したけど、そこから先までは知らないよ……って。

「リリアナ?」

「モグモグ……ごくん。私、ハルさんとだったら踊っていいですよ」

「「っ!?」」

どうして君は、ここで僕をさらに窮地に立たせるかなあ……。