作品タイトル不明
弟から恋の悩みを打ち明けられました。
「オマエ! リリアナ嬢に対してさっきから失礼だぞ!」
ええー……僕が二人を止めようとした矢先に、オーウェンと数人の攻略キャラがロイドに絡んできたんだけど。メッチャ迷惑。
「え、ええと……オーウェン殿下、でよろしかったですよね……?」
「そうだ! なんでオマエみてえな奴が、馴れ馴れしく彼女に口きいてやがる!」
もはや育ちの悪さを微塵も隠そうとしないオーウェンは、唾を飛ばしながらロイドに突っかかる。
ロイドもどうしていいか分からず、僕とリリアナを交互に見てくるよ。
「いいか! 金輪際リリアナ嬢に近づくな! さもなきゃ、この俺が黙っちゃ……」
「私が誰と話そうが、どうしてオーウェン殿下が決めるんですか」
「っ!?」
リリアナの底冷えするような声に、ロイドの胸倉をつかむオーウェンは顔を真っ青にさせた。
そういえば、一応はオーウェンも王子ではあるのに、リリアナの態度って王子に対するそれじゃないよね。怖い者知らずっていうか、入学当初とは大分違うよ。
「オーウェン殿下」
「は、はい!」
「私の友人は、私が決めます。勝手にのこのこと現れて、そんなこと言うのは絶対にやめてくださいね?」
笑顔ではあるものの、その威圧感と有無を言わせない視線と声に、オーウェンはただ冷や汗を流しながら頷くしかない様子。
よくよく考えれば、あの年末試験でも双頭獣オルトロスや九門蛇ヒュドラをほぼワンパンだったからなあ……まだ主人公になったばかりのオーウェンでは、実力が追いついていないのかもしれない。
……そういえば、オーウェンもウィルフレッドに代わって主人公に選ばれたわけだけど、その強さってどうなっているんだろう? 今度、モニカに調べてもらおう。
「ふう……せっかくの美味しいお肉が台無しですよ。そうですよね、ハルさん」
「そ、そうだね。ところで、リリアナはすごいね。一応アイツも、この国の第四王子なのに物怖じしないっていうか……」
「当然じゃないですか。そもそもハルさんと一年も一緒にいれば、誰だってこうなりますよ。それに……世の中には、王族よりも恐ろしい方がいるんです」
一瞬だけサンドラをチラ見し、リリアナは慌てて視線を逸らす。
なるほど、彼女にとってサンドラが一番怖いってことか。『ガルハザ』の主人公すら恐怖する僕の妻……絶対にモブじゃない。『エンハザ』では押しも押されぬモブなのに。
「そんなことよりロイド、ちゃんとお腹の中のものは吐き出しましたか?」
「まま、待て! 暴力反対!」
「問答無用!」
「げぼあッッッ!?」
憐れロイドはリリアナの腹パンを食らい、会場の床にもんどり打って倒れた。
でも、ちゃんと胃の中のものをリバースすることだけは耐えたみたいで、ちょっと褒めてあげたい。
◇
「ふう……面倒だなあ……」
リリアナ達の傍を離れ、僕は講堂の外に出て深く息を吐く。
元々、今日のパーティーは『ガルハザ』の攻略キャラがどれくらいリリアナと関わっているのか、それを確認することが目的の一つではある。
だけど、カーディスやラファエル、それにオーウェンも含めて二十人近くは少なくともリリアナの好感度が『好意』以上になっている気がする。いや、気のせいであってほしい。
別にリリアナが悪いわけじゃないんだろうけど、こう無自覚に攻略キャラとの好感度を上げられると、僕がそれに対処しなければいけなくなるんだよ。面倒。メッチャ面倒。
などと考えていると。
「よ、よお……」
バツの悪そうな表情で現れたのは、オーウェンだった。
というか、コイツはどうして 絡(から) んでくるかな……と思ったけど、ちょっと様子が違うな。
「どうした? こんなところで僕に話しかけるより、会場内にいたほうがいいんじゃないか?」
「いや、そう……なんだけど、よお……」
「なんだよ、歯切れが悪い物言いだなあ」
「う……」
僕がちょっと顔をしかめてそう告げると、オーウェンは困った表情を浮かべ、しばらく沈黙が続く。
いや、本当に何がしたいんだよ。
すると。
「あ、あの! オ……オマエはリリアナ嬢と仲がいいんだよな!」
「な、なんだよ急に……」
「だったら! どうすればあの子と仲良くなれるか、教えてくれ! 頼む! このとおりだ!」
「うわっ!?」
オーウェンは勢いよく土下座し、必死に懇願する。
え、ええー……主人公が噛ませ犬に対してこんな土下座スタイルを敢行していいんだろうか……。
「俺……俺、貧民街育ちで、自分に白い目を向けてくる連中はいつもこの拳で黙らせてきた! だけど……俺、リリアナ嬢にも同じように分からせようとしたら、逆にボコボコにされて……」
……これは何があったのか、リリアナに問い 質(ただ) すことにしよう。
「だ、だけど、貧民街でも俺に勝てる奴なんていねえっていうのに、彼女にはあっさり負けて、こんなことは初めてで……気づけば、その……リリアナ嬢のことで頭がいっぱいになってて、胸が締めつけられて……」
あれえ? おっかしいなあ……。
『ガルハザ』って、こういう乙女ゲームだったっけ? まるでヤンキー漫画みたいになってる気がするんだけど。
「なあ、頼むよ! 俺は彼女と仲良くなりたいんだ! でも、俺はぶん殴ることしか知らなくて、全然分かんねえんだよ! どうか、このとおりだ!」
「ハア……」
地面に額を 擦(こす) りつけるオーウェンを見て、僕はただただ溜息を吐いた。
その時。
「でしたら、拳で語ればよろしいのではないでしょうか」
「「っ!?」」
現れたのは、月明かりに照らされ、瞳を紅く輝かせてクスリ、と微笑むサンドラだった。