作品タイトル不明
94.教会侵入編 ~その3~
94.教会侵入編 ~その3~
「お前たちなど俺の敵ではないのは当たり前のことだ。そもそも雑魚の出る幕ではない。さあ、さっさと門を開けると良い。これは命令だ」
俺は自分の勝利を信じ、そう命じた……のだが。
『ぐわああああああああああああああああああああああああああ』
断末魔の悲鳴を上げながら、ミイラが更に干からびてゆき、ついには 塵(ちり) になってしまった。
「あれ?」
えーっと……。
「倒してしまうつもりではなかったんだがな……」
思ったよりも弱くて、またやり過ぎてしまったようだ。
(優れ過ぎているというのも考え物だな)
俺は嘆息する。
地面に咲いた美しい花々を眺める。
― 黒花(ブラックリリィ) ―
呪いを吸い込み浄化する聖なる花。
アンデッドや呪われた存在に切り札となるものだ。
だが、その稀有な特性と、何よりほとんど世界に存在しないことから、『ウルトラ・レア級』のアイテムと言われている。
「俺でなければこれほど多くの 黒花(ブラックリリィ) を所持することは不可能だろう……と言いたいところだが」
俺は鼻をかく。
いや、正直嘆息した。
「せっかく集めたというのに」
別にここで使うつもりではなかったのだ。
この花たちは俺が超個人的な思いから 偶々(たまたま) 持っていたに過ぎない。
あのバシュータにも少し手伝ってもらって、やっとだったのだが……。
「ま、もう遅いか。それに持っていたとしても、本当に有効活用出来ていたか分からんしな」
そう自分を納得させるように呟いた時である。
「あら、ではアリアケ君は、本当は何に使う予定だったのかしら?」
「なんだ、やはり俺が侵入したことに気づいていたのか」
その女性は、この異常な空間にあって、何ら 声色(こわいろ) を変えずに、微笑みながらやって来た。
「大教皇リズレット・アルカノン?」
俺の言葉に、
「もちろんよ。大賢者アリアケ・ミハマ君。そしてようこそ、教会の心臓部へ。いいえ」
リズレットはやはり微笑みながら、
「教会の始まりの場所へようこそ!」
彼女のその言葉と同時に、ミイラの消失した扉が独りでに開き出した。
そして、その奥には、
「これは……」
さすがの俺もその光景を一瞬では理解できなかった。
いや、脳が拒否したというべきなのかもしれない。
なぜなら、
「女性……ブリギッテ教徒か?」
扉の向こうには広大な海のような空間と、そこに浮かぶ魔法陣があった。そして、その魔方陣の中央には一人の女性が祈りを捧げるようなポーズでかしずいている。
美しい金髪と青を基調とした聖衣。まるでどこかで見たような……。
「ブリギッテ教徒ではないわ。でも惜しいわね」
「どういうことだ?」
俺の言葉に、彼女は頷いて、
「彼女がブリギッテだからよ」
なに?
この俺をして、一瞬理解が追いつかない。
「彼女こそがシスター・ブリギッテ。ブリギッテ教の始祖にして、張本人。この地獄につながってしまったアビスを300年間封印してきた最初の大聖女だからよ」
そう言ったのだった。
「あれが、ブリギッテ本人だというのか?」
にわかには信じられない。
だが、
「300年。あの状態のままこの地で封印しつづけているというのか。人の天敵である アレ(・・) を」
「さすが察しがいいわ。そういうことよ」
彼女は頷き、
「300年前。この地底に地獄との門が開いてしまった。その原因は 星辰(せいしん) が不吉な十字を刻んだからとも、ソイツらの気まぐれだとも言われている。ただ、確実に言えるのは、とにかくソイツらは現れた。そして、その邪悪な存在は種族を問わずあらゆる生き物に害をなした。当時……」
彼女はスラスラと続ける。
「人類に一人の天才少女がいた。結界を操る術に長けたその少女は、同時に心優しい存在でもあった。異種族とも……それがドラゴンであろうとも心を通わせることができた」
「それは凄いな。普通ドラゴンは気性が荒い」
「何でも『殴り愛』とかいう方法で、どんな種族でも……。特に気性の荒い種族ほど仲良くなれたそうよ」
「……」
それがブリギッテ教が筋肉を信奉する理由だったりしないだろうな……。
「当時も今も最強と謳われたゲシュペント・ドラゴンは最初アビスごと破壊することを提案した。でも聖女はそれを拒んだ。どうして拒んだのかは不明。ただ、結果として彼女は自分が大結界を張り続け、アイツらの侵入を防ぐ盾の役割を果たすことを望んだ。盟友だったドラゴンは怒ったらしいけど、最終的には盟約を結んで、山へと帰っていった。ただ、いつか必ず助けに戻ると言ったとも伝わっている」
「そうか……」
シャーロット王はもしかすると、ブリギッテを助けたかったのかもしれない。
自分を犠牲にしようとして怒ってくれる存在を、友達というのだから。
「ところで俺からも一つ聞いてもいいか、リズレット」
「いいわよ」
瘴気の元であるアビスに、俺たちだけの声が響く。
「この教会はアビスの上に立っている。しかも非常に高くそびえたっている。その理由はなんだ?」
「観光していたと聞いてたけど、それを確認していたわけか」
さすが、と呟いてから、
「大聖女ブリギッテですら、瘴気が漏れ出すことまでは防げなかった。ここに教会を建てたのは、大聖女を守るための要塞の役割を持たせるため。ただしもう一つ理由がある。それはこの瘴気を薄めてから外部へと排出するため」
「そういうことか。煙突のようだから、そんな理由かとは思っていた」
ニコリとリズレットは微笑む。
「この腐った地獄の空気をそのまま垂れ流すと、どうなるか分かる? アリアケ君」
「さてな。だが推測するだけならいくらでも推測は出来る。そうだな、例えばフォルトゥナのような『現象』が発生するのではないか?」
「その通りよ」
面白みがないわね~、とぼやく。
「アビスから出てこようとしているコイツらは、生き物ではなくて『現象』のようなもの。『不幸』という現象。『欲望』という現象。『加害』という現象。人を蝕んで不吉な結末をもたらす災害の名前。精神が弱い者、満たされない者ほど、ソレに魅入られやすい」
勇者ビビア・ハルノア
拳闘士デリア・マフィー
魔法使いプララ・リフレム
ポーター、バシュータ・シトロ
「やれやれ」
俺はため息をつく。
話に納得がいったから、ではない。
更に憂鬱な質問をもう一つせねばならないからだ。
「なぁ、大教皇リズレット。ブリギッテの話を聞いていると、俺は一人の幼馴染のことを思い出すんだが……」
大聖女と呼ばれ、有史以来の最上位の聖女と称えられ、大結界と蘇生魔術を使いこなす彼女。
「最近フォルトゥナのような現象が聖都で頻発しているとあなたは言っていたな」
「言ったわね」
「それはブリギッテの結界が弱まっているからだな?」
「……」
彼女は答えない。
「お前は魔力の弱まりつつあるブリギッテの代わりに、アリシアを生贄にするつもりなのか?」
そう。
「アビスから悪魔が出ない鍵の役目を彼女にさせるつもりなのか?」
それを俺に手伝えというのか?
「そのために俺をここに連れて来たのか?」
スッ……。
「答えろ、 序列第2位(・・・・・) リズレット・アルカノン!」
俺は自然と杖を手にしながら、大教皇リズレットと対峙したのだった。
そうこの教会の序列1位は永らく空位であった。
その理由はずっと秘密とされてきたが……。
しかし、それがなぜなのか。
今ならば自明のことだ。
なぜなら、始祖ブリギッテその人が、生きているのだから。
序列一位はブリギッテでしかありえない。
そんな伝説の息づく場所で、まさに俺たちは対峙するのだった。