作品タイトル不明
214.地獄に垂れた赤い糸
214. 地獄(アビス) に垂れた赤い糸
「なんか小指を触られた記憶はあるけど、赤い糸だなんて聞いてねーよ!」
「はぁ、言っていませんでしたか? ですが、男女の小指同士に決して切れない運命の 赤い(魔力の) 糸をつないだとすれば、それはもう神前式として契りを約束したようなものなのですが……」
「何て押しつけがましい神! てか、お前そんな性格だったのかよ!?」
「まぁ、あまりしゃべらないようにしていましたので。まぁ、それよりも」
ピノ。
いや、ワイズ神の 欠片(かけら) 。
おそらく、人のみならず地上に済む人類全体を救いたいという、ワイズ神のもう一つの意識なのだろう。
それが、口を開く。
「行くのですか? 行かないのですか? 今ならば、地獄の中に取り込まれたルギ君の居場所は、その赤い糸をたどれば分かるはずです。あとはあなたの気持ち次第」
「いやいやいや!」
赤面しながら。
世界の命運がかかる局面ながら、どうしても赤面せずにはいられないフィネが、叫ぶように言った。
「無理だろ!? どう考えても!? 地獄の中だぞ!? あのフェンリル先生ですら、地獄の炎に触れたら命が危ないくらいだってのに。あたし程度じゃあ」
しかし、ワイズ神はそんなフィネを見て、パチクリと目をしばたたかせると、
「そこにヒトの絆を信じる大賢者がいるじゃないですか。そんな彼が男女の仲が裂かれるのを見過ごすことがあるでしょうか? いやない」
「勝手に話を進めるな。ピノ」
俺は呆れれながら言う。
だが、口元は微笑んでいたであろう。
何せ、
「うちの学校は校内恋愛は禁止じゃない。好きにするといい。それに、こういう時、ルギのような奴を救う奴は決まっている」
「ふむ、まったく同感です」
俺とピノは口をそろえて言った。
「「ああいう気難しい男には、フィネのような姉さん 女房(恋人) が必要だ」」
「な、なんだよ、それ~」
ますます赤面しながら、フィネは口をパクパクとする。
「なんだもこうもありませんとも。フィネ。はあああああ!!!!」
「そうだぞ、フィネ。さっさと行ってこい。お前にありったけのスキルをかけてやるから、なっと!!!」
俺とピノは暴走する影たちを、迎撃しながら言う。
「ちょっと、もう限界ですわ! 痴話げんかは戻ってきてからしたらいいじゃありませんか!」
「そうだよ! じれったいんだよね、エルフから見ても。さっさと連れて帰ってきて付き合えばいいじゃない!」
クラスメイトたちも言う。
というか、
「旦那様、そろそろ、限界じゃ」
「聖槍で地獄の門を一時的に切り開きます!」
「影の迎撃陣形は我を中心に組み立てるが良い。1分はもつであろ」
賢者パーティーの面々も口を開く。
「だそうだ。どっちにしても、お前が行ってくれないと全滅だな」
「そ、そんな! でも、あたしなんかがこの星の将来を担うなんてっ……!」
俺は微笑みながら首を振った。
「いや」
そうじゃない。
「逆なんだ。フィネ。ルギを救うのはお前とあのバカとの絆だ。そして、そうじゃなければいけない」
「え?」
フィネが首を傾げた。
「 邪神(宇宙癌) は去った。だが、遥かな未来、次の邪神が来る可能性は高い。地獄の門だっていつ開くか分からない。大陸に住まうヒトビトの関係もどうなるか分からない」
だからこそ、
「ワイズ神の片割れは人を頂点とした力による統治の可能性を模索した。俺は、地上に住まうすべての生き物が力を合わせて星の未来を作る可能性を選んだ」
「つまり先生は……」
ああ、と頷く。
「人魔同盟学校は、そのために作った。力ではなく、単なる絆。もっと言えば種族など関係なく、友達同士が助け合える仲になれるようにと。お前にとって、ルギは何だ?」
「大事な友達だ」
間髪入れずに、フィネは答えた。
俺は頷き、
「それだけの理由があれば十分だろう?」
「ああ、そうだな」
フィネは納得したように大きく頷くと、闘志を目に浮かべた。
「友達を助けるのに、理由はいらねーよな!!」
彼女の言葉を聞くのと同時に、俺は賢者の杖をかざした。
彼女が地獄の深淵でも生存できるだけの、十分な支援スキルをかけるために。