作品タイトル不明
213.暴走
213.暴走
「認めない! 絆で人が救えるわけない! そんなあやふやなものでっ……! 力がなければ大切なものは守れないんです!」
「何度やっても同じだぞ。なんだったら……」
俺は続きを言おうとする。
しかし、ルギの様子がおかしい。
「そうか。最初からこうすれば良かったんですね」
彼はそう言うと、
『グシャリ!!』
自分の心臓部分に当たる個所を、自らの手でえぐる
「おいルギ! あんた何してんだよ!?」
フィネが悲鳴をあげるが、ルギは淡々とした様子で、
「僕が弱いから、みんなを守れない。それなら、僕を供物に、新たな神をまた誕生させればいいんです」
「神などそう簡単に生み出せるものではないぞ、ルギ!」
俺は舌打ちをして彼に駆け寄る。
「先生、ここは 地獄(アビス) とつながっています。なら、僕を依り代に出来る存在もきっといますよ」
「悪魔を取り込む気か。だがな……」
かつて戦った悪魔フォルトゥナのことを思い出す。
あの時は、聖都『セプテノ』が1日で崩壊しかけ、数日で『世界』が終わるところだった。
「うああああああっ!」
「ルギ!! うお……」
ルギの気配が変わる。と、同時に、暴走するかのように、影が暴れはじめた。
周囲を無茶苦茶に破壊し始める。
「ルギ! うひゃあ!?」
「早く乗って! フィネ!」
「旦那様は儂の方へ!」
「キュールネー、サンキュー! くっそ、ルギのやつ、めちゃくちゃしてんじゃねーよ!」
ルギの特性はあらゆるものの吸収。ゆえに、その体は神の依り代として選ばれた。
そして、今はその体をより力ある存在に明け渡そうとしている。
それも地獄の 窯(かま) が開いた状態で。
だが、悪魔はそう簡単にアビスから出てくることは出来ない。
聖都『セプテノ』に意図的に開かれた『門』のような、 フォルトゥナ(捕食の悪魔) のような膨大な『概念』が出入りできるほどの扉を作るのは、誕生したての神には不可能なのだ。
ゆえに、流れ込んでくるのは、地獄の窯より湧き出る『呪いの力』のみ。
それがルギの体をのっとろうと、彼の体を 蝕(むしば) み始める!
「ルギ! ルギ!」
フィネが必死に呼びかける。その声に、ルギは彼女の方を見た。
「フィネ」
「ルギ! 馬鹿馬鹿馬鹿! あんぽんたん! そんな訳わかんないもんに憑りつかれてないで、さっさとこっちへ」
来い!
そう言おうとするフィネに向かって、彼は微笑んだ。
「フィネ……。ありがとう。君を守れるようなヒトに、僕はなりたかった」
「ルギ! あたしはっ……」
フィネが何かを言いかける。
だが、その瞬間、
『ブワリ!!!!』
暴走した影が、その宿主であるはずのルギ自身を取り込んだ。
もはや、呪いに侵されて暴走した影自体が破壊の衝動を持ち、自律的に周囲を破壊し、呪い、崩壊させる存在となっている。
「ルギを助けないと! あと、あの呪いもとめて! そんでもって、そんでもって! ああ、もうどうすりゃいいんだよ!」
フィネが頭をかきむしって焦る。
と、そこへ。
「落ち着いて、フィネ」
彼女の肩をポンとたたいたのは、
「へ?」
「愛する男性を助けたい気持ちは分かります。ですが落ち着いて。でなければ百戦危うからず、です」
そうはっきりした口調で言ったのは、
「ピノ」
彼女は凛々しく微笑む。だが、
「誰が愛する男性、だよ! べ、別にあたしは、そ、そんなんじゃ、ねーし!!!」
「おや、そうなのですか? いえ、私もヒトの営みにはうといもので」
そんなやりとりが交わされるのであった。
やれやれ。
俺はコレットの背にのりながら、ピノたちへ言う。
「ピノ……。いえ、ワイズ神様。朴念仁なんですよ。彼らは。それよりも、切り札は最後までとっておくものです。そして、今がその時では?」
そんな俺の言葉に、
「ほう、大賢者。あなたがそれを言うのですか……。まったく納得がいきませんが、まぁいいでしょう」
彼女は半眼になってから、改めてしっかりとした調子で、
「フィネ。ルギの小指とあなたの小指に『赤い糸』を結んだ儀式を覚えていますか?」
そう言って優しく微笑んだのであった。