軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80.鑑定士、領民たちから英雄と認定される

鑑定士アインによって、イオアナが完全撃破された数日後。

魔界。

魔王城の会議室にて。

円卓を囲むのは、エキドナ、そして11人になった上級魔族たち。

「まったく、あの阿呆が! 最期まで我ら上級魔族の名前に泥を塗りよって!」

魔公爵ゴーマンが、憤怒の表情を浮かべる。

他の魔公爵たちは、侮蔑、嘲笑を浮かべていた。

「つーか3回も負けるってさ。どうしてあんなのが公爵になれたんだか」

「イオアナには我らと肩を並べる実力はなかったということか」

「あんなやつが負けても、僕らの格が落ちることはないよ、ゴーマン」

誰一人として、イオアナの死を悼んでいるものはいなかった。

「エキドナ様! 次はこのゴーマンめが、アインを倒して参ります!」

最年長の公爵、ゴーマンが、高らかに宣言する。

「ええ、ゴーマン。あなたの活躍、期待してるわ」

「ありがとうございます! 魔公爵の名に恥じぬ蹂躙劇をお見せいたしましょう!」

ゴーマンは立ち上がる。

「非魔族のサルめ! 今はせいぜい調子に乗っているが良い! 本物がどういう物なのか、貴様に教えてやる!」

「とかいって、イオアナみたいに負けちゃったりして~」

公爵の一人が、茶化すように言う。

「はっ! 我とあの未熟者を一緒にするでない! 我は何があろうと絶対負けぬ! 【絶対不敗のゴーマン】の名にかけて!」

凶悪な表情を浮かべると、ゴーマンは会議室を出て行った。

「今日の会議はここまでにしておきましょう。みんな、また次の会議まで息災にね」

公爵たちは全員出て行き、あとにはエキドナだけが残される。

「…………」

エキドナは懐から、赤い宝玉を取り出す。

それは、イオアナに埋め込んだものだった。

そして、もう1つ同じ物を、テーブルの上に置く。

今度はゾイドに埋め込んだもの。

「これで2つ。首尾は上々。……もう少しよ、ミクトラン」

エキドナは、まるで恋する乙女のような表情を浮かべる。

「器は着実に完成しつつある。あなたとこの地で、再び相見える日は……そう遠くないわ」

宝玉を回収すると、エキドナはその場から、音もなく消えるのだった。

俺がイオアナを完全撃破した、翌朝のことだ。

領主の館の2階、俺の部屋にて。

「アイン様。おはようございます」

「おはよう、ミラ」

獣人メイドが、ベッドサイドに立っていた。

「アイン様、お食事の前に、少々、お時間よろしいでしょうか?」

「ああ、いいぞ。どうした?」

「失礼いたします」

ミラはそう言うと、俺のパジャマのボタンを外す。

「あ、あのミラ? 何するんだ?」

「時間がありません。超特急で準備いたします」

ミラは目にもとまらぬ速さで、パジャマを脱がす。

俺の髪の毛を整え、なんだか高そうな服を着せた。

ややあって、朝っぱらだというのに、俺は貴族のような格好になった。

「何でこんな格好するんだ?」

「世の中にはその状況に適した格好という物がありますので」

微妙に会話がかみ合っていなかった。

「では、参りましょう。皆さん首を長くしてお待ちしてます」

ミラが微笑んで言う。

「皆さん?」

よくわからんが、客でも来てるのだろうか。

俺は、1階にある客間へ向かうために、部屋を出て行こうとした。

「アイン様。そちらではございません」

「え? どいうこと?」

ミラに手を引かれて、俺は入り口とは逆方向へ。

大きな窓があり、そこからはバルコニーになっている。

ミラが窓を開け、うやうやしく頭を下げる。

「外に出ろってこと?」

「さようでございます」

なんなのだ……?

俺は部屋の外、バルコニーへと足を踏み入れる。

そこには……。

「アイン様だ!」「領主様がお見えになったぞ!」

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

……領主の館の裏手には、数え切れないほどの人だかりができていた。

「な、なんだ。この……たくさんの人たちは?」

「レーシック領の領民たちですよ。ご主人様に、お礼を言いに来たようです」

バルコニーから身を乗り出して、辺りを見回す。

領主の館の裏庭が、完全に人で埋まっていた。

老若男女、みな笑顔で、俺を見てくる。

「アイン様ー! おれたちの領地を守ってくれてありがとー!」

「この地に暮らすみんなの命を救ってくださったこと! 本当に感謝してます!!」

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

……俺は、その場で何もできずにいた。

「み、ミラ……」

「はい、何でしょう?」

「みんな……なんでこんなに感謝してるんだ? ただ俺は、当たり前のことをしただけなのに」

「……さすがです、ご主人様」

ミラは俺のとなりにひざまづく。

「あれほどの脅威から領民を守ったというのに、それを偉ぶらず、むしろ【当然】とおっしゃられた。その気高き精神。あなた様はまさに英雄と呼ぶにふさわしい御方です」

ミラが頬を紅潮させて、キラキラした目を向ける。

「いや英雄って。大げさだろ」

「ご謙遜を。その証拠に、領民たちのお顔を見てください」

ミラが微笑んで立ち上がり、眼下の領民たちに手を向ける。

「アイン様はわれらレーシック領の最高の領主様だ!」

「偉大なる英雄様だ!」

「わたしたち一生! アイン様をお慕いいたします!」

彼らの顔は、みな輝いていた。

全員が……俺に好感情を向けているように感じた。

「みな、あなた様を心からお慕いもうしております。誰もがあなたを認めるでしょう。この地を守りし、【レーシックの英雄】と」

ミラはすぅ……と息を吸い込む。

「皆様! この地をお救いになってくださった、わがレーシックの英雄に、大きな拍手を!」

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

ミラの呼びかけに答えるように、万雷の拍手が起きる。

「領主様! ばんざーい!」

「レーシックの英雄! ばんざーい!」

「「「ばんざーい!」」」

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

いつまでも収まることのない拍手を聞きながら、俺は戸惑う。

「なんか……とんでもないことに、なっちまった……」

そのときだ。

ぱぁ……と左目が光る。

「アイン、さん♡」

金髪美少女、ユーリが、俺の真横に立つ。

俺の手を握って、花が咲くような笑みを浮かべた。

「村のみんな、守ってくれて、ありが、とー♡」

ユーリにお礼を言われ、領民たちから鳴り止まない拍手を受けて……俺はようやく、自分のしたことを実感できた。

「いつも……ごめんね。あぶない、め、会わせて」

「気にするな。俺は、俺のしたいことをしている。おまえの笑顔が見られただけで、満足だよ」

「アイン、さん……!」

ユーリは感極まったような表情になると、そのまま俺に、抱きついてくる。

実に嬉しそうに、ユーリは笑っていた。

この笑顔を、これからも守っていこうと、俺は固く、そう決意したのだった。