作品タイトル不明
第2話 完全なる魔力なし第六王女
テターニア王国の第六王女は国内ではある意味有名でした。
完全なる魔力なし。
一言で第六王女を示すのであれば、この言葉が一番ぴったりでしょう。
この世界ではどんな生物も魔力を持っていると言われているにもかかわらず、無魔力者だと。
母はそんな私を受け入れられず、精神を病んでしまい、幼少期に儚くなってしまいました。
そうですね。あとは、穢れ姫とか闇の姫とか子供の頃から言われていました。
それは色素が薄い髪をしている王族から黒髪の子が生まれたからですね。
母は他の男と関わったのではと疑いを掛けられたのでしょうが、王族特有の赤い目を持って生まれたので、母の体裁は保たれました。
そんな昔のことをよく覚えているものだと、侍女から言われることがあります。
私には秘密がありまして、恐らくそれが魔力がなく黒髪ということに起因しているのだと思いました。
転生。
それは死した者が再び生まれ変わって肉体を得ることなのですが、私はこの世界とは違う異世界の記憶を持って生まれてきたのです。
まぁ、その記憶に対しては、面白いことなど何もありませんので、割愛します。
そんな私は幼少期から忌避されており、あまりにも暇だったので、どこか余っている土地が欲しいと父王に言って、何も特産がない領地をもらったのです。
よくもまぁ、五歳児に五つも町がある領地を与えたと思っています。
そこから異世界の知識を活かして農業改革をするのですが、それも五年で軌道に乗ってしまい、私が口を出すことがなくなってしまったのです。
ぶっちゃけ、一番ネックだった土地の改良がすぐに終わってしまったことが誤算でした。
魔力がゼロの私は、自分の魔力がないため、膨大な魔力を簡単に得てしまったのです。
そう、世界を満たしている魔素。
例えていうのであれば、他の人がコップの中の水を使っているところに、隣で水道の蛇口を捻っている私がいるのです。
勿論、コップの大きさは人それぞれですよ。
その水道の蛇口をひねるように魔素を使って土を耕せば、あら不思議。
ふかふかの魔素を多く含んだ農地が出来上がったではないですか。
なので最初の年から何も問題がなかったのです。
一年かけて領地を耕して、二年目に豊作であまり余った麦を流通させようとして、三年目には父王に商会を作っていい許可をもぎ取り、四年目は麦と野菜だけでは特産にならないので、ワイン用のぶどうと前世から愛用していたコーヒーが飲みたいとコーヒーの木を植えて、魔素をどんどん送り込むと、八年かかると言われているぶどうが一年で実をつけたのです。
特産品の元ができてしまったので、あとは職人の仕事だと十歳の私は、また王城に住み着きだしたのです。
因みに母親がいない私が王城にいなくても誰も気にしていなかったようで、時々王城に戻るときも「あ、いたのね」という感じでした。
食事も使用人たちと混じって、ぶかぶかのエプロンドレスを着ていても、あまり気にされませんでした。
下級貴族には、黒髪が多いというのもあるのでしょうね。
そこで、人と馴染めないライラを見つけて、私の侍女になってもらったのです。
父王のところに行って、私の侍女としての給金を出すようにしてほしいと。
今思えば、よく父王に直談判をしていましたよね。しかし、私付きの使用人がいなかったので仕方がないことです。
そして暇をどう潰すか考え、たどり着いたのが、戦場の陣中見舞いでした。
実はテターニア王国は長年隣国の帝国とドンパチをしているのです。
私が生まれる前から戦争をしているので、何がきっかけかは知りません。
しかし大陸地図というものを見る限り、隣国の帝国は大陸制覇をしたいのかと思うほどの国土を保有していましたので、仕掛けてきたのは帝国からなのでしょう。
この分ですと、疲弊したテターニア王国が負けるだろうと、馬鹿でもわかりました。
敗戦国の王女の扱いなど、最悪一族打ち首獄門もあり得るでしょう。
さらし首になるのは嫌でしたので、暇つぶしに後方支援をしようと考えたのです。
しかし、腐っても王族なので、危険な戦地に行くことを父王は反対し、護衛をつけるのであればと、暇つぶしの権利をもぎ取ったのです。
たぶん、前世からせこせこと働いていないと駄目な性分なのだと思います。
そんなのだから、ある日ぽっくりと……まぁそんなことはさておき。
そして今は、八回目の支援を行うための護衛を募っているところです。
え? 国から護衛を出してもらえないのかですか?
一回目は父王の采配で護衛をつけてもらえたのですが、兄たちが子供の遊びで大事な兵を使うなと反論がありまして、それからは体裁として護衛を一般から募ることをしたのです。
雇う期間は初夏から冬に入るまでの約半年。
半年で一人当たり金貨十枚を支払い、前払いとして金貨三枚を先に支払う。
金貨三枚もあれば、家族四人が不自由なく一年間くらしていける金額です。
その代わり私の命令は絶対。
十分な食事と寝床はこちらが提供する。
それが依頼条件です。
本日も多くの人が集まってきてくれました。
ライラが順番に並んでいる人達に金貨三枚を渡しながら、明日の朝王都の門が開く前に南門広場に集まるようにと一言を添えています。
王都は城塞都市ですので、自由な出入りができません。日の出とともに門が開き、日の入りとともに閉じる門がそれを阻んでいるのです。
もちろん検問も行われますので、人の出入りも制限されています。
まぁ、私は王族ですので、検問はありませんけどね。
十八歳になった私は、ニコニコと笑みを浮かべながら、ライラの背後で偉そうに椅子に腰掛けて、来ている人の顔を見ています。
毎回同じ顔ぶれですわね。これなら面倒がなさそうで良かったです。
そして日がくれる頃には、列が途切れ最後の人に金貨を渡すことができました。
「まだ受付は可能でしょうか?」
自己満足していると、まだ希望者がいたことに驚きました。
誰なのでしょうと、視線を向けると見たことがない顔に眉を潜めます。
ダークブラウンの髪に青い目の二十代半ばの男性です。
「条件はこちらになります。この条件で大丈夫でしたら、前金をお支払いいたします」
ライラはもう何百回繰り返したのだろうという言葉を言います。
「問題ありません」
「それではこちらが前払いの……」
「二人でもいいでしょうか?」
声をかけてきた人物の背後からもう一人現れました。
明るい茶髪に……琥珀色の目でしょうか? 一瞬金色に見えましたが、光の加減だったようです。
同じ年頃の青年が二人? それも見かけない人ですね。
「構いません。明日、南門が開く前に、南門広場に来てください。門が開くと同時に出立します」
「あの? 何か記入するものはないのですか?」
「ありません。前金は支払いました。こちらとしては以上です」
ライラはさっさと立ち去るように、二人の青年に声をかけました。
なんだか、面倒なことが起きる予感がします。
翌朝、まだ薄暗い中、多くの荷馬車が門が開くのはまだかと並んでいるところに、ひときわ目立つ馬車があります。
黒い外装に金色の装飾が施され、金獅子の紋様が描かれた馬車です。
王族が乗っているぞというアピールですね。
ですが、私は馬車を降りて不機嫌な顔で見上げています。
「なぜに、ここに来たのでしょうか?」
私は不満たらたらなことを隠しもせずに、二人の青年を見上げていました。
「姫様の予見どおりに、残念な感じで来られてしまいましたね」
そう、昨日最後にきた青年二人が、本当に来てしまったのです。
残念すぎますわ。