作品タイトル不明
第17話 毒は有効なのか
レインアルドSide
「宰相とやらに問う。属国を望むか帝国に与するか」
この質問には大して意味はない。
ただ、ここにいる者たちの反応を見たかったのだ。
選択権が己たちにあるとわかったらどう反応を示すかだ。
隣に立つティア姫を確認すると、ありえないという風に、首を横に振っている。
それはそうだ。交渉の場につく王はいないのだ。
その代わりを担う王太子もだ。
そして、その荷を肩代わりするには、宰相は能力不足だ。
「属国を望みます」
眼下の床に這いつくばるように中央にいる女が答える。つまらんな。
「貴様には問うてない」
「ぞぞぞぞ……属国を望みまする」
やはりこの宰相は傀儡か。
まぁいい、属国を望むのであればそうしよう。
「では、下段にいる王族の者たちには、この後毒杯を与えろ。ああ、そうだな。そこの幼い王子に王位を与えることにしようか」
確か、北のギレイア共和国の大商人の娘が母親だったな。
すでにギレイア共和国は存在しない。ならば、後でどうとでもできる。
「そのような下賤な娘の子に王位など!」
「黙れ、属国の望みは叶えてやろうと言っているのだ。別に私は帝国領にしてやってもいいのだぞ?」
「でしたら! わたくしがレインアルド陛下の御役にたちますので! 命だけは!」
「見苦しい。不快だ。誰が名を呼んでいいと言った」
己のことしか考えていない王妃は猿口をされて、床に押し付けられている。
このような者が王妃でよく国が回っていたものだ。
いや、長年王国を落とせなかったのは、国王の手腕が良かったからだ。
あとティア姫の力だな。
そのティア姫を窺い見ると、無機物を見るような目で王妃の姿を眺めていた。
結局、ティア姫も王妃を相手にするほどではないと見越していたということか。
「連れて行け、逃げる者がいれば容赦なく切り捨てろ。それからオフェリヴァス。そこの宰相と話を詰めておけ」
「はっ! かしこまりました!」
内務次官のオフェリヴァスに交渉事は任せる。
ほとんどの者たちが退室したところで、ティア姫が私にこそこそと話しかけてきた。
「あの……私も毒杯を賜らなくていいのでしょうか?」
なぜ、そのような思考になったのだ?
ティア姫には何もしないと言っていたではないか。
それに……。
「その場合、毒が回るのは誰ですか?」
私はニコリと笑みを浮かべて聞き返す。
するとティア姫はハッとしたように目を見開いて、そのあとオロオロと漂わせている。
「おそらく皇帝陛下だと……」
「ぷっ!」
ティア姫の言葉に思わず笑ってしまった。
毒杯を指示した私に殺意があると、示されるということか。
そう、毒杯を渡したものではなく、指示をした者。
やはり、聖女というのは一筋縄では行かないということか。
ティア姫が、晩餐を王城ティラメイスで食べませんかと言っていた。
その理由を聞くと、ティア姫の領地で取れたものを食べて欲しいと言ってきたのだ。
戦場でも確か提供していたはずだが、どういうことなのだろうかと思っていたら。
「輸送に時間がかかってしまうので、日持ちしないものは戦場には運べなかったのです」
転移を使えないというティア姫は、定期的に戦地に食料を輸送していたが、確かに同じ物が多かった。
「それに今の時期は果物が美味しいのです! 普通は実がなるまで十年近くかかるのですけど、一年で実がなるので品種改良もどんどんできるのです!」
凄く楽しそうに話しているティア姫は、とても生き生きしていて可愛らしいと思ってしまった。
人々に喜んで欲しいというオーラが滲み出ている。
「わかりました」
普通はこういうところで、食事をとろうと思わないのだが、ティア姫が今更何かをしてくるとは思えないので、軽い気持ちで了承した。
晩餐はほとんどの席が帝国の者たちで埋まることとなった。
王国側は宰相と名乗った青年と、六歳になる第八王子とティア姫の三人のみだ。
「それでですね。多額の賠償金と共にティア姫を人質にということで話がついたのです」
「人質ですか?」
「体裁というものですよ」
本当に人質にするなど、無意味なことだ。
ティア姫の力は計り知れない部分がある。だが、味方となればそれは帝国全土に影響を及ぼすことになるだろう。
そして食前酒が配られたところで、話を止める。
ただ、その食前酒に眉を潜めた。
見たことがない色。淡いピンクと言っていい色の液体の中に気泡が混じっている。
「スパークリングワインです。今年は収穫したばかりで、まだ仕込み途中なのです。これは去年作ったものですね。商品として売っていますので怪しいものではありませんよ」
ティア姫の商会の商品か。言われてみれば、記憶の端にワインの瓶が並んでいた一角があった。
特に興味がなくてスルーしていたな。
「それでは僭越ながら、わたくしが乾杯の挨拶を……」
「長い話は不要だ」
内務次官のオフェリヴァスの無駄話を先に止める。これは話し出すと長いのだ。
「では、我が帝国の栄光を称えて乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ティア姫お勧めのスパークリングワインというものを飲んでみたが、喉越しがいいが甘いな。
香りが甘いからか?
詳しい話を聞こうかと隣の席にいるティア姫を窺い見ると、難しそうな顔をしている。
そして前菜のサラダの中をフォークで探り、何かを突き刺した。
「ギザギザの葉っぱ」
そう言って、ティア姫は食事をとる者たちを注視しながら、その葉っぱだけを口にする。
一人の者の動きが止まった?
そしてティア姫は次にサラダから花びらのような白いものを取り出した。
私の前に置かれた前菜にはそのようなものは見当たらない。
まさか!
「心臓止まっちゃうかなぁ」
またそれだけをパクリと食べた。
慌てて立ち上がり、ティア姫からフォークを取り上げるも、間に合わず何もないフォークだけが床に飛んでいく。
「はぁ、食べ物を粗末にする人は嫌い。もう、これは食べ物じゃないもの」
ティア姫の口の端から血が滴っていた。
「カイヴァザール将軍! 如何なされた! まさか王国の者が!」
「黙れ!」
毒はティア姫に死を与えるということに引っかからないのか!
血を流し倒れるティア姫を受け止めたのだった。