作品タイトル不明
EP 6
愉悦の告白
翌日の正午。
カイト農場の南エリア、サルバロスの天幕前に、農場の住人全員が集められていた。
サルバロスが「重大な発表がある」と宣言したからだ。
最前列には、目を虚ろにした難民たち(信者)が並び、その後ろにカイト、ラスティア、龍魔呂、ルーベンスたちが警戒しながら立っている。
「やあ、諸君。集まってくれてありがとう」
サルバロスは、魔法で作り出した黄金のステージの上に立ち、大げさに両手を広げた。
「今日は、この楽園の『 最終章(グランドフィナーレ) 』について話そうと思ってね」
「最終章……?」
カイトが眉をひそめる。
「そうさ。……ああ、もういいか。この堅苦しい喋り方も疲れた」
パチンッ。
サルバロスが指を鳴らした瞬間、彼を覆っていた神々しい光のオーラが消え失せた。
代わりに溢れ出したのは、ドス黒く、粘りつくような不快な魔力。
「あーあ、肩が凝る。……おい農夫。昨日はよくも俺に説教してくれたなぁ?」
サルバロスは玉座にだらしなく座り込み、カイトを見下ろしてニヤリと笑った。
その顔には、慈愛の欠片もない。あるのは純粋な悪意と、他人を玩具としか思っていない傲慢さだけだ。
「正体現したわね、変質者」
ラスティアが吐き捨てる。
「へぇ、正体? 違うな。これが『本性』だ」
サルバロスは空中に手をかざした。
そこに巨大な 幻影(ホログラム) が投影される。
映し出されたのは、数日前に滅んだ『サンドリア国』の映像だった。
最初は、豊かな緑と黄金の城で笑い合う人々。
しかし次の瞬間、城が崩れ、緑が砂に戻り、人々が絶叫しながら魔物に食われ、あるいは生き埋めになっていく地獄絵図が流れた。
「ひっ、ひぃぃぃッ!?」
正気を保っていた一部の難民たちが悲鳴を上げ、嘔吐した。自分たちの故郷が滅ぶ瞬間を、特等席で見せつけられたのだ。
「見ろよ、この顔! 最高だろ!?」
サルバロスは腹を抱えて笑った。
「『ありがとう救世主様!』って泣いて感謝していた連中がさぁ、『どうして!?』『助けて!』って顔を歪ませて死んでいくんだぜ?
積み上げた希望が高ければ高いほど、落ちた時の音はデカい! その絶望の味ときたら……どんな高級ワインより甘美で、脳がとろけちまうよぉぉぉwww」
狂気。
彼は本気で言っている。
国を救うのも、人を癒やすのも、すべてはこの「絶望の瞬間」を美味しく味わうための 下準備(スパイス) に過ぎないのだ。
「貴様……ッ!」
ルーベンスが激昂し、魔術を発動しようとする。
だが、
「おっと、動くなよ?」
サルバロスが指を振ると、最前列の信者(難民)たちが、自分自身の首にナイフを突きつけた。
「俺を攻撃してみろ。コイツらは全員、自分の喉を掻っ切るように命令してある」
「くっ……卑劣な!」
「卑劣? 違うね、エンターテイナーと呼んでくれw」
サルバロスはステージからカイトを見下ろした。
「カイト君。君の言う『種』だの『未来』だの、そんな地味なものはツマラナイんだよ。
俺が欲しいのは刹那の快楽! 他人の不幸!
さあ、次はこの農場の番だ。サンドリア以上の絶望を見せてくれよ?」
サルバロスが両手を掲げる。
空が暗転し、赤黒い雷雲が渦巻き始めた。
農場全体を飲み込む、国崩しの超極大魔法の準備だ。
「逃げ惑え! 泣き叫べ! 俺を楽しませろォォォ!!」
彼の高笑いが響き渡る。
誰もが凍りつくような悪意の前で、しかし、一人の青年だけは違った。
カイトは、怒りも恐怖も見せず、ただ静かに、サルバロスを真っ直ぐに見つめていた。
「……?」
サルバロスの笑いが止まる。
なんだその目は。
なぜ怒らない。なぜ怯えない。
その瞳に宿っているのは――「憐れみ」?
次回、カイトの「かわいそう」。
最強の愉悦犯のプライドを、純粋な同情が逆撫でする。
「カイトの『かわいそう』」へ続く