軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 2

実技試験? いえ、開墾です

王立魔法学園の広大な演習場。

普段は攻撃魔法の訓練が行われるその場所に、数百人の生徒たちが集められていた。

彼らは皆、仕立ての良いローブや制服を着た、各国の貴族や有力者の子供たちだ。

その視線の先にある教壇には、麦わら帽子を被った青年――カイトが立っていた。

「えー、今日は特別授業ということで、野菜の育て方を教えます。土作りはとっても大事で……」

カイトがニコニコと話し始めた時、生徒の一人が声を荒げて遮った。

「馬鹿馬鹿しい! 帰らせてもらう!」

立ち上がったのは、派手な金髪をかき上げた男子生徒だった。

胸には公爵家の紋章。この学園の生徒会長にして、筆頭魔術師のレオンだ。

「僕たちはエリート魔術師だぞ? なぜ泥にまみれて、下民の仕事である『農業』など学ばねばならんのだ!」

レオンの言葉に、取り巻きの生徒たちも同調する。

「そうだそうだ!」「土いじりなんて汚らわしい!」

カイトは困ったように眉を下げた。

「うーん……。農業は大事だよ? 美味しいご飯がないと、魔法を使う元気も出ないでしょ?」

「黙れ! どうしても授業をしたいなら、僕たちを納得させる『魔法』を見せてみろ! それが出来なければ即刻退場だ!」

レオンが杖を突きつける。

典型的な「噛ませ犬」ムーブである。

後ろで見ていた龍魔呂がサングラスの奥で目を光らせ、竜神デュークが指を鳴らそうとしたが、カイトが手で制した。

「わかったよ。じゃあ、まずは『土作り』の実演を見てもらうね」

カイトは演習場の真ん中へと歩き出した。

そこは魔法の演習で踏み固められ、岩のように硬くなった荒れ地だ。

「土を耕すには、いい道具が必要なんだ。……おいで、『 雷霆(らいてい) 』」

カイトが右手をかざす。

シュンッ!

空間転移で彼の手元に現れたのは、かつて勇者カイルが持っていた伝説の神造兵装だった。

バチバチと紫電を放つ禍々しい剣。

「なっ……あれは、伝説の聖剣『雷霆』!? なぜ農夫が持っている!?」

レオンが驚愕する。

だが、次の瞬間、さらに信じられないことが起きた。

「よし、『耕しモード』!」

ガシャン、ガガガッ!

カイトの呼びかけに応じ、聖剣が変形した。

刀身が折れ曲がり、柄が伸び、先端が幅広の刃へと変わる。

一瞬にして、聖剣は神々しい輝きを放つ「 万能鍬(くわ) 」へと姿を変えたのだ。

『(主よ! いつでも掘れます! 土を! 大地を!)』

雷霆の喜びの振動が伝わってくる。

「いくよー! 『鬼神流・ 天地開墾(グランド・ティリング) 』!」

カイトは龍魔呂から見様見真似で教わった型で、鍬を振り下ろした。

ドガァァァァァァァァァンッ!!!!

轟音。

そして、衝撃波。

カイトが鍬を地面に突き立てた瞬間、演習場全体……いや、学園の敷地そのものが激しく揺れた。

「じ、地震かぁぁ!?」

「結界が割れるぞぉぉ!」

生徒たちが悲鳴を上げてしがみつく。

土煙が晴れた後。

そこには、信じられない光景が広がっていた。

カチカチだった荒れ地が、まるで高級羽毛布団のようにフカフカの黒土に変わっていたのだ。

しかも、深さ2メートルまで完璧に耕され、空気を含み、石ころ一つない理想的な土壌になっている。

所要時間、わずか一振り(1秒)。

「……は?」

レオンは口をパクパクさせた。

これは農業ではない。 地形変動魔法(テラフォーミング) だ。

土属性の最上級魔法使いが100人掛かりで数日かかる工事を、この男は鍬一本で終わらせた。

「ふぅ。いい土になったね! 次は種まきだ!」

カイトは爽やかな笑顔で汗を拭った。

「ルナちゃん、肥料と水やりをお願いできるかな?」

「はいな! お任せくださいまし!」

次に進み出たのは、銀髪の美少女ルナだ。

彼女はカイトが蒔いた「ラディッシュの種(早生種)」に向かって、世界樹の杖を構えた。

「生徒の皆さんに、エルフ流の『成長魔法』をお見せしますわ! ……あ、ちょっと魔力込めすぎちゃったかも?」

ドクンッ。

嫌な音がした。

ルナの杖から放たれた緑色の閃光が、種に着弾する。

「大きく、美味しくな~れ☆ 【超・豊穣の 森(ギガ・フォレスト) 】!」

ズゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!

地面が裂け、種が発芽した。

だが、それは可愛い双葉ではなかった。

直径1メートルはある極太のツルが、触手のようにのたうち回りながら天空へ昇っていく。

「ギャアアアアッ!? なんだこれぇぇぇ!?」

「しょ、植物が襲ってくるぅぅ!」

演習場は一瞬にして、熱帯雨林……いや、「魔界樹の原生林」と化した。

ラディッシュの葉は屋根より高く茂り、その実は家ほどの大きさになって地面から突き出している。

さらに、過剰な魔力変異により、ラディッシュが「キシャーッ!」と鳴いている。

「あわわ……。レオン様! 飲み込まれます!」

「くっ、火魔法で焼き払え……うわぁぁぁ!」

レオンたちが抵抗しようとするが、魔界ラディッシュの生命力は魔法を吸収してさらに巨大化する。

生徒たちはツルに巻かれ、空中に吊り下げられた。

「あーあ……。ルナ、またやりすぎだ」

後ろで見ていた龍魔呂が呆れて呟く。

だが、カイトの反応は違った。

「すごい! たった数秒で収穫できるサイズになるなんて! 魔法って便利だなぁ!」

カイトは巨大ラディッシュ(唸り声を上げている)に近づき、ペチペチと叩いた。

「よしよし、元気な子だ! さあ、収穫の時間だよ!」

カイトが雷霆(鍬モード)を振るうと、暴れていたラディッシュが一瞬でおとなしくなり、綺麗にスライスされて皿の上に落ちた。

カイトはそれを一切れつまみ、ツルに捕まっているレオンの口に放り込んだ。

「ほら、食べてみて! 採れたてだよ!」

「むぐっ……!?」

レオンは抵抗しようとしたが、口の中に広がった瑞々しい甘さと辛味に、目を見開いた。

魔力をたっぷりと吸った野菜。

それは、彼が今まで食べてきた高級料理が霞むほどの、生命の味だった。

「う……うまい……。なんだこれは……」

レオンの目から涙がこぼれた。

完敗だ。

土作りで地形を変え、育成で魔界を作り、味で魂を震わせる。

これが……これが「農業」なのか!?

カイトはニッコリと笑って、生徒たちを見渡した。

「どうかな? 農業って、奥が深くて面白いでしょ?」

ツルに吊るされた数百人のエリート生徒たちは、首がもげるほど激しく頷いた。

「「「はいぃぃぃッ! 参りましたぁぁぁッ!!」」」

こうして、王立魔法学園の実技試験は、カイトによる「演習場のジャングル化(および生徒の洗脳)」という形で幕を閉じた。

この日以降、学園には「園芸部」が新設され、最も人気のあるエリート部活となるのだが、それはまた後の話。

だが、問題はまだ終わらない。

カイトはお腹を空かせていたのだ。

「うーん、動いたらお腹空いたな。学食に行ってみようか!」

次回、カイトが学食の「薄味スープ」に絶望し、鬼神龍魔呂が厨房をジャックする!

「学食革命! 鬼神のカレーライス」へ続く!