軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 8

龍魔呂の接客(物理)~閉店時間だ、帰れ~

創造神ルチアナの「ジャージ化魔法」によって、聖教国の騎士団は完全に無力化(というかジャージ集団化)された。

威厳もへったくれもない光景の中、ボルジア枢機卿だけは、狂気と絶望の狭間で震えていた。

「お、おのれ……! 悪魔め! 幻術だ! 全部嘘だぁぁぁッ!!」

彼は現実逃避した。

認めてしまえば、自分の人生と信仰が崩壊する。だから、目の前の光景をすべて「悪魔の仕業」と定義するしかなかった。

「こ、こうなれば……人質だ! 交渉材料があれば、形勢は逆転する!」

ボルジアの血走った目が、農場の周囲を彷徨う。

カイトや神々は強すぎる。だが、弱い者はいないか?

その時、彼の視界に入ったのは、農場の隅で様子を伺っていたオークの子供たちだった。

ポチの力で若返り、今はオークたちに育てられている元兵士の幼児たちだ。彼らは怯えながら、身を寄せ合っていた。

「い、いたぞ! 魔物の子供だ!」

ボルジアは狂ったように駆け出した。

近くにいた幼児の一人をひっ掴み、懐剣をその喉元に突きつける。

「動くなぁぁぁッ!! この汚らわしい魔物の子供がどうなってもいいのかぁぁッ!!」

騎士たちが息を呑む。

聖職者が、幼児を人質に取る。それは堕落の極みだった。

だが、ボルジアにはもう善悪の区別などついていなかった。

「さあ、武器を捨てろ! そして私を安全な場所まで案内し……」

ボルジアが勝利を確信し、歪んだ笑みを浮かべた――その瞬間。

ヒュッ。

農場の気温が、氷点下まで下がった気がした。

いや、物理的な温度ではない。

背筋を凍らせる、絶対的な「死の予感」だ。

「……おい」

低く、地を這うような声が響いた。

ボルジアがギギギと首を巡らせると、そこには一人の男が立っていた。

黒いベストに、赤いネクタイ。

整えられた黒髪に、彫りの深い顔立ち。

鬼神龍魔呂。

彼は武器を持っていなかった。ただ、白い布でグラスを拭きながら、静かに歩み寄ってきただけだ。

「ひっ……! く、来るな! このガキを殺すぞ!」

ボルジアが叫ぶ。

だが、龍魔呂は足を止めない。

その瞳は、深淵のような漆黒。かつて「DEATH4」と呼ばれ、数多の悪人を屠ってきた処刑人の目だ。

「……当店では、他のお客様への迷惑行為は固く禁じられている」

龍魔呂は淡々と言った。

その一歩ごとに、重力が倍増していくような錯覚に襲われる。

「そ、それがどうした! 私は枢機卿だぞ! 神に選ばれた……」

「神? ……ああ、さっき酔っ払っていた女のことか?」

龍魔呂はフッと鼻で笑った。

「神になど祈るな。ここにあるのは、美味い酒と料理。そして――」

龍魔呂の姿が掻き消えた。

次の瞬間、ボルジアの目の前に、鬼神の顔があった。

「――マナー違反者への『お仕置き』だけだ」

ドクンッ!!

ボルジアの心臓が、恐怖で跳ね上がった。

龍魔呂は指一本、彼に触れていない。

ただ、全身から放つ『鬼神流・ 威圧(インテンション) 』を、針のように細く練り上げ、ボルジアの脳髄に突き刺したのだ。

ボルジアの脳内に、幻覚が溢れ出す。

自分が無数の刃で切り刻まれ、業火で焼かれ、永遠の闇に落ちていく地獄のビジョン。

「あ……あ、あ……」

ボルジアの手からナイフが滑り落ちる。

腰が抜け、人質にしていた子供を取り落とす。

その子供を、龍魔呂は優しく抱きとめた。

龍魔呂は子供の頭をポンポンと撫でると、氷のような冷徹な声で宣告した。

「……閉店時間だ。帰れ」

ドンッ!!

言葉と共に放たれた物理的な殺気が、ボルジアを弾き飛ばした。

枢機卿は「ヒィィッ!」と情けない悲鳴を上げ、数メートル後ろへ転がっていった。

泡を吹いて気絶寸前だ。

「……ふん。口ほどにもない」

龍魔呂は懐から出したキャンディを子供に握らせ、「向こうへ行っていな」と逃がした。

かつての彼なら、ボルジアの首は飛んでいただろう。

だが、今の彼は「BAR 煉獄」のマスターだ。店の床(農場)を血で汚すような無粋な真似はしない。

完全に勝負あり。

そう思われた時。

「わあぁぁっ! 龍魔呂さん、ストップストップ!」

ピザカッターを持ったカイトが、慌てて走ってきた。

「ダメだよ龍魔呂さん! お客さんに乱暴しちゃ!」

カイトは、泡を吹いて倒れているボルジアを見て、眉を下げた。

「あちゃー……。お爺ちゃん、空腹で貧血起こして倒れちゃったじゃないか。龍魔呂さん、顔が怖いからビックリさせちゃったんだよ」

カイトの認識:

ボルジアが子供と遊ぼうとした → 龍魔呂が怖い顔で近づいた → お爺ちゃんビックリして気絶。

「……すまん、オーナー。少し『接客』に熱が入った」

龍魔呂は殺気を瞬時に消し、いつもの無愛想だが誠実なバーテンダーの顔に戻った。

カイトは苦笑して、焼き立てのピザを差し出した。

「もう……。ほら、お詫びにピザを食べてもらおう。龍魔呂さん、起こしてあげて」

「……御意」

龍魔呂は、気絶しかけているボルジアの襟首を掴んで引き起こした。

「おい。オーナーのご厚意だ。……食え」

「ひぃっ! は、はいぃぃ!」

ボルジアは恐怖で涙目になりながら、差し出されたマルゲリータを受け取った。

逆らえば殺される。

彼は震える手で、ピザを口に運んだ。

ハムッ……。

「…………ッ!?」

恐怖の味がするはずだった。

だが、口の中に広がったのは、トロトロのチーズと完熟トマトの、天国のようなハーモニー。

母なる大地の優しさと、始祖竜の炎による情熱的な香ばしさ。

「う……うまい……。なんだこれは……。教会で食べるパンとスープより、遥かに……」

ボルジアは泣きながらピザを貪り食った。

プライドも、野望も、全てがチーズと共に溶けていく。

彼の胃袋が陥落した瞬間、聖教国の敗北は決定的なものとなった。

「よかった、気に入ってくれたみたいだね!」

カイトはニッコリと笑った。

その笑顔の背後で、神々(ジャージ姿)と鬼神が「これ以上騒ぐなら埋めるぞ」という視線を送っていることに、彼は最後まで気づかなかった。