軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 6

天使長、ブチ切れる

カイト農場の入り口は、異様な静寂に包まれていた。

聖剣は抜けず、聖女はスッピンにされ、騎士団はルナの浄化魔法で戦意喪失して座り込んでいる。

「お、おのれ……! おのれぇぇッ!!」

聖教国のボルジア枢機卿は、怒りで顔をドス黒く染めていた。

このままでは終われない。聖教国の威信が、自分の地位が、こんな泥だらけの農場で失墜してしまう。

「認めん……! こんな不条理は認めんぞ!」

ボルジアは懐から、禍々しい紋章が描かれた巻物を取り出した。

それは教会に伝わる禁忌の品『上位天使召喚のスクロール』。

使用者の寿命と引き換えに、天界の兵隊である「 権天使(プリンシパリティ) 」を呼び出し、敵を殲滅させる最終兵器だ。

「ここが悪魔の巣窟であることは明白! ならば、神の軍勢によって 灰燼(かいじん) に帰してくれるわ!!」

ボルジアが巻物を広げ、絶叫した。

「出でよ、神の尖兵! この汚らわしい異端者どもに、『神の鉄槌』を下せぇぇッ!!」

ズズズズズ……ッ!

空が割れ、雲の隙間から神々しい光の柱が降り注ぐ。

その中から、巨大な槍を持った、身長3メートルほどの「権天使」が姿を現そうとしていた。

圧倒的な神気。騎士たちが畏怖して震え上がる。

――しかし。

その召喚の光よりもさらに強く、鋭い殺気が、農場の奥から放たれた。

「……やかましいですね」

冷徹な声が響いた。

ビニールハウスの扉が開き、エプロン姿の女性が出てきた。

天使長ヴァルキュリアである。

彼女の手には、収穫したばかりのバジルが入った籠が握られている。

「神聖なハーブの手入れ中だというのに……。誰が誰に、鉄槌を下すのですか?」

「な、なんだ貴様は! ただの農婦が、神の 御業(みわざ) に口出しするな!」

ボルジアが唾を飛ばして怒鳴る。

ヴァルキュリアはため息をついた。

「農婦……。ええ、今はそうです。ですが」

彼女はゆっくりとエプロンの紐を解いた。

そして、空を見上げた。そこには、今まさに召喚されようとしている「権天使」の姿がある。

「下がりなさい、三等兵。……誰の許可を得て、私の農場(職場)に土足で踏み込もうとしているのです?」

バサァッ!!!!

ヴァルキュリアの背中から、純白に輝く四枚の翼が展開された。

同時に、彼女の全身から黄金のオーラが噴出する。

それは、ボルジアが呼び出した「権天使」など比較にならない、天界の最高位に位置する**「 熾天使(セラフィム) 」**の輝きだった。

「ひっ……!?」

召喚されかけていた権天使が、ヴァルキュリアの姿を見た瞬間、空中で直立不動の姿勢をとった。

そして、ガクガクと震えながら深々と敬礼し――シュンッ! と音速で天界へ逃げ帰ってしまった。

「あ……? き、消え……?」

ボルジアが呆然と空を見上げる。

ヴァルキュリアは冷ややかな目で、地上にへたり込んでいる人間たちを見下ろした。

彼女の体はふわりと浮き上がり、神々しく輝いている。

「あ、あれは……!」

「四枚の翼……黄金の髪……! きょ、教典に描かれている『天使長ヴァルキュリア様』だ!」

騎士団の中から、悲鳴のような声が上がった。

聖教国の人間なら誰もが知っている、信仰の頂点に立つ存在。

それが今、目の前に顕現している。

「嘘だ……ありえない……! なぜ天使長様が、こんなド田舎の農場に……!?」

ボルジアが腰を抜かす。

ヴァルキュリアは、ゴミを見るような目で彼を一瞥した。

「あなた達の信仰心は腐っていますね。私利私欲のために『神の名』を騙り、罪なき人々(とバジル)を傷つけようとするとは」

彼女の声は静かだが、絶対的な重みを持って響いた。

「あなた達の魂は、この畑の肥料にも劣ります。……消え失せなさい」

ドォォォォォンッ……!

覇気だけで、ボルジアと聖女、勇者が吹き飛ばされ、地面に転がった。

圧倒的な「格」の違い。

彼らが今まで築き上げてきた権威もプライドも、本物の神の使いの前では塵に等しかった。

「あ、あぁ……神よ、お許しを……!」

騎士たちは一斉に武器を捨て、地面に額を擦り付けて土下座した。

ボルジアだけが、まだ現実を受け入れられずに泡を吹いて痙攣している。

完全なる決着。

誰もがヴァルキュリアにひれ伏した。

――ただ一人を除いて。

「おおーっ! すごいすごい!」

パチパチパチパチ!

拍手の音が響いた。

ピザカッターを持ったカイトが、目を輝かせて拍手していたのだ。

「ヴァルキュリアさん、すごい演出だね! 背中から羽根が出る仕掛け、どうなってるの!? それにワイヤーアクション(空中浮遊)まで!」

カイトは、これも「余興」だと思い込んでいた。

ヴァルキュリアの神々しい姿も、騎士たちの土下座も、すべて「中世騎士コスプレツアー」の一環としての演劇だと解釈したのだ。

「さっすがヴァルキュリアさん! お客さんを楽しませるために、天使になりきってくれるなんて!」

「えっ? あ、オーナー……?」

カイトの無邪気な笑顔に、ヴァルキュリアの厳格な表情が崩れた。

彼女は慌てて地面に降り、翼を収納した。

「い、いえ、その……お恥ずかしいところを……」

「恥ずかしくないよ! かっこよかった! ほら、お客さんたちも感動してひれ伏してるじゃないか!」

カイトは土下座している騎士たちを見た。

「みなさーん! ショーは楽しんでもらえましたかー? ピザのおかわり、まだありますよー!」

騎士たちは顔を見合わせた。

天使長様の 上司(オーナー) である、この農夫の青年……。

彼こそが、天使長すら顎で使う「真の創造主」なのではないか?

騎士たちのカイトを見る目が、「憐れみ」から「絶対的な畏怖」へと変わった瞬間だった。

だが、ボルジア枢機卿だけは諦めていなかった。

彼は狂乱し、最後の悪あがきに出ようとしていた。

「認めん……! これは幻覚だ! 悪魔の幻術だ! そうだ、この女は偽物だ!」

彼は錯乱しながら叫んだ。

「ならば、本物の神に問うまでよ! 創造神ルチアナ様の名において、この偽物を裁いてやる!」

その言葉がフラグとなった。

農場の奥、屋台『龍神軒』のベンチで、生ビールを飲んでいたジャージ姿の女性が、うるさそうに立ち上がったのだ。

「あーもう、うるさいなぁ! せっかくの昼飲みが台無しじゃない!」

次回、創造神ルチアナ、酔っ払ったまま降臨。

「私が神だけど、なんか文句ある?」