軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 18

スタンピード? いいえ、大豊作祭りです

神々への「草むしり命令」から数日後。

カイト農場は、嵐の前の静けさに包まれていた。

「ふふ~ん♪ 今日のダンジョンも元気だねぇ~」

庭師として働く妖精キュルリンが、ジョウロ片手に鼻歌を歌っていた。

彼女が管理する「始まりの農場迷宮(旧・納屋の地下冷蔵庫)」は、日増しに深さを増し、今や地下500階層に到達しようとしていた。

キュルリンは「良い野菜を作るには、良い魔力循環が必要!」という独自理論のもと、ダンジョンの活性化レベルをMAXに設定していた。

それが、限界を超えているとも知らずに。

ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

突如、地響きが鳴り響いた。

カイトが顔を上げる。

「ん? 地震か?」

違う。揺れているのは地面ではない。納屋だ。

納屋の入り口から、どす黒い瘴気が噴水のように吹き上がった。

「キュルッ!? あ、あれ? バルブ締め忘れたかも……?」

キュルリンが青ざめた瞬間。

納屋の入り口が内側から弾け飛んだ。

『グオオオオオオオオオオッ!!!!』

溢れ出してきたのは、野菜ではない。

魔物だ。

それも、スケルトンなどの雑魚ではない。深層に生息するSランク級の化け物たちが、雪崩のように地上へ押し寄せてきたのだ。

全長20メートルの猛牛「カトブレパス」。

三つの首を持つ毒竜「ヒュドラ」。

鋼鉄の皮膚を持つ巨人「ギガント・ゴーレム」。

世に言う『スタンピード(魔物の氾濫)』。

その規模は、一国の軍隊でも数分で壊滅するレベルだった。

「うわあああああっ!!」

カイトが絶叫した。

彼の目には、その光景が「世界の終わり」に見えた――わけではない。

「やめろおおお! そこは昨日植えたばかりのダイコン畑だぞおおおッ!!」

カイトの目には、魔物が「巨大な 害獣(イノシシやモグラ) 」にしか見えていなかった。

丹精込めた畑が踏み荒らされる。農家にとって、それは死よりも辛い悪夢だ。

「みんな! 害獣駆除だ! 畑を守れええええッ!!」

カイトの号令が飛ぶ。

瞬間、農場で暇を持て余していた「従業員」たちの目の色が変わった。

最初に動いたのは、屋台『龍神軒』でスープの番をしていた竜神デュークだった。

「チッ……。地響きのせいで、スープの乳化バランスが崩れたではないか」

デュークは葉巻を噛み砕き、寸胴鍋を置いた。

そして、迫りくるカトブレパス(猛牛)の群れに向かって、一歩踏み出す。

「貴様らの肉など、臭くてチャーシューにもならんわ!!」

カッッッ!!!!

デュークの口から、黄金の閃光が迸る。

『アルティメット・バースト(出力1%・湯切りモード)』。

光の帯が猛牛の群れを貫いた。

だが、ただ破壊するのではない。神技的な魔力コントロールにより、猛牛たちは「皮」と「骨」と「肉」に綺麗に解体され、肉だけがこんがりと焼かれて地面に落ちた。

「ふん。……これなら 賄(まかな) いの出汁くらいにはなるか」

続いて、洗濯物を干していた不死鳥フレアが舞う。

「もう! 土煙でシーツが汚れるじゃない!」

彼女は優雅に回転し、炎の翼を広げた。

『不死鳥紅蓮の舞い・乾燥機モード』。

八つの炎龍がヒュドラに襲いかかり、その再生能力ごと瞬時に焼き尽くす――手前で止める。

「あら、この竜の 肝(キモ) 、美容にいいのよね。丸焼きは勿体ないわ」

フレアは炎のメスでヒュドラを解体し、希少部位だけを真空パック(炎の膜)して回収した。

さらに、狼王フェンリルが吠える。

「ヒャッハー! 動く的だァ! 今日の夕飯はギガント・ゴーレムの刺し身だぜぇ!」

彼は分身してゴーレムの群れに突っ込み、その関節を絶対零度で凍結させ、バラバラに粉砕していった。

一方、後方支援組も凄まじかった。

「ひぃぃぃ! も、もったいない! カトブレパスの角は一本で金貨30枚ですぞ!」

電卓(魔道具)を片手に叫んでいるのは、魔族宰相ルーベンスだ。

彼はカイトの畑を守るため、そして「利益」を確保するために走り回っていた。

「影よ! 素材を傷つけずに捕縛しろ! 『影縫い・梱包発送の型』!」

彼の影が無数に伸び、逃げ惑う魔物たちを次々と簀巻きにしていく。

その手際の良さは、ベテランの物流業者も裸足で逃げ出すレベルだ。

「不浄なる者たちよ! 我が神聖なハーブ園に近づくな!」

天使長ヴァルキュリアは、聖槍グラニを避雷針のように掲げた。

『ライトニング・ボルト(害虫駆除)』。

一億ボルトの電流が、空を飛ぶワイバーンの群れを撃ち落とす。

「黒焦げにしてはなりません! 肥料にするのですから!」

彼女は撃墜した魔物を即座に粉砕機(魔法)へ放り込み、極上の骨粉肥料へと変えていく。

「魔王様! ケルベロスが逃げ腰です!」

「チッ、使えない犬ね! 私がやるわ!」

魔王ラスティアは、上空から重力魔法を行使した。

『グラビティ・プレス(漬物石)』。

範囲内の魔物たちが、一瞬で地面にめり込み、圧縮される。

彼らはそのまま「ミンチ」となり、オークたちがそれを回収してハンバーグのタネにしていく。

戦場――いや、農場は、一方的な「収穫作業」の場と化していた。

Sランク魔獣たちが、次々と「食材」や「肥料」や「素材」に加工されていく。

そして。

ダンジョンの奥から、真打ちが現れた。

『グオオオオオオオオオ……』

大地を割って現れたのは、山の如き巨体を持つ伝説の魔獣、『古の 魔神(エンシェント・デモン) 』。

かつて大陸を一つ消滅させたと言われる、災厄の権化だ。

カイトが息を呑む。

「で、でかい……! あんなのが暴れたら、家が潰れちまう!」

神々も手を止めた。

さすがにこれは、手加減して倒せる相手ではない。

魔神がカイトを見下ろし、その巨大な拳を振り上げた瞬間。

「きゅいッ!(待て)」

カイトの足元から、小さな影が飛び出した。

ポチだ。

ポチは空中で魔神の鼻先に着地すると、その金色の瞳で睨みつけた。

『(おい新入り。挨拶なしか?)』

始祖竜の威圧が、魔神の脳髄に突き刺さる。

さらに、ポチの背後には、臨戦態勢に入ったデューク、フレア、フェンリル、ラスティア、ヴァルキュリア、ルーベンス、そして農具を構えたカイトが並んでいた。

魔神は、自分が「出てくる場所を間違えた」ことを悟った。

ここは地獄よりも恐ろしい、神々の食堂だったのだ。

「ア……アゥ……」

魔神は静かに拳を下ろし、その場で正座した。

そして、両手を差し出し、「荷運びします」というジェスチャーをした。

夕暮れ時。

カイト農場の前には、山のような「収穫物(魔物の肉や素材)」が積み上げられていた。

「すごいな……。これ、全部売れるのか?」

カイトが呆然と呟くと、ルーベンスが興奮気味に眼鏡を光らせた。

「売れるどころの話ではありません! 試算しましたが、小国の国家予算10年分に相当します! 特にあの魔神が大人しく吐き出した『魔神核』は、プライスレスです!」

「そっかぁ。まあ、畑が無事だったならいいや」

カイトは笑った。

被害はゼロ。むしろ、従業員(魔神含む)が増え、食料備蓄が溢れかえる結果となった。

「よし、今夜は祝勝会だ! 魔物の肉でバーベキューにするぞ!」

「「「おーっ!!」」」

神々と魔物たちの歓声が上がった。

その夜、カイト農場から立ち昇る煙と匂いは、遠く離れた王都の空まで届き、「伝説の祭りが開かれている」と噂になったという。

これが後に歴史書に記される『第一次・農場スタンピード(別名:大豊作祭り)』の真実である。