作品タイトル不明
EP 7
漬物石の正体、実は「封印された邪神の鼻クソ」説?
「嘘……嘘よ……私のボイトレ代……」
「私のエステ代……」
「龍魔呂さんとの新婚旅行費用がぁ……」
農場の庭には、死屍累々の山が築かれていた。
リーザ、ルチアナ、キャルル。
彼女たちの目の前には、かつて黄金の輝きを放っていた「漬物石」が転がっている。だが今やそれは、道端の石ころよりも黒ずんだ、ただの軽石のような塊に成り果てていた。
一方で、カイトの手にある白菜は、神々しいほどの黄金色の 光(オーラ) を放っている。
「ちょっと、どういうことなのよこれ!」
ルチアナが叫んだその時、眼鏡をクイッと押し上げる音が響いた。
「……ふむ。興味深い現象ですね」
騒ぎを聞きつけてやってきた農場の頭脳、弁護士のリベラだ。
彼女は白衣(趣味)を羽織り、ルーペを取り出して「黒ずんだ石」と「光る白菜」を交互に観察し始めた。
「リベラ! これを鑑定して! まだ価値はあるわよね!? 中身は金なのよね!?」
リーザがリベラの白衣にすがりつく。
リベラは冷徹に、しかしどこか楽しげに宣告した。
「残念ながら、この石の現在の価値は……0円(銅粒0枚)です」
「ぎゃぁぁぁッ!!」
リーザが白目を剥いて気絶する。
リベラは淡々と解説を続けた。
「そもそも、これは『金塊』ではありませんでした。これは『地脈の 精霊核(ジオ・コア) 』……太古の土の精霊力が長い年月をかけて結晶化した、言わば『大地のエネルギーの塊』です」
「せ、精霊核……? じゃあ、もっと凄かったんじゃない!」
「ええ。そのまま市場に出せば、小国なら二つくらい買えたでしょうね」
グフッ。
ルチアナとキャルルが吐血する。
国が買える石を、彼女たちは漬物石にしてしまったのだ。
「で、ですが! なぜただの石になってしまったんですの!?」
フレアが悲痛な声を上げる。
リベラは「光る白菜」を指差した。
「原因はこれです。カイトさんが育てたSランク白菜……その細胞は、スポンジのようにあらゆる魔力を吸収する性質を持っています。そこに『塩』という触媒を加え、適度な『重み(圧力)』をかけたことで……」
リベラはゴクリと喉を鳴らす。
「『超・浸透圧現象』が発生しました。精霊核の中にあった膨大なエネルギーが、水分と入れ替わる形で、すべて白菜に移ってしまったのです」
つまり。
数億円(国家予算クラス)の魔力が、すべてこの一玉の白菜にインストールされたということだ。
「へぇ、そうなんだ。よく分からないけど、成功ってことだね?」
カイトだけが、ニコニコと笑っていた。
彼にとって「国が買える石」と「ただの石」の差は、「よく漬かるかどうか」だけだ。
「成功どころではありませんよ、カイトさん。その白菜は今や、食べる『賢者の石』……いいえ、食べる『パワースポット』です」
「そっかぁ。じゃあ、味見してみようかな」
カイトは躊躇なく、その黄金に輝く白菜の葉を一枚ちぎった。
周囲の空気がビリビリと震える。
女性陣が「あっ」と声を上げる間もなく、彼はそれを口へと運んだ。
シャクッ。
小気味よい音が響いた、その瞬間。
ドゥゥゥゥゥン…………ッ!!!
衝撃波が走った。
物理的な風圧ではない。圧倒的な「旨味の波動」が、農場全体を突き抜けたのだ。
食べたカイトの背後に、巨大な幻影――黄金の畑で微笑む女神(ルチアナではない本物の女神っぽい何か)――が浮かび上がる。
「ん~ッ! 美味しい!」
カイトが頬を緩める。
「土の香りが鼻に抜けて、噛むたびにジュワッと旨味が溢れてくるよ。塩加減も絶妙だね。……うん、これはご飯が欲しくなる味だ」
その感想と共に、カイトの体からキラキラとした光の粒子が溢れ出す。
ただの試食で、体力が 全回復(オーバーヒール) しているのだ。
「……あ、あぁ……」
その光景を見ていたリーザが、ふらりと立ち上がった。
彼女の目から、金銭欲という名の濁りが消えている。
「いい匂い……なんて、いい匂いなの……」
「ボイトレとか……どうでもよくなってきましたわ……」
「これが……本物の『輝き』……」
圧倒的な「食の暴力」の前には、金塊への未練など無力だった。
カイトは嬉しそうに振り返る。
「みんなも食べる? 今夜の鍋にするけど」
その言葉に、全員が首を縦に振る。
もはや彼女たちの頭の中は、「金」から「飯」へと完全に上書きされていた。
――サラサラサラ……。
役目を終えた黒ずんだ石(元・数億円)が、風に吹かれて粉となり、土へと還っていく。
誰もそれを見向きもしなかった。
ただ一人、リベラだけが手帳にこう書き記した。
『本日の損害額:国家予算2つ分。 得たもの:究極の飯テロ』