作品タイトル不明
EP 6
新入りキャルル、金塊を「龍魔呂へのプレゼント」と勘違いして暴走
ルナの魔法騒動が落ち着き、カイトが再び平穏な農作業に戻ろうとした、その時だった。
「聞き捨てなりませんよぉぉぉッ!!!」
ズドォォォォンッ!!
隕石が落下したかのような衝撃音と共に、農場の庭に土煙が舞い上がった。
クレーターの中心に着地したのは、ピンクブロンドのボブヘアに、ウサ耳をピンと立てた少女。
新入り警備員にして、月兎族のキャルルである。
「キャ、キャルルちゃん!? どうしたの、空から降ってきて」
「カイト様! 今、小耳に挟みましたよ! その漬物石……『数億円の価値があるピカピカの石』なんですよね!?」
キャルルの瞳は、獲物を狙う肉食獣のように爛々と輝いていた。
彼女の視線の先には、鎮座する金塊。
「え? まあ、そうらしいけど……」
「やっぱり! ……ふふっ、見つけました。これぞ、私が探し求めていた『愛の結晶』です!」
キャルルは頬を赤らめ、妄想の世界へとトリップする。
(龍魔呂さんは料理人……つまり職人です。きっと、包丁を研ぐための『究極の砥石』を探しているはず! この数億円の金塊なら、伝説の包丁研ぎとしてプレゼントできるかも……! そうすれば、『ほう、気が利くなキャルル。……好きだ』って言われて、そのままゴールイン!?)
思考回路がマッハで飛躍した。
彼女にとって「高価な石」=「龍魔呂への貢物」=「結婚」なのだ。
「カイト様! その石、私が貰い受けます! 龍魔呂さんへの愛のためにぃぃぃ!!」
バチバチバチッ!
キャルルの足元、鉄芯入りの安全靴から紫電が迸る。
月兎族の秘儀『神速』の構えだ。
「さあ行きますよ! マッハ・ダッシュ!」
轟音。
キャルルの姿が掻き消えた。
音速を超えた突進が、カイトの手元にある漬物樽へと迫る。
だが。
その軌道上に、立ちはだかる影があった。
「させるかぁぁぁッ! この駄ウサギ!!」
ジャージ姿の創造神、ルチアナである。
彼女はスルメを口にくわえたまま、神の権能を発動させた。
「『神の 障壁(ゴッド・ウォール) 』!!」
ガギィィィンッ!!
見えない壁がキャルルの突進を受け止める。
衝撃波が周囲に拡散し、ビニールハウスのビニールがバタバタと波打った。
「くっ……! さすが腐っても創造神! 硬いですね!」
「誰が腐ってるのよ! その石はねぇ、私が売り払って『獺祭』を買うための資金源なの! ポッと出の恋愛脳に渡してたまるもんですか!」
ルチアナは必死だった。酒への執念は、恋心と互角に渡り合う。
「ええい、邪魔です! そこを 退(ど) いてください!」
「嫌よ! 退いたら私の酒が消えるじゃない!」
キャルルはバックステップで距離を取り、再び加速する。
今度は直線ではない。左右にジグザグに動き、残像を生み出しながら壁を撹乱する。
「月影流・幻惑ステップ!」
「無駄よ! 神の目は誤魔化せないわ!」
超高速の鬼ごっこが始まった。
マッハで動き回るウサギと、スルメを振り回して結界を張る女神。
その余波で、農場の土が巻き上げられ、嵐のような状態になる。
「うわぁ、二人とも元気だねぇ。でも気をつけてよー?」
カイトはのんびりと注意するが、ヒートアップした二人の耳には届かない。
「ここです! 隙ありぃッ!」
キャルルがルチアナの死角、頭上から急降下した。
狙うは漬物樽の上の金塊。
ルチアナの障壁が間に合わない。
(貰ったぁぁぁ!!)
キャルルが手を伸ばした、その瞬間。
彼女の安全靴のつま先が、わずかに――ほんの数ミリだけ、漬物樽の 縁(ふち) に引っかかった。
「あッ」
ガゴォォォォンッ!!
音速の衝撃が樽に直撃する。
漬物樽はコマのように回転しながら吹き飛び、空中で逆さまになった。
「あぁぁっ! 私の金塊がぁぁ!」
「龍魔呂さんへの愛がぁぁ!」
二人が絶叫する中、樽から中身が放り出された。
金塊。
塩水。
そして――白菜。
ドサッ。
地面に落ちた金塊は、カランコロンと乾いた音を立てて転がった。
しかし、誰も金塊を見なかった。
なぜなら。
カッーーーーッ!!
金塊の下敷きになっていた「白菜の漬物」が、直視できないほどの黄金の光を放ち始めたからだ。
「な、何これ!? 白菜が光ってる!?」
「目が……目がぁぁ!」
光の洪水の中で、カイトだけが冷静に、そして嬉しそうに駆け寄った。
「あ! ちょうどいい! 漬かり具合、完璧だよ!」
カイトが光り輝く白菜を持ち上げると、不思議な現象が起きた。
これまで金塊が放っていた「魔力のような輝き」がすべて白菜に移っており、逆に転がっている金塊(数億円相当)は、ただの「黒ずんだボロボロの石」へと変貌していたのだ。
「え……? 石が……タダの石になってる?」
キャルルが呆然と呟く。
ルチアナが震える手で石を拾い上げるが、そこからは何の魔力も、金銭的価値も感じられなかった。
「うそ……魔力が全部、白菜に吸われたっていうの……?」
静まり返る農場で、カイトの声だけが明るく響いた。
「すごいよみんな! 『黄金白菜』の完成だ! ……これ、絶対美味しいよ!」
キャルルの暴走は、結果として「数億円の金塊」を消滅させ、「プライスレスな漬物」を爆誕させてしまったのである。