軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 2

【任務】農場警備隊長キャルル、爆誕

「えへへ……『期待している』……期待されちゃった……♡」

カイト農場の納屋の前。

キャルルは、愛用の『鉄芯入り安全靴』を専用のクロスで磨きながら、にやけ顔が止まらなかった。

龍魔呂に頭を撫でられた感触が、まだ残っている。

あの強面でクールな鬼神が、自分にだけ見せた(と信じ込んでいる)優しい表情。

「もう、龍魔呂さんったら……。私に『警備』を任せるなんて、つまり私の強さを認めてくれたってことですよね? もしかして、これって共同作業? 実質的なパートナー宣言!?」

キャルルの脳内恋愛回路は、マッハ1で暴走していた。

「よしっ! ピカピカ!」

磨き上げられた安全靴のつま先が、鏡のように光る。

キャルルは靴紐をキュッと締め上げ、立ち上がった。

「任せてください、龍魔呂さん! 貴方が安心して料理に専念できるように、この農場の平和は私が守ります!」

キャルルはビシッと敬礼をした。

自称・『カイト農場警備隊長』の誕生である。

「異常なーし! 次!」

シュバッ!!

ピンク色の影が、農場の外周を疾走する。

100mを5秒台で走るキャルルのパトロールは、傍から見ればピンク色の暴風だ。

「西の森、異常なし! 東の街道、行商人のおじさんのみ! 南の牧草地、フェンリルさんが昼寝中!」

キャルルのうさ耳がレーダーのように動き、周囲の音を拾う。

「ふふん、私の聴覚からは逃げられませんよぉ!」

彼女のやる気は過剰だった。

カイトの畑で、カラスが一羽、トマトを狙おうとした瞬間――。

「確保ぉぉぉッ!!」

ドガァッ!!

「カァッ!?」

キャルルが三角跳びで飛来し、空中でカラスを蹴散らした(手加減済み)。

「こらっ! カイトさんの野菜は売り物ですよ! 盗み食いはメッ! です!」

落ちてきた羽根をキャッチして着地するキャルル。

そこへ、農作業中のカイトが顔を出した。

「おーい、キャルルちゃん。すごい動きだね、何してるの?」

「あ、カイトさん! 今、警備中なんです!」

キャルルが胸を張る。

「龍魔呂さんから直々に任命されたんです! 『俺の代わりに守れ』って!」

「へえ、龍魔呂さんが? それは助かるなぁ。最近、湿地帯の方で魔物が増えてるって噂だし」

「任せてください! 不審者はこの安全靴で、お星様にしてみせますから!」

「ははは、頼もしいね。じゃあ、後でお駄賃に人参ジュースあげるね」

「わぁい! ありがとうございます!」

カイトの笑顔(と人参)に癒やされつつも、キャルルの心は燃えていた。

(見ていてください龍魔呂さん……。私がどれだけ役に立つ女か、証明してみせます!)

そして、夕暮れ時。

農場が茜色に染まる頃、キャルルは北側の境界線に立っていた。

そこは、鬱蒼とした湿地帯へと続く森の入り口だ。

「ん……?」

キャルルの長い耳が、ピクリと動いた。

パトロールの足を止める。

(……匂う)

彼女の鼻がひくついた。

美味しい人参の匂いではない。

生臭い、泥と鉄錆のような臭気。

そして、湿った地面を踏みしめる、無数の足音。

ザッ……ザッ……ザッ……。

「……数が多い。10……20……いいえ、100近く?」

キャルルの赤い瞳が細められた。

乙女の顔から、戦士の顔へと変わる。

「カイトさんの野菜を狙う泥棒さんたちですね……?」

茂みの奥から、ギラギラとした爬虫類の瞳が無数に光った。

武装したリザードマンの群れだ。

「ふふ……ちょうどいいです」

キャルルは安全靴のつま先で、地面をトン、と叩いた。

「龍魔呂さんに褒められるための、最初の手柄……。全・員・蹴・り・飛・ば・し・て・あ・げ・ま・す・♡」

恋するウサギの安全靴が、不穏な闘気を纏って輝き始めた。