軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 10

キュルリンの来訪と、さよなら平穏な日々

魔王、竜王、女神との間に秘密協定(という名の飲み会)が結ばれてから、数日が過ぎた。

カイトの農場には、かつてない活気が満ちていた。

「ブヒィィッ!(収穫だー!)」

「ブブーッ!(祭だー!)」

今日は農場の収穫祭だ。

オークたちが太鼓を叩き、自分たちで育てた野菜や肉を焼いて盛り上がっている。

彼らはすっかりこの生活に馴染んでいた。元々魔王軍の将軍種だったプライドはどこへやら、今では「最高の肥料配合」について熱く語り合う立派な農夫だ。

「みんな、よく働いてくれたな。今日は好きなだけ食べてくれ!」

カイトがジョッキ(中身は搾りたてのフルーツ牛乳)を掲げると、オークたちが歓声を上げる。

「きゅぅ~」

カイトの膝の上では、ポチが満足げに尻尾を振っていた。

その体はさらに一回り大きくなり、今は大型犬サイズだ。黒曜石の鱗は宝石のような輝きを増している。

最近は、ラスティアが置いていった高級クッションがお気に入りらしい。

(平和だなあ……)

カイトは目を細めた。

転生した直後はどうなるかと思ったが、ポチという最高の相棒と、頼れる 従業員(オーク) 、そして愉快な飲み友達(三巨頭)にも恵まれた。

この平穏なスローライフが、ずっと続けばいい。

本気でそう思っていた。

――カイトはまだ知らない。

この農場が、今や世界中の「魔力」と「因果」を引き寄せる、巨大な磁石のような 特異点(ホットスポット) になっていることを。

そして、強い光には、必ず「厄介な虫」が寄ってくることを。

上空、数千メートル。

青空を切り裂いて飛ぶ、小さなピンク色の影があった。

「キュルル~ッ☆」

それは、背中に虹色の羽根を持つ、手のひらサイズの妖精だった。

名前はキュルリン。

可愛らしい外見とは裏腹に、彼女は世界中で指名手配されている「歩く災害」である。

彼女のユニークスキル【ダンジョンクリエイト(迷宮創造)】は、あらゆる場所を強制的に「死の迷宮」へと書き換える理不尽な力だ。

彼女に悪意はない。ただ、「楽しい遊び場を作りたいだけ」なのだ。

「んん~? なんか、すっごくイイ匂いがするぅ~!」

キュルリンが空中で急停止した。

彼女の鼻がピクピクと動く。

漂ってくるのは、濃厚な魔素と、極上の食材の香り。そして何より、「神話級の 宝物(おたから) 」の気配。

「あそこだねっ! あそこにボクの新しいお 家(ダンジョン) を作っちゃおーっと!」

キュルリンは翼を畳み、弾丸のように急降下を開始した。

目指すは、荒野にポツンとある一軒の農家。

地上。

ポチが不意に空を見上げた。

「……グルルッ?」

喉の奥で低く唸る。

カイトが不思議そうに顔を覗き込む。

「どうしたポチ? またお客さんか?」

ポチの金色の瞳が細められた。

違う。これは「敵」ではない。もっと質の悪い、「面倒くさい何か」だ。

始祖竜としての本能が、全力で「関わるな」と警鐘を鳴らしている。

だが、遅かった。

「キュルッ☆ おじゃましまーす!」

キラキラした光の粉を撒き散らしながら、ピンク色の妖精がカイトの目の前に舞い降りた。

「わ、妖精? 可愛いなぁ」

カイトが目を丸くする。

キュルリンはカイトの周りをくるりと回り、そして農場の豊かさに目を輝かせた。

「すごいすごーい! ここの土、魔力がパンパンだよぉ! ここなら『深層100階層』クラスが作れちゃうねっ!」

「え? 100階層? なんの話?」

カイトが首を傾げた瞬間。

キュルリンはニカッと笑い、カイトの家の横にある「納屋(兼・秘密会議室)」の壁にペタリと触れた。

「えいっ☆ 【ダンジョンクリエイト】!」

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…………!!!

大地が揺れた。

地震か? いや、違う。

カイトの目の前で、木造の納屋がメリメリと音を立てて変形していく。

入り口が巨大な石造りのアーチに変わり、その奥から「ヒュオォォォ……」という、冥界からの風のような冷気が吹き出してきた。

「な、なんだこれ!? 俺の納屋が!?」

「完成~っ! 名付けて『始まりの 農場迷宮(ファーム・ラビリンス) 』! Sランクモンスターいっぱい詰めといたから、たくさん遊んでね☆」

キュルリンは無邪気にVサインをした。

「きゅるるるるる!!(激怒)」

ポチがブチ切れた。

せっかくの昼寝場所(納屋の屋根)を魔改造された怒りで、始祖竜の覇気が膨れ上がる。

しかし、ダンジョン化の影響で、納屋の地下から溢れ出した魔物が、ぞろぞろと這い出してきつつあった。

スケルトン、キメラ、ドラゴンゾンビ……。

収穫祭の会場は、一瞬にしてカオスな戦場へと変わろうとしていた。

「え、ええええええっ!? 俺の平穏な生活は!?」

カイトの絶叫が、青空にこだました。

スローライフ終了のお知らせ。

ここから始まるのは、自宅の地下に出来てしまった「世界最難関ダンジョン」の管理と、そこに群がる冒険者たちとのドタバタ攻防戦である。