軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ワザとか! わざとやっているのか! 当てつけのような事業を始めおって!」

「落ち着け、フナトバの」

大領地派閥四家――今は三家になった領主会合で、ヒートアップしているフナトバ領主を宥めるトーテイフの領主。

テラコーヤ王国の港湾はフナトバ領とトーテイフ領が商港として共同運営しているので、他国の船に係る人の出入りを始め、積み荷の臨検から売買に至るまで全てを管理していた。

フナトバ領が所有する交易商船団で現状を打開するべく意気込んでいた矢先に、オーテイア領の河川港から来たという大型魔導運搬船が現れた。

マストが無く、帆も張らず、 橈(カイ) さえ無いのにぐいぐい走る大型船は大層目立った。

その船から発せられた、『川を遡って行けば交易港がある』という情報に、接岸の順番待ちで碇泊中だった他国の商船は、次々と碇を上げて河口へと出航していった。

「王都に近いオーテイアに交易港を設けるなど……っ!」

「だが、外の船が内陸まで行くにしても、結局我らの港を通るのだ。やりようはある」

唯一の荷揚げ拠点という優位性は失われるが、フナトバ・トーテイフの商港がテラコーヤの玄関口なのは変わりない。

「いっそ河口を封鎖するか……」

「いや、それはまずいだろう。通行料の徴収くらいに留めておくべきだ」

他国から来る商船には、内陸の交易港を使うのは割高になると認知させれば、まだまだこの商港の優位性は揺らがない筈。

「それに、外洋船で川を遡るとなれば、相応の操船技術が必要になるし、天候にも左右される」

それこそ、推進機を搭載した魔導船でもなければ、狭い川幅を長い距離遡るのはかなりの困難を伴うだろう。

「途中の領地で船引きを雇わせて、稼がせるつもりなのかもしれん」

「なるほど……確かに。それなら我々が小細工をせずとも、普通に割高になるな」

流れのある川を遡る場合、船にロープを繋いで両岸の陸路から牽引する曳船が行われる。

物流の中心地にもなる王都の近くで荷揚げができる利便性と、そこへ至るまでに支払う事になるであろう諸々の費用。

とにかく早く積み荷を捌きたい、懐に余裕もある商船が内陸の交易港を目指し、それ以外はこれまで通り、フナトバ・トーテイフ商港を利用してお金を落としていく。

「住み分けができているなら、良いのか……?」

「ああ、無理にこちらから何かする必要はないさ」

きっと環境はそう大きく変わらない。良くはならずとも悪くもならない筈だ。トーテイフの領主は、ようやく落ち着いてきたフナトバの領主にそう言い含めて宥めながら思う。

(この主張が楽観的な願望でしかないのは分かっている。分かってはいるが……――)

希望的観測に縋る以外、現状で我々に何ができるというのか。トーテイフ領主は、口では楽観論を述べながら、その内心は悲嘆に暮れていた。

あのイレギュラーダンジョンのやる事だ。上流に交易港を作って、それで終わりではない筈だ、と。彼は割と勘が働く方であった。

※ ※

「運河を敷こうと思う」

街づくり好きな迷宮核は、他の大陸から来る商船の引き込みに、王都カンソンまで直通の運河をひく計画を立てる。

『オーテイアから川を延長するのか?』

「そっちもだけど、あの川は今以上は弄らず、帰り道専用にするつもり」

度々氾濫を起こしてゼイラーロフ領に被害をもたらしていた川だが、今は川沿いだけでなく川底までダンジョンの領域と化しており、一部自然の川の環境も残した水路として管理されている。

自然の川なのでそれなりに曲がりくねっているうえに流れもあるので、海から帆船で遡るのには難儀している様子だった。

なので新たに河口付近から王都まで繋がる『テラコーヤ運河』を造るのだ。

『まあ確かに、今なら王都を含め周囲の土地もほぼ領域化済みだし、良いのではないか?』

『――』

魔核達は特に反対する理由もないと、迷宮核の運河構築という大規模計画に理解を示した。

距離は凄まじく長大だが、ほとんど地形操作だけで構築可能なので、魔素の消費も大した量にはならない筈だ。

「あと、今の時点で川を上って来てる船にはゼイラーロフから魔導船を出して牽引してもらおう」

大型魔導運搬船で宣伝して引き寄せた商船達の中でも、真っ先に動いてくれた彼らは問題の洗い出しにも役立ってくれたので、是非とも報いておきたい。

ゼイラーロフの領主、テモメヤ男爵にその旨を打診し、商船の曳航を依頼しておいた。

そうして、まずは海へ流れ込んでいくこの川の、河口一帯を占めているトーテイフ領の隣に位置する領地の川岸に水門を設けて、運河の入り口を設定。

ここから王都カンソンに向けて巨大な水路を構築していくのだが、途中には畑や民家、その領地の首都があったりするので、流石に一直線にというわけにはいかない。

通り道の領地を治めている領主に話を付け、街や村の長と畑や家を移動させる等の交渉を経て、広くて深くて長い水路を形作っていく。

大型船がくぐれる巨大な橋も、運河を通す領地の要所に架け渡した。

斯くして、海辺から王都まで続く長大な迷宮水路(迷宮ではない)、『テラコーヤ運河』が完成した。

立地上、王都カンソンはクローゼン大陸の中心地として丁度良い位置にある。その王都の中に船で乗り付けられるこの運河は、世界中からやって来る船乗り達を魅了した。

※ ※

この日、近くの他大陸からやって来た商船団が、テラコーヤの港湾に辿り着いた。

「見えて来た! テラコーヤの港だ!」

殆どの船が商港に接岸するべく、順番待ちの碇泊を始める中、一隻の大型商船が船団から離れて航行を続ける。

「よーし、面舵そのまま! 帆を張ったまま河口に向かえ!」

「えっ、船長ー! 港に入らないんすかー?」

「我ら冒険号はテラコーヤ内陸の交易港に向かう!」

商船なのに『冒険号』と名付けられたこの船は、冒険者上がりの船長が個人で運営する商会の交易船であった。

「おー、噂の王都港っすかー!」

「本当にあるんすかね? そんなの」

二ヶ月ほど前、彼らの本拠地でもある隣の大陸の貿易港都市に、クローゼン大陸から商船団が戻った。

クローゼン大陸との交易では、主に食糧や布類を売って魔鉱石を買い付けるのだが、商船団の中でも中型商船を預かる知り合いの若い船長から、面白い話を聞いた。

テラコーヤ王国の、交易の玄関口となるフナトバ・トーテイフ商港を通り過ぎて河口を遡って行くと、王都に乗り付けられるというのだ。

その船長が酒場で語ったテラコーヤ王国での体験談は、魔導船の集団に曳航されたとか、内陸の交易港に停泊していたら川が延長されて王都に繋がった等という胡散臭いものではあったが。

「奴は航海に関する嘘だけは吐かねえんだ。例え見間違いだったとしても、デカい内陸港があるのは確実だ」

「今回の船団でそこを目指すのはあっしらだけですか。上手くいきゃあ抜け駆けになりやすな」

ここ最近のクローゼン大陸との交易は、テラコーヤ王国で買い付ける迷宮産商品が増えている。特に魔法薬が人気で、嘘か誠か、若返り効果のある秘薬が売りに出されているとか何とか。

噂の真偽と、本当に実在しているなら入手方法の情報だけでも分かれば、大陸のお貴族様方にいい値で売れるだろう。

しばらく河口を進んで行くと、緩やかだった水の流れがやや強くなった。いよいよ川の下流付近まで来たかというところで、見張り役が報告をあげる。

「船長! 左舷前方に水門が見えやす! すげえでけぇ!」

「水門?」

それは初耳だと、船員達と共に船首の方へ集まる。そこには見張り役の報告通り、巨大な水門が聳え立っていた。その水門の鉄扉が、左右に分かれて開かれていく。

水門の両側には監視用なのか石塔が立っており、その天辺に立つ誘導役らしき作業員が、旗を振って『通行許可』の合図を送って来た。

水門の向こうにはかなり幅の広そうな水路と、石造りの立派な埠頭が見える。船長は大声を張り上げて誘導役に尋ねた。

「この水路はどこに繋がってるんだー?」

「王都カンソンの港だー! 入ったら帆は畳んでおいて大丈夫だぞー!」

船員達と顔を見合わせた船長は、とりあえず進んでみようと船の進路を水門に向けた。巨大水門をくぐって水路に入ると、途端に流れが穏やかになり、船が安定する。

「ようこそ、テラコーヤ運河へ! あんたらが一番乗りだ!」

監視塔の誘導役からそんな歓迎と祝福の言葉を受けた『冒険号』は、まずはテラコーヤ運河の入り口の埠頭に着けて臨検を受ける。

彼らはここで初めて、『迷宮自販機』なる存在を知る事になるのであった。