軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50:各勢力の状況(後編)

踏んだり蹴ったりな状況に陥り始めているヴィヴァーレ王国。

その南東部に栄えるサマラヴォイ聖国では、最近ヴィヴァーレ軍の動きが鈍くなった事に対する分析を進めていた。

「どうやら、テラコーヤとの紛争で痛手を受けているようですな」

「ヴィヴァーレの密偵部隊に多くの離反者が出ているという噂も聞こえてきます」

ヴィヴァーレ王国とテラコーヤ王国に住む信者達からの情報を纏めると、ヴィヴァーレ側は聖国とテラコーヤとの繋がりを恐れて、早急に手を打とうとした結果、藪をつついて蛇を出したと見られる。

「切っ掛けは、例のダンジョンが奴隷商人から我が国の巡礼者を保護した一件ですか」

助け出された被害者達が、テラコーヤ国領内の教会に身を寄せて、そこから聖国に連絡が来たのだが、この動きを察知したヴィヴァーレが聖国とテラコーヤの同盟を疑った。

「ヴィヴァーレは、彼の国の主産業である奴隷貿易が妨げられるのを嫌いますからな」

このままヴィヴァーレ王国が疲弊してくれれば、利権を争っている鉱山からヴィヴァーレの勢力を締め出せるかもしれない。

「イレギュラーダンジョンといえば、聖域に認定したハイスーク領の西端の森が気になりますな」

そこには今、『都村』と呼ばれる巨大都市ができているらしい。

王都カンソンの教会本部は、ハイスークの新領都パスカーレに移転する予定だったが、『都村』の方に変更したい旨を伝えてきていると聞く。

「近く、テラコーヤ王国で政変が起きるかもしれないという噂も聞きますが……」

「テラコーヤ王家は、ハイスークを守護者に据えてこれまで通り存続するという見方が多い」

今まで王家の後ろ盾だった武闘派貴族連合の反発で、内乱が起きるかもしれないという意見も出ている。

が、これに関してはハイスーク領とイレギュラーダンジョンの事をよく知っている層と、そうでない層とで大分認識に隔たりがある。

「まあ、我々は状況が落ち着くまで静観の構えで良いだろう」

サマラヴォイ聖国の今後の方針は、ヴィヴァーレ国の動きに注意しつつ、テラコーヤ国の情勢を見守るという方向で定まった。

テラコーヤ国内にある、いくつかの裕福な領地。その中でも、武闘派貴族連合の中核を担う重鎮が治める領地にて。

緊急臨時会合で連合の主立った領主が集まり、対策が練られていた。

「王都は完全にイレギュラーダンジョンの支配下にあるようだ」

「つまりは、実質ハイスークがテラコーヤを牛耳っているわけか……世も末だな」

「皮肉を言っている場合ではないぞ! このままでは――」

「うむ。いずれ我らの領地も、ハイスークのイレギュラーダンジョンに呑まれるだろうな」

序盤から悲観的な声が並ぶなか、勇ましく気勢を上げる者も居る。

「即刻、ハイスークを討つべきだ!」

「その意見には同意だが、問題はそれが可能かというところだ」

「現状では、恐らく不可能だろうな」

今代の領主も先代と同じく傑物の武人だが、先代よりも政治に聡いところがあり、優秀な側近が付いて諸侯への根回しも抜かりない。

「何よりも、あのイレギュラーダンジョンの存在だ」

「しかり。あれが在る限り、迂闊に手が出せない」

「高ランク冒険者を雇って討伐してしまうか?」

「現状、こちらに従う冒険者はいないだろう」

イレギュラーダンジョンは冒険者にも人気だ。サマラヴォイ聖国のヴォイエス教会がその存在を受け入れており、有象無象の平民層から流通を担う商人達にまで支持されている。

武闘派貴族連合にとって、現状はまさに八方塞がりであった。

ダンジョンに呑まれる以前に、武闘派貴族連合が保有する今の戦力では、ハイスークの領軍に対抗できない。

テラコーヤ王国軍部の凡そ七割を掌握していた武闘派貴族連合だが、王都から撤退というか、追放されるような形で自領に引き篭もる彼らには、単純に動かせる兵力が足りていなかった。

「やはり、外部の勢力を呼び込むしかないのでは……」

「しかし今の状況で外に頼ると、確実に足元をみられるぞ」

カンヤーツ子爵がゼイラーロフ領とのトラブルで下手を打った事で、他国の大商会連合から武器や軍資金を得る策が破綻してしまった影響も大きい。

かつての戦乱時代、『武勇同盟』という最大派閥かつ最高戦力の集まりだった彼らに、今や当時のような武威はなく、日々権謀術数に励む策士集団になっている。

もっとも、他者の功績を掠め取っていた策士なところは、当時からあまり変わっていないのかもしれない。

「とにかく、現状は戦力を集めつつ様子を見るしかあるまい」

「ハイスークは王権の簒奪までは考えていないようだからな」

流石に今まで通りとはいかないであろうが、状況が落ち着けば、これまでテラコーヤ王国を支えてきた古参の貴族連合としてまだ影響力を保持できる筈。

そんな希望的観測も抱きながら、武闘派貴族連合の緊急臨時会合は『様子見』一択で終わったのだった。

※ ※ ※

各国、各勢力が各々の動きを見せるなか、街づくり好きな迷宮核は迷宮列車の開発に勤しんでいた。

いずれはクローゼン大陸を端から端まで横断する列車を走らせる計画を立て、まずはテラコーヤ王国内の主要な街を繋ぐ環状線を構築。

人を運ぶ客車よりも先に、荷物を運ぶ貨物車両を走らせる。

「主要な街を幹線で繋いで、そこから地方の街に支線を伸ばす感じでいくか」

基本は地上を走らせるが、場所や環境によっては地下を走らせる事も検討する。

ある程度まで形を整えてから、ハイスークを始め各街の領主達にもお知らせボードで概要を伝える予定だ。

領域化街道脇に新しい道が敷かれている様子を、テラコーヤ王国の民達は次は何が起きるのだろうかと、期待を込めて見守っていた。

それからしばらく経って、王都の人工ダンジョンに使われていた魔核が目覚めた。

――のだが、元からなのか、人為的に弄られた影響なのか、コミュニケーションに少々難があった。西の森の魔核によれば、意識ははっきりしており、魔核としての機能自体に問題はないという。

「目覚めて早々で悪いけど、迷宮列車の運行を頼めるか?」

『是』

「とりあえず空の貨物列車を魔動力車で引いて、今敷いてある線路を一周してくれ」

『是』

実際に走らせて問題点を探り、それらを修正しつつ本格運用に繋げるという迷宮核の説明に、王都の魔核は『是』と返した。

「もしかして、是と否しか答えられない?」

『否』

「そっか」

出力的にはごく短い返答しか発せられないが、中の意識はちゃんと思考もしているようだ。

『――』

「そうだな。君も言葉じゃないけど伝わってるもんな」

中腹の魔核が自然にフォローに入るなど、先輩魔核達との関係も問題なさそうだった。

「じゃあ改めて、新しいメンバーの追加だ」

街づくり好きな迷宮核は、そう言って王都の魔核を初期位置――湖に沈んだ泉の底に設置した。西の森の魔核。麓の魔核。中腹の魔核。そして王都の魔核が、迷宮核と並んで鎮座する。

『愕』

『私も最初はそうなった』

『そうだよな。そうなるよな』

『――』

光の射し込む水の底だが、地上に設置された事に愕然としている王都の魔核に、他の魔核達は然もありなんといった反応で同意していた。