軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46

ヴィヴァーレ国の工作で暴走状態となった、王都カンソンのダンジョン。

王国騎士団と冒険者達が鎮圧に尽力していたが、王都の冒険者ギルドに 所属して(残って) いる冒険者には上位種の魔物と渡り合える実力者が少なく、手こずっていた。

騎士達も魔物が相手では勝手が違い、苦戦している。

中層の魔物数体を撃退したものの壊滅的な被害を出しており、下層の魔物が上がってくればもう抑えきれないという状況に追い込まれていた。

既にダンジョンの出入り口一帯は無数の魔物で溢れている。

その様子が王城の緊急会議の席に報告されるや、ハイスークからの応援を断らせた武闘派貴族連合の重鎮に批判が集まった。

「このままでは王都が甚大な被害を受けてしまう」

「やむを得まい、ここは改めてハイスークに援軍要請の打診を――」

「今さら無理だ! 先程ハイスークの騎士団がヴィヴァーレ軍と交戦状態に入ったと、国境地帯の連絡員から報告が届いた」

「ハイスークの部隊は転移陣を使うのだろう? 何とか一部だけでも呼び戻せないのか」

「そんな事をすれば、現場に混乱を招く! ヴィヴァーレに領地をかすめ取られるぞ!」

「まずはハイスークの領主殿と交渉をせねば。通信魔道具は使えぬのか?」

「領主殿はヴィヴァーレ軍と戦っている最中だと聞く。現状では連絡の取りようが……」

「いや、そもそもなぜ総指揮本人が前線で戦っているのだ」

「あそこは先代からそうでしたぞ」

「どうするのだ! こうしている間にもダンジョンが溢れて、手が付けられなくなるぞ!」

紛糾する緊急会議。良い解決案の一つも挙げられず、罵倒と嘆きが飛び交い、責任転嫁の嵐が吹き荒れる。

そんな不毛な時間が過ぎていく会議室に、新たな伝令が駆け込んで来て告げた。

「ハイスーク領から応援の冒険者部隊が現れました! ダンジョンの入り口を占拠していた魔物の群れは掃討され、街に入り込んだ魔物も間もなく討伐される見通しです!」

突然の朗報に、一瞬静まり返る会議室。やがて諸侯らから喜びと安堵の声が零れようとした時、武闘派貴族連合の重鎮がおもむろに問う。

「まて、ハイスーク領からだと? どういう事だ」

王都の外から応援の部隊が来たという報告は受けていない。訝しむ重鎮に、伝令は冒険者達の部隊がハイスークの新領都から転移陣で直接跳んで来た事を説明する。

王都内には既にイレギュラーダンジョンの物と思われる石柱が多数生えており、浄化と治癒効果を持つ安全地帯が複数個所に設けられて怪我人も次々と回復している。

特別無料開放中と表示された迷宮自販機も並んでいて補給も万全。街中に発生していた魔力溜まりは順調に浄化され、単体でうろつく魔物のはぐれ個体も討伐が進んでいるという。

「現場の兵士達共々王都の民は皆、陛下のご采配を讃えておりました!」

そんな伝令の称賛と報告を聞いた武闘派貴族連合の重鎮は、弾かれたように立ち上がると国王に詰め寄る勢いで問い質す。

「陛下! ハイスークにダンジョンの接続を許したのですか!」

「えっ! 余は知らんよ!?」

その剣幕に圧されながらも、国王は「知らん知らん」と首を振った。

「まさか……!」

そうして武闘派貴族連合の重鎮は一つの可能性に思い至る。ハイスークのイレギュラーダンジョンを使った、人工ダンジョンの乗っ取りによる王都の掌握。

直ちに部下を呼んで方々へ情報収集に走らせた重鎮は、王都から速やかに脱出するルートを模索する。

(このまま 王都(ここ) に留まっていては不味い。隙を見て自領に引き揚げねば)

武闘派貴族連合の重鎮が内心の焦りを隠しながら会議室を出ようとしたその時、部屋の空気に微かな違和感がよぎった。

ふわりと温かくなるような感覚に、この会議の出席者達の大半は覚えがあった。

「む?」

「これは……」

「あの大舞踏会の――」

件の大舞踏会でハイスーク領まで出掛けた時、彼の地で滞在中に感じていた不思議な安心感。イレギュラーダンジョンの 安全地帯(セーフゾーン) に居る時のような、常時回復効果を受けている状態。

戸惑いのざわめきが上がる中、会議室の壁の一面に複数のパネルが出現した。

そのパネルには、国境地帯でヴィヴァーレ軍と戦うハイスーク騎士団の姿や、王都のダンジョン前に陣取り、溢れ出て来る魔物を討伐して押し込んでいる冒険者達の様子が映し出されていた。

※ ※

王都カンソンに配管ダンジョンで乗り込んだ街づくり好きな迷宮核は、人工ダンジョンに接続して西の森の魔核に王都の魔核を摂り込ませた。

「摂り込んだ?」

『摂り込めたが……なんともあっけないな』

『己の意思を持たぬ抜け殻の魔核が相手では、当然だろう』

『――』

王都のダンジョンが人工物であると分かった当初は、魔核も存在していないものと考えていたが、吸収した影騎士隊の情報から、実は取り外し式の魔核が存在していた事が分かったのだ。

この魔核がサポート要員に使えるかは分からないが、一応確保しておく事にした。

そうして王都全域をダンジョンの領域に収め、遂に王城も掌握。

偉い人達が集まっている会議室を見つけたので、お知らせボードを設置して現在の王都の状況や国境地帯の様子を映し出した。

反応は様々で、刺激的な映像にただただ釘付けになっている者も居れば、遠く離れた戦場の様子を鮮明に観測できるダンジョンの技術に、戦略的価値を見出す者も居る。

そんな諸侯達の中でも、こちらに対して強い警戒心と明確な敵対意思を持って王都からの脱出を考えている御仁が目に止まった。

「やっぱり武闘派貴族連合の人だったか。王都から出たそうにしてるし、外まで送ってあげよう」

ハイスークの領主さんにとっても仇敵のようなので、気軽に処分できない不穏分子は下手に内に留めておくよりも、さっさと放逐してしまった方が良いと判断。

小一時間ほど掛けて、王都中から武闘派貴族連合の関係者を根こそぎ集めた街づくり好きな迷宮核は、彼等を纏めて王都の外へ――各々の領地に繋がる街道前へと転移させた。

ちゃんと水や食料を積んだ馬車も人数分用意してある。

罠を警戒してか、中々動き出さなかった武闘派貴族連合の重鎮とその関係者達は、王都の外へ転移させられた者達の顔ぶれを見て こちらの意図(特定氏族の追放) を察したらしく、訝しみながら去っていった。

『敵対勢力なぞ、その場で叩き潰してしまえば良かったのではないか?』

「あの人達は結構大きな組織の要人とか末端だからね。連合の全貌が掴めるまでは、大っぴらに対峙しなくてもいいよ」

自分達が手を下さなくともハイスークの領主側が戦う気満々なので、闘争は彼等に任せてこちらはそのサポートをしつつ、あくまで街を造り発展させていく事を優先する。

街づくり好きな迷宮核は、手っ取り早い処分を勧める過激な麓の魔核をそう言って宥めた。

「さて、後はー――城内に高級迷宮自販機を並べときゃ良いな」

王城に残っている諸侯等の心情を読み取った限り、こちらに対する敵対意思や、領域化された一帯に身を置く事に、さほどの忌避感も持っていない事が分かった。

やはりあの大舞踏会での超快適生活体験が効いているようだ。

国王に至っては「イレギュラーダンジョンの領域に入ったなら、あの自販機の高級版が置かれるのでは?」と期待している心情まで読み取れる。

どうも王妃様が若返りの秘薬を欲しがっているらしい。

それというのも、件の 格付け大会(王国功労賞) で配った秘薬を独り占めしたせいで、高級迷宮自販機を置いている領地の婦人に掛け合っても、秘薬を回してもらえないでいるそうな。

「国のトップが既に陥落してたようなもんか」

特に意図もしていない根回しが済んでいた状態。

いずれにせよ、無益な血が流される事なく目的を達成できたのは、街づくり好きな迷宮核としても大変喜ばしい結果であった。

こうして、テラコーヤ王国の中枢たる王都カンソンは、イレギュラーダンジョンの領域に収まったのだった。