軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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深夜に発生したダンジョンの暴走騒ぎにより、王都カンソンには翌朝から戒厳令が敷かれていた。

イレギュラーダンジョンがもたらした情報によれば、今回の騒動は隣国のヴィヴァーレ王国による工作である可能性が示唆されていたのだが――

「確認がとれました! 国境付近に現れた軍部隊は、ヴィヴァーレ王国の『光明騎士団』で間違いありません」

「やはりそうか……」

このタイミングで事前に何の通告もなく国境まで軍を寄せて来た事からして、ヴィヴァーレによるテラコーヤ侵攻の意図が濃厚となった。

非常事態を受けて開かれた緊急会議の席で、重い溜め息を吐いた国王は、一応ヴィヴァーレ側に使者を出して開戦の意志を問う決定を下すと、ヴィヴァーレ軍が集結している国境付近の領地に援軍を送る準備も指示しつつ、国内の問題に議題を戻す。

「ダンジョンの正常化は何処まで進んでいる?」

「それが……魔素の過剰放出で深層を埋め尽くした魔物が瘴気の発生元となっており、制御装置で抑制できない濃度まで上がり続けている状況で――」

緊急分離装置の復旧で迷宮部分と魔核は分離されているが、迷宮側に溜まった魔素と瘴気で魔物が湧き続けている状態だという。

「先程の連絡では、中層の採掘場を徘徊していた下層の魔物が上層にまで上がって来たそうで」

「……まずいな」

このままダンジョンが溢れてしまえば、王都中に魔物の大群が放たれる。それは何としても防がなければならないと、国王は冒険者ギルドに魔物の緊急討伐を依頼する。

「兵団は使わないので?」

「騎士と兵達はヴィヴァーレ軍の牽制に回したい。ダンジョンの鎮静化は 冒険者(専門家) 達に任せよう」

周辺の領地にもヴィヴァーレと国境を接する地方領地に応援を送るよう要請を出す。

「陛下、ハイスークから国境と王都、両方に援軍を送る用意があると打診が来ています!」

「そうか! それは心強い」

ハイスーク領は地方にも同盟領地を持っており、イレギュラーダンジョンの転移を使えばどれだけ距離があっても直ぐに駆け付ける事ができる。

その事は王都近郊のゼイラーロフ領が元王弟カシナートのやらかしで被害を受けた際、元王弟の治めていた隣領オーテイアに、即日ハイスークの騎士団が攻め入った件で知られている。

早速、地方領地の国境警備と、王都カンソンにもダンジョン暴走の鎮圧に応援を送ってもらおうとする国王だったが、この緊急会議に出席している武闘派貴族連合の重鎮が待ったをかけた。

「陛下、お待ちを。ハイスークの軍は全て国境地帯に向かわせるべきです」

王都には入れない方が良いと主張する武闘派貴族連合の重鎮に、国王は一瞬訝しんだが、彼等が言わんとする事は理解できた。

「……余は、信頼してもよいと思うが――」

「ですが、警戒はしておくべきでしょう」

暴走鎮圧にかこつけて、王都カンソンのダンジョンの主権を奪われでもしたら一大事という懸念。

このところハイスーク領の人気は高まっており、イレギュラーダンジョンの認知度も広まっている。

同時に、これまでの事実無根な悪評や、大領地派閥を中心に宮廷貴族達の間で冷遇されていた事も一般に知られるようになってきた。

王家は厚遇していたつもりだったが、ハイスークに対する口さがない噂を積極的に咎めるでもなく放置していたので、同じように冷遇していたと見做されていてもおかしくはない。

万が一、ハイスークの領主が簒奪の動きを見せた場合、民衆はハイスーク側に付くだろう。

「例え叛意は見えずとも、このような窮状の時こそ慎重になるべきです」

「う~む」

国王の心情的には、武闘派貴族連合の言い分は穿ち過ぎに感じるが、彼等の忠言も無下にはできない。

熟考した結果、ハイスークには国境地帯の領地へ援軍に赴いてもらい、王都のダンジョン鎮圧は冒険者ギルドと王都の騎士団で当たる事になった。

一方、王都から援軍に関する返答を受けたハイスーク領主達。

「ヴィヴァーレとの国境地帯まで遠征か」

「どうやら、武闘派貴族連合から横やりが入ったようですね」

王都の城に潜らせている諜報員から届いた、緊急会議の様子と内容。

それらの情報を纏めた書類を片手に説明する側近は、武闘派貴族連合がかなりこちらを警戒している旨を告げる。

「民衆と裾野の中小貴族が大半、こっちに付いているからな」

「流石に危機感を覚えられましたか」

ハイスークを目の敵にしている大領地派閥の四家や、彼等に同調する上流層の貴族達は、その動機とする理由が大体単純なやっかみの類である。

対して、武闘派貴族連合は、先代国王による拡大政策の中、ほぼ全ての家がハイスークの初代領主から手柄を奪う形で出世しており、現領主からの報復を恐れているが故の警戒であった。

「まあいい。どのみちヴィヴァーレ国の侵攻には対処せにゃならんし、此度の騒動で王都に何かあっても、こちらの与り知らぬ事だと堂々主張できる大義名分を得たようなものだ」

「それはまあ……確かに」

ハイスークの領主は国王の要請に従い、ハイスークの騎士団を率いて国境地帯に赴き、そこに集結しているヴィヴァーレ軍と対峙する。

この活動はイレギュラーダンジョンがお知らせボードを使って同盟領地に『配信』してくれるそうなので、大いに活躍を見せつけるつもりであった。

そうしてハイスークの領主が国境地帯で戦っている間、イレギュラーダンジョンがどこで何をしていようと関知しないし出来ない。

彼のイレギュラーダンジョンは、発生した領地であるハイスークに益をもたらしてくれているが、決してハイスーク領の支配下にあるわけではない。

あくまで交渉して互いに協力し合う共生関係にある。

「上手くやってくれるだろうさ」

「きっと欺瞞の誹りの大合唱は免れませんよ?」

領主が自ら最前線に立つ事には異存を唱えない側近は、イレギュラーダンジョンが期待通りの成果をあげてくれた場合、国内の中立派や大領地派閥寄りの貴族を始め、武闘派貴族連合からも軒並み批判をぶつけられるであろう未来を察して肩を竦めた。

※ ※

ハイスークの領主が率いる騎士団を新領都パスカーレから南の国境地帯へと転移で送り出した街づくり好きな迷宮核は、王都カンソンに向かって配管ダンジョンを伸ばしていた。

「中の様子はどう?」

『封じ込めは手こずっているようだ。迷宮の入り口と思しき付近から魔素の流出が続いている』

『そこら中に魔力溜まりができているな。いつ魔物の無差別発生が始まってもおかしくないぞ』

王都に領域化地帯を近づけた事で、より詳細な情報を得られるようになった。そうして魔核達に王都内の様子を訊ねてみたが、どうやら芳しくない状況のようだった。

西の森の魔核と麓の魔核から、揃って『間もなく氾濫が起きる』との警告が出された。

「そっか。じゃあ大きな被害が出る前に接続しちゃおうか」

王都カンソンの人工ダンジョンを制圧に動く。これまではうっかり接触して影響を及ぼさないよう、気を使って距離を置いてきたが、それも今日で終わり。

今やハイスーク領はテラコーヤ王国内で最も勢いを持つ領地。

新領都パスカーレは王都カンソンを始め、他のいずれの大領地の首都と比べても頭一つ抜けて発展しており、冒険者ギルドの本部が移転するほど。

イレギュラーダンジョンの中枢が鎮座する西端の森は、クローゼン大陸で最大規模の信仰組織『ヴォイエス教』の総本山であるサマラヴォイ聖国から、『聖域』に認定される事が決まっている。

そして、今はカンソンにある教会本部も、パスカーレへの移転を希望していた。

十分な力と後ろ盾も得たハイスークは、もはや誰に憚る事なく国盗りに乗り出せるのだ。

(まあ、このタイミングでヴィヴァーレ国が侵攻して来た辺り、領主さんも持ってる人なんだろうな)

今回の王都の人工ダンジョン攻略は、ハイスークの領主と明確に取り決めた訳ではなかったが、「自分の留守中に王都を押さえておいてくれると助かる」という旨の説明をされていた。

なので実質、下克上のお手伝いである。

先日吸収した『影騎士隊』から得た記憶情報により、王都のダンジョンの制御装置や魔核の位置も把握しているので、速やかに迷宮部分を制圧して王都の魔核を摂り込み、氾濫も事前に防ぐ。

地下を行くシールドマシン型ゴーレムにより、配管ダンジョンが王都の城下街まで到達した。

「さて、それじゃあ始めるか。順次領域化していくから、魔力溜まりの処理は頼んだよ」

『任せよ』

『――』

『我も参加したかったのだがな』

クリアメダルを管理している作業量の多い麓の魔核は手が離せないので、西の森の魔核が中心となって王都内に散らばる魔力溜まりを祓う役割を担い、中腹の魔核がサポートに付く。

街づくり好きな迷宮核は、王都内に水撒き柱を生やして侵食を開始。領域化で安全地帯を設けつつ、人工ダンジョンの迷宮部分に接続を試みた。