作品タイトル不明
90.四属性金属リング
近くに生えていた木の前に立つ。
「まずは、魔法発動の検証から」
品質85の指輪を人差し指にはめる。すると、指輪から属性の力を感じる。これなら、魔力を通すだけで魔法が使えそうだ。
「じゃあ、まず火の魔法から」
人差し指を木に向けて、指輪に少しの魔力を通す。すると、指先から火が飛び出し、木にぶつかった。
「出た!」
火は木に燃え移り、どんどん広がっていく。
「わっ! 燃える! 水、水!」
すぐに指輪に魔力を通す。すると、水が噴射されて火を一瞬で消した。
「うん、火も水も問題なく使える。じゃあ、土と風は?」
再度、木に向かって指を構える。魔力を通すと、今度は指から石が飛び出してきて、木に衝突する。木には大きなへこみが出来た。
「じゃあ、風!」
すかさず魔力を通すと、手から風が飛んだ。木に接触すると、大きな傷が出来た。
「うん。どの属性もちゃんと魔法が使える。しかも、詠唱なしで。これは、とっても便利じゃない?」
職業選定の儀式で得られる職業と能力、そこで魔法を授からなければ魔法は使えない。その常識を打ち破った、魔法アイテム。
魔力さえあれば、誰だって魔法を使えるようになる。
「これで、私だって戦えるようになる。もっと、遠くの素材採取にいけるってもんだよ」
あとは、この四属性金属リングを扱えるようになるだけだ。もっと、自由に魔法が扱えるようにならなければ。
「あっ、そうだ! 品質100との威力差の検証もしなくっちゃ」
目的はそれだ。品質85と品質100の指輪を交換した。
「品質の差は15だけど、どれだけの威力の差が出るんだろう」
ドキドキしながら、指を構える。そして、先ほどと同じ魔力を通して、火を放った。すると、目の前が真っ赤に染まる。
「わっ!?」
先ほどよりも大きな火の玉が飛び出し、一瞬で木のてっぺんから根まで火に包む。先ほどとは、全然威力が違う。
「凄い……こんなに威力に差があるの!?」
倍以上も威力が違う! たった15の品質の差でこんなに差が出るとは驚きだ。それとも、品質100が特別なのだろうか?
「こ、これは凄い魔法アイテムを作ってしまった……」
まさか、こんなに威力が違うとは思ってもみなくて、自分でもビックリしてしまった。錬金術……凄い。
「とにかく、魔法アイテムは出来たんだ。家族に見てもらわないと!」
真の目的を忘れてはならない。この魔法アイテムを使って、素材採取の範囲を広める。その為には、自分が戦えると家族に安心してもらわないといけない。
木の火を消すと、私は屋敷へと戻っていった。
◇
標的に選んだ大木へと、静かに手をかざす。
次の瞬間。指先から放たれた火は、ただの火球ではなかった。轟音とともに奔流となって叩きつけられ、幹に触れた瞬間、上へ、下へと一気に走り抜ける。
ゴォォォォッ!!
炎は枝葉を呑み込み、樹冠を焼き尽くし、そのまま根元へと食らいつく。逃げ場を失った熱が内部で爆ぜ、木全体が内側から燃え上がった。
だが、間髪入れずに手を返す。
「水!」
空間が歪むように揺れ、次の瞬間、滝のような水流が叩き落とされた。
ドォンッ!!
爆ぜるような水圧が炎を押し潰し、白い蒸気が爆発的に吹き上がる。ジュウウウウッと耳を焼く音とともに、さっきまで荒れ狂っていた炎は一瞬で消え失せた。
視界が白に染まる中、さらに力を解放する。放たれた石は弾丸のような速度で空気を裂いた。
ヒュンッ――ガァンッ!!
衝撃が遅れて届く。分厚い幹に直撃した石は、そのままめり込み、内側を抉り取りながら突き抜けた。木の胴体に、拳では済まない巨大な穴が穿たれる。
ぐらり、と大木が揺れた。だが、終わりじゃない。
「風!」
呟いた瞬間、圧縮された空気が解き放たれる。
ドンッッ!!
目に見えない衝撃が叩きつけられた瞬間、幹が悲鳴を上げた。
ミシィッ――バキィィィン!!
亀裂が一瞬で走り、次の瞬間には耐えきれずに弾け飛ぶ。巨大な木は真っ二つにへし折れ、轟音とともに地面へと崩れ落ちた。
ズゥゥゥン……!
地面が揺れ、土煙が舞い上がる。そこに残ったのは、無残に引き裂かれた大木の残骸だけだった。
「これが、私の作った四属性金属リングの威力だよ! どう? 凄いでしょ!」
そう言って、家族に向かって振り向くと――。
「「「……」」」
家族は目を丸くして、固まっていた。
「……あの、どう?」
おずおずと尋ねると、引きつった笑顔を浮かべていたファルスお兄様が――。
「こ、これはとんでもない品物だよ! たった指輪一つで四属性の魔法が使えるんだから! それに、この威力! 信じられない!」
パッと明るい表情になって、声を上げた。すると、頭を抱えていたロザンお父様がバッと顔を上げて、私を抱きしめてきた。
「うおぉぉっ! うちの娘は凄い、めちゃくちゃ凄いぞ! アイテム一つでこんなことを可能にするんだから! ルイは偉いなぁ!」
「ロザンお父様、首取れる!」
力いっぱいに頭を撫でられて、視界がぐわんぐわんする。その時、アマリアお姉様に手をギュッと握られた。
「これはとんでもないことよ、ルイ! 職業選定の儀式でしか得られなかった魔法が、アイテム一つで可能になったんだから! もう、ルイは神様よ!」
「そ、それは言い過ぎだよぉ……」
と、とにかく、家族にはこの魔法アイテムの凄さを分かってもらえたようだ。
すると、家族が顔を見合わせて真剣な表情になった。
「とんでもないものが出来た。だから、これまで以上にルイを守らねばな」
「このアイテムは秘蔵にした方がいい。この力が欲しい人はたくさんいる」
「これまで以上にルイと一緒にいて、守るわ」
何故か家族同士で意思疎通が出来ているように言葉を交わした。えっと、何故このアイテムでさらに守られる存在になったのか……。
力を示したんだから、危険な場所に行っても大丈夫だよね? 不安そうな視線を向けていると、話し合っていた家族がこちらを向いた。その顔には笑顔が浮かんでいる。
「ルイはそのままでいい。後のことは、父さんたちに任せろ」
「これからも好きなように錬金術をしてもいいからね」
「まずはそのアイテムを使いこなせるようにならないと。私が付き合ってあげるわ」
何だか分からないけれど、認めてないってことじゃないみたい。
「じゃあ、これで一人で遠いところに素材採取に行っても大丈夫だよね!」
「それはダメよ。必ず私がついていくから」
「えー!?」
くっ……まだ一人で行ったらダメか。アマリアお姉様に頼ることになるだろうけれど、その方が安全か。
「じゃあ、そのアイテムを使う練習をするわよ」
「うん、ありがとう! じゃあ、行ってきます!」
アマリアお姉様が森に向かって歩き出すと、私は二人に手を振って離れていった。早く上手に使えるようになって、遠くの素材採取地に行けるようになるんだ!