軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65.王都に帰還

それから私たちはヴェルーザ山下層を拠点にしながら同じ手順でモーンワームを捕獲していった。

時には糸を吐かれて危うく動きを封じられかけ、時には地面からの奇襲に驚かされながらも、そのたびに連携を深めていき、必要量を確保するまでひたすら森を歩き続けた。

そして――馬の背に揺られながら、私はゆっくりと顔を上げる。前方に、石造りの高い城壁が見えてきた。王都だ。

一週間に及ぶ素材採取の旅が、ようやく終わろうとしている。

王都は出発前よりもどこか輝いて見えて、あの門をくぐれば日常へ戻るのだと思うとほっとする。同時に少しだけ名残惜しいような不思議な感覚が胸に広がった。

一人では、きっとどうにもならなかった。

森での戦闘も、生体採取の難しさも、野営の準備も、魔物の気配を探ることも、私ひとりでは不安だらけだ。どこかで無理をして失敗していたかもしれない。

けれど、アルビスさんがいてくれたから、全部が「なんとかなる」範囲に収まっていたのだと、今ならはっきり分かる。

素材の痕跡を見つけるのがとにかく早い。過去の経験を生かして、どんどん素材を発見してくれたのは助かった。

地面のわずかな乱れや葉の食い荒らされ方を見ただけで魔物の位置を推測してしまう観察力には何度も驚かされた。戦闘では無駄のない動きで確実に仕留め、あるいは捕らえ、私が安全に作業できる状況を必ず整えてくれた。

それだけでも十分すごいのに、野営地では手際よく火を起こし、私が採取や整理に集中している間にさっと食事を用意してくれて、その料理がまた驚くほど美味しくて、疲れた体に染みわたる味だったのだから、本当に至れり尽くせりという言葉がぴったりだった。

最初は正直、不安の方が大きかった。

山の下層なんて危険だし、生体採取なんて成功するかも分からないし、迷惑をかけるんじゃないかと心配もしていた。

けれど、振り返ってみれば、危ない場面はあっても致命的な失敗はなく、必要な素材はきちんと集まり、こうして無事に王都へ戻ってこられている。

馬の揺れに身を任せながら、私は小さく微笑む。大変だったけれど、得たものは素材だけじゃない。経験も、自信も、連携も、ちゃんと持ち帰ることができた。

「……無事に終わったね」

思わずそう呟くと、後ろに座っていたアルビスさんから声がかかる。

「まだ王都に入るまでが依頼だ」

と、いつもの調子で返してきた。その変わらない声音に、私はくすりと笑いながら、近づいてくる王都の門をまっすぐ見つめた。

初めは不安だらけだった一週間の旅は、こうして確かな達成感とともに幕を閉じようとしている。

「アルビスさん。今回は本当にありがとう!」

「役に立ってよかった」

短いその返事があまりにもあっさりしていたから、私は思わず苦笑してしまった。けれど胸の奥から込み上げてくる感謝の気持ちはどうしてもその一言では収まりきらなくて、改めて声を張った。

「役に立った、どころじゃないよ。アルビスさんがいなかったら、最初のモーンワームで私、完全に終わってたし……生け捕りだって、あんなに完璧に拘束できる人、そうそういないと思う」

思い返せば、枝の上から落とす角度も、暴れる巨体をいなす足運びも、縄を締める力加減も。どれ一つ取っても無駄がなくて、まるで長年連れ添った相棒のように自然に私の意図を汲み取って動いてくれていた。あれを「役に立った」の一言で済ませてしまうのはあまりにも惜しい。

「素材もたくさん見つけてくれたし、危ない時は必ず前に立ってくれたし、それに……」

私は少しだけ声を潜めて、けれどどうしても付け加えたくなってしまった本音を口にする。

「野営のご飯、すごく美味しかった。正直、あんなにちゃんとした料理が出てくると思ってなかった」

焚き火の上で手際よく煮込まれていくスープの匂いも、外で食べる焼きたての肉の香ばしさも。冷えた夜に差し出された温かい飲み物の優しい甘さも、どれもが不安で強張っていた私の心をほどいてくれたことを思い出して、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「本当に、至れり尽くせりだったよ。一人だったら、きっと途中で泣いて帰ってたと思う」

そこまで言ったところで、前に座るアルビスさんの耳がピクピクと動いているに気づき、私は目を丸くした。

「……言いすぎだ」

低くぼそりと返ってくる声は、いつもの落ち着いた調子を保っているのに、ほんの少しだけ硬くて、どこか居心地が悪そう。私は思わずくすりと笑ってしまう。

「事実だもん。アルビスさん、すごく優秀だよ。強いし、判断も早いし、無茶しないし、ちゃんと私の話も聞いてくれるし」

「……褒めすぎだ」

プイッとソッポを向く。その仕草が可愛らしくて、なんだか似合わない。

「照れてる?」

「照れていない」

即答だったけれど、その横顔は明らかに視線を逸らしていた。普段は冷静沈着な人のそんな一面を見られたことが、なぜだか少しだけ嬉しくて、私は胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。

「……まぁ、依頼分の報酬はきっちりもらったしな」

「報酬の件は本当に助かったよ」

「……ああ。次があるなら、また呼べ」

「うん、絶対に呼ぶ」

そう約束すると、アルビスさんは踵を返し、振り返ることなく通りの向こうへと歩いていった。その背中はいつも通り頼もしくて、けれどどこか少しだけ名残惜しく感じられて、私はしばらくその姿を見送ってから、ようやく屋敷の扉へと向き直る。

重厚な扉を押し開け、久しぶりの我が家の空気を胸いっぱいに吸い込む。磨き上げられた床の光沢と高い天井が目に入り、旅の間に慣れた森の匂いとはまったく違う、落ち着いた香の匂いが鼻をくすぐった。

その時。

「やぁ、ルイ、おかえり」

聞き慣れた、柔らかくてどこか余裕のある声がエントランスに響く。顔を上げると、階段の手前に立っていたのは、整った微笑みを向けた人。

「……ファルスお兄様? どうしてここに?」

いないはずの人がいて思わず目を瞬かせる私に、ファルスお兄様は楽しそうに目を細めた。

「ルイが心配だったから、ちょっと様子を見に来たよ」