軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57.薬師協会専属の冒険者(1)

魔物を倒さなければいけない。

でも、私が一人で倒せるのは、せいぜいゴブリンくらいまでだ。それ以上となると、正直かなり怖い。運が悪ければ、簡単に命を落とす。

いつも私を守ってくれて、素材採取にも付き合ってくれたアマリアお姉様は、今は領地にいる。つまり、今の私のそばには頼れる強い人がいない。

協力してくれる誰かが必要だ。そう分かっているのに、肝心の「当て」がない。

私は小さく息を吐いた。

「うーん……どうしよう」

考えられるのは、冒険者ギルドに依頼すること。でも、そこまで思いついて、すぐに現実が頭に浮かぶ。

――お金。

冒険者を雇うには、当然報酬が必要だ。しかも、魔物討伐となれば、それなりの実力者を雇わなければならない。

うちは、貧乏だ。胸を張って言えることじゃないけど、事実だ。冒険者を何日も雇えるほどじゃない。

良い人を雇おうとすれば、お金が足りない。お金が少ない依頼なら、腕の立たない人しか来ないかもしれない。

それで、もし途中で何かあったら?

「……それじゃ、本末転倒だよね」

自分の身を守るために雇った人が原因で、かえって危険に晒されるなんて、笑えない。

私は思わず、頭を抱えた。

どうしてこう、上手くいかないんだろう。何か……何か、突破口はないの?

ぐるぐると考えていると、不意に、ある光景が脳裏をよぎった。錬金術の実演をしていた、あの日。あの冒険者。

クロヒョウの姿をした獣人で、静かで、でも圧倒的に強そうだった。

……あの人。あの場にいたのだから、薬師協会に関係があると思う。それに、私の錬金術にも興味を示してくれた。

もし、あの人にお願いできたら――。

薬師協会経由なら、普通に冒険者を雇うより、報酬も抑えられるかもしれない。

「……うん」

少しだけ、胸の奥に光が灯った気がした。問題は、その人と直接の繋がりがないこと。でも――。

スウィンなら、知ってるかも。一人で悩んでいるより、相談した方がいい。私は頭を上げ、気持ちを切り替える。

よし。まずは、スウィンに話してみよう。

「えっ? クロヒョウの冒険者に、協力を依頼したい?」

スウィンのところへ戻るなり、私は思い切ってお願いを切り出した。最初こそ目を丸くしていたけれど、事情を順を追って説明していくうちに、スウィンの表情は次第に落ち着いていく。

「なるほどね。魔物の素材を使って、風邪薬を改良する……ってことか。それなら確かに、魔物と戦える人は必要だ」

「うん。いつも手伝ってくれていたアマリアお姉様も今はいないし、王都で伝手のない私には……あの人しか思いつかなくて」

「知らない土地なら、信頼できる人の伝手を使うのが一番だよ」

そう言って、スウィンは納得したように頷いた。

「それでね……できたら、スウィンから紹介してもらえないかな?」

「紹介すること自体は構わないよ。なんて言ったって、彼は薬師協会の専属冒険者だから」

「えっ、そうなの!?」

思わず声が上がった。

冒険者が、薬師協会の専属。それって、かなり珍しいんじゃないだろうか。

ということは、薬師協会に関わる私の依頼なら、話を聞いてもらえる可能性も……?

期待が膨らみかけた、その時だった。スウィンの表情が、ふっと曇る。

「ただし……彼は高ランクの冒険者で、腕は確かだ。魔物討伐を任せる相手としては、これ以上ない」

「うん……」

「でもね、彼なりの基準があるみたいでさ。気に入った相手の依頼じゃないと、絶対に受けないんだ」

「……え?」

嫌な予感が、胸をよぎる。

「彼が受けてきた依頼は、どれも名の知れた薬師のものばかり。それ以外は、どんな内容でも断ってる」

「そんな……」

思わず、言葉が詰まった。つまり、新任の私は、その基準に届いていない可能性が高い、ということ。

胸に浮かんだ期待は、すっと冷や水をかけられたように静まっていった。

自然と、あの獣人の姿が脳裏に浮かんだ。

ポーションの効果を、疑いもせずに確かめてくれたこと。

普通なら、皮膚の表面を少し傷つけるだけで十分だったはずなのに、彼は迷いなく、自らの手の甲を貫通させてまで証明してくれた。

あれは、ただの好奇心だったのだろうか。それとも、錬金術そのものに何かを感じ取ってくれたのだろうか。

私の錬金術に、可能性を見出してくれたのではないだろうか。

だとしたら、可能性はゼロじゃない。

「……それでも、彼に依頼したい」

私は顔を上げ、まっすぐにスウィンを見る。

「彼は、錬金術に期待してくれているんだと思う。だから……話を聞いてくれる可能性はある」

不安が消えたわけじゃない。断られるかもしれないし、冷たくあしらわれるかもしれない。

それでも。そう信じたい気持ちの方が、今は強かった。

きっと、大丈夫だ。根拠は薄くても、私は自分の錬金術を信じると、そう決めていた。