軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.開かれた道

翌日、私たちは改めてオルフェン伯爵家を訪れた。

「昨日は取り乱してすまなかった。ようやく、気持ちを落ち着けることが出来たよ」

「いえ、大丈夫です。それで、アリスティア嬢の様子は?」

「あぁ、今朝目を覚ました。目を開けた途端、自分の体が楽になっているのが分かったらしくてな。毒が消えたと伝えると、とても喜んでいた」

ロザンお父様の問いに、トレイト伯爵は心底ほっとしたように頷いた。

「すべて、ルイ嬢の作った解毒薬のお陰だ。改めて、正式に礼を言わせてほしい。本当にありがとう」

「いえ、とんでもございません。お力になれたのであれば、何よりです」

そう答えると、トレイト伯爵は深く頭を下げた。貴族である伯爵が、迷いなくそうしたことに、私は思わず息を呑む。

「ルイ嬢の力は、ただ優れているという言葉では足りないな」

一度顔を上げ、伯爵は真っ直ぐに私を見た。

「他の鑑定士では判別できなかった毒の種類と進行段階を、即座に見抜いた判断力。そして、薬師たちが匙を投げた薬の調合を、迷いなく形にした錬金術。それも、娘の容態が刻一刻と悪化している状況で、だ」

言葉を区切り、噛みしめるように続ける。

「知識だけでは出来ない。経験だけでも足りない。状況を見極め、必要なものを正確に導き出し、結果として命を救うところまで到達している。……それは、立派な人を救う技術だ」

その言葉は、胸の奥に静かに染み込んできた。

これまで未知だと警戒され、理解されることのなかった錬金術が、ようやく一つの価値として受け止められたのだと実感する。

トレイト伯爵の言葉は、努力が形になった証のようで、言葉に出来ない充足感を私の中に残した。

「そうなんです! ルイの錬金術は人を救うことの出来る立派な技術です」

少し勢いよく言い切ったロザンお父様。続けて、真剣な表情で訴える。

「錬金術は、まだ世に広く知られていない技術です。だからこそ、危険だ、得体が知れないと警戒されるのも無理はありません。ですが、未知であることと、有用でないことは、決して同義ではない」

ロザンお父様の視線はとても真剣で、私のためにトレイト伯爵を説得しているようにも見える。

「目の前に、その答えがあります。アリスティア嬢の命を脅かしていた毒を見抜き、対処し、確かに救った。それは偶然でも奇跡でもありません。積み重ねた知識と、正確な判断、そして錬金術という技術が噛み合った結果です」

静かだが、確信に満ちた口調だった。

「新しい技術は、最初は理解されません。ですが、人の役に立ち、命を守る力があるのなら、それはいずれ正しく評価されるべきものです」

トレイト伯爵はしばらく黙したまま、その言葉を噛みしめていた。やがて、ゆっくりと息を吐く。

「確かに、これは未知の技術だ。だが、娘を救ったという事実が、それ以上の証明になる。錬金術は、人を救う力を持つ技術だと認めよう」

その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。ロザンお父様が、私の肩にそっと手を置いた。

「よくやったな、ルイ。お前の努力は、ちゃんと人の命に届いている」

その一言は、何よりも嬉しかった。

トレイト伯爵はしばし黙したまま、私とロザンお父様の顔を交互に見つめていた。やがて、深く息を吸い込み、ゆっくりと口を開く。

「……私も、認識を改めよう」

その声は静かだが、確かな決意を帯びていた。

「錬金術を危険視し、遠ざけようとしていた。だが、それは知らなかったからだ。知らず、理解しようとしなかったからこそ、価値を見誤っていた」

一度言葉を切り、伯爵ははっきりと告げる。

「娘を救ったこの技術を、個人の才能として埋もれさせるつもりはない。錬金術は、人を救う力を持つ技術だ。その事実を、私の立場から、きちんと世に示そう」

思わず息を呑む私を前に、トレイト伯爵は続けた。

「オルフェン家として、この件を正式に報告する。薬師協会にも話を通し、今回の治療経過と結果を記録として残す。そして錬金術を、正しく理解し、正しく評価するための場を設けよう」

その言葉に、ロザンお父様がわずかに目を見開く。

「薬師協会は、影響力が大きい。彼らが動けば、錬金術は『得体の知れない技術』ではなく、『検証され、人の役に立つ技術』として認知されていくはずだ。私も、出来る限りの後押しを約束しよう」

重みのある言葉だった。それは、感謝の延長ではなく、未来を見据えた約束だった。

錬金術が、個人の技から、誰かの命を守るための技術として広がっていく。その第一歩に、自分が立っているのだと、はっきり自覚した。

「……ありがとうございます」

ようやく絞り出した声は、少し震えていた。

「錬金術が正しく理解され、人を救う技術として扱われるようになるなら……これほど嬉しいことはありません」

トレイト伯爵は、静かに頷いた。

「期待しているぞ、ルイ嬢。この技術が、どれだけの人の役に立つのか。私は、それを見届けたい」

その言葉を聞きながら、私は胸の奥で、そっと決意を固める。

この力は、もう私一人のものではない。人を救うための錬金術として、応えていかなければならないのだ、と。

「錬金術が発展するように、私も出来る限りの尽力をしよう。何か、必要なものはあるか?」

「でしたら……薬師協会の資料室を使わせてください。素材について、もっと深く学びたいのです」

「分かった。では、ルイ嬢が自由に薬師協会を出入り出来るよう、私の名で手配しよう」

「ありがとうございます」

深く頭を下げながら、胸の内で静かに息を整える。これで、必要な知識に手が届く。

素材の性質を知り、組み合わせを理解できれば、錬金術の可能性はさらに広がるだろう。それは、新しいアイテムを生み出すだけではない。家族の病に向き合うための、確かな手がかりにもなる。

知らなかったから出来なかったこと。知れば、きっと出来ることが増えていく。

私はそっと拳を握りしめ、心の中で誓った。

錬金術が、人を救う技術として認められた。その事実を、私は静かに噛みしめる。

これまで積み重ねてきた知識も、試行錯誤も、すべては家族のためだった。けれど、今は違う。

この技術は、誰かの命を守り、苦しみを和らげるために使える。そう信じていいのだと、ようやく胸を張って言えるようになった。

そして、経験を重ねていき、家族の病を治す。

知識はもう手の届くところにある。学び、積み重ね、形にしていけば、きっと辿り着ける。

錬金術で、人を救う。錬金術で、大切な人を守る。

人の役に立つ錬金術師として、ようやく歩み始めた。