軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39.ポーションの効果

「ロザンお父様! ファルスお兄様!」

私は扉を勢いよく開け、執務室へ飛び込んだ。書類に目を通していた二人が、揃って顔を上げる。

「いきなりどうした?」

「そんなに慌てて……何かあったのかい?」

「うん! アマリアお姉様の薬が出来たの!」

その一言に、ロザンお父様は椅子を鳴らして立ち上がった。

「それは本当か!?」

「朗報だね」

「二人にも薬の効果を見てもらいたくて……一緒にアマリアお姉様の所に来てくれる?」

「もちろんだ。ルイの作った薬の効果、ぜひこの目で確かめたい」

「どれほど良い物が出来ているのか、楽しみだよ」

「じゃあ、今すぐ行こう!」

二人は迷うことなく頷き、席を立った。私はそのまま二人を連れて執務室を出ると、アマリアお姉様の自室へと向かった。

扉をノックして部屋に入ると、ベッドの上にはアマリアお姉様が横たわっていた。

「ルイ、来てくれて嬉しいわ。ちょうど暇をしていたところなの」

「傷の具合はどう? 痛くない?」

私が尋ねると、アマリアお姉様は柔らかく微笑む。

「えぇ、大丈夫よ。今は特に問題ないわ」

けれど、その言葉にロザンお父様が眉をひそめた。

「何を言う。あの傷で問題ないはずがない。まだ痛みはあるだろう」

「もう、お父様!」

アマリアお姉様が少し強い口調で声を上げる。

「ルイが心配する気持ち、分からないの? わざわざ不安になるようなことを言わなくてもいいでしょう」

「むぅ……しかしだな……」

父娘のやり取りを見て、私は思わず一歩前に出た。

「お姉様も、だよ」

「……え?」

「嘘はよくない。ちゃんと正直に言って」

一瞬、アマリアお姉様は言葉に詰まり、視線を逸らした。

「……だって。ルイが、もっと心配すると思って……」

「心配するに決まってるよ! あんな大きな傷を負ってたんだから」

私の言葉に、アマリアお姉様は小さく息を吐き、困ったように笑った。

「……迷惑をかけて、ごめんなさい」

「まぁまぁ、二人とも。その話は一旦ここまでにしよう」

そう言って、ファルスお兄様が穏やかに割って入った。

「今、大事なのは別のことだろう?」

「別のこと?」

「ルイがね。アマリアのために、薬を作ってきてくれたんだ」

「えっ!? ルイが……私のために!?」

驚いたアマリアお姉様は、思わず勢いよく体を起こす。

「……っ!」

けれど、次の瞬間には顔を歪め、小さく息を詰まらせた。

「もう、アマリアお姉様。無理しちゃだめ」

「だって……ルイが私のために薬を作ってきてくれたなんて……」

胸に手を当てながら、アマリアお姉様は震える声で続ける。

「嬉しくて……嬉しくて、じっとしていられなかったの」

「喜んでもらえたなら、それだけで作った甲斐があるよ」

怒ったり、落ち込んだり、そして今は心から喜んだり。アマリアお姉様は感情の起伏が忙しい。

だけど、そんなふうに感情を隠さずにいてくれるところが、私は大好きだし、大切にしたいと思っている。

「それで、どんな薬なんだい?」

「傷に塗る薬か?」

ファルスお兄様の問いに、私は首を振った。

「ううん。飲んで、傷を治す薬だよ」

「飲む……?」

「うん。これ、ポーションっていうの」

私は【素材保管】から、小さな瓶を取り出した。中には、淡く光を宿したポーションが揺れている。

「これを飲めば、一瞬で傷が痕も残さず消えるよ」

「一瞬で、痕も残さず……だと!?」

「それが本当なら、とんでもないことだよ!」

私の言葉に、ロザンお父様とファルスお兄様は同時に声を上げた。無理もない。この世界には、飲んで傷を治す薬など存在しないのだから。

「絶対に効くって、約束する」

私はアマリアお姉様をまっすぐ見つめる。

「だから……飲んでみてくれない?」

「もちろんよ!」

アマリアお姉様は、迷いの欠片もない声で言い切った。

「だって、ルイが私のために作ってくれたんでしょう? 飲まない理由なんて、どこにもないわ」

初めての飲む傷薬。内心では不安もあったけれど、それを押し流すような明るさで、アマリアお姉様は私から瓶を受け取った。

「待って。もし、ルイの言う通りなら……」

ファルスお兄様が顎に手を当てて言う。

「傷口の糸は、先に取っておいた方がいいんじゃないかな?」

「そうだな。ポーションが本当に効くなら、縫合糸はむしろ邪魔になる」

アマリアお姉様の傷は、まだ糸で縫われたままだ。癒える瞬間に糸が残っていれば、確かに問題になる。

ロザンお父様はすぐに判断し、手際よく処置を始めた。

「……よし、これでいい」

糸を取り終えると、穏やかに言う。

「アマリア。ポーションを飲んでみなさい」

「えぇ、もちろんよ」

アマリアお姉様は瓶の蓋を開けると、ためらうことなく口元へ運ぶ。そして、一気に飲み干した。

「……傷口は?」

誰ともなく呟いたその言葉に、全員の視線がアマリアお姉様の脇腹へと集まった。

次の瞬間――切り裂かれていたはずの肌が、まるで時間を巻き戻すかのように、ゆっくりと動き出す。

裂け目の縁が引き寄せられるように近づいていく。肉が盛り上がり、皮膚が重なり合い、傷だった境目が次第に分からなくなっていく。

「……塞がっていく。これが、ポーションの力……?」

ファルスお兄様の声は、驚きで震えていた。

縫い跡も、赤みも、かさぶたさえ残らない。ただ、滑らかで、何事もなかったかのような肌が現れていく。

「凄い……。こんな回復……聞いたことも、見たこともない……」

ロザンお父様は、目を見開いたまま動けずにいる。やがて、最後に残っていた薄い線すら消え去った。

そこには、傷など最初から存在しなかったかのような、綺麗な肌だけがあった。

「……嘘」

アマリアお姉様が、震える声で呟く。

「本当に……何も、残ってない……」

恐る恐る指先で触れてみても、違和感はない。硬さも、引きつれも、痛みも――何一つ。

「アマリアお姉様、調子はどう?」

「……痛みが、全くないわ」

一拍置いてから、アマリアお姉様の顔がぱっと輝く。

「凄い……本当に凄いわ! これが、ルイの作ったポーションなのね! ルイ、あなた……本当に凄い!」

感極まったように、アマリアお姉様は私をぎゅっと抱きしめてきた。

「こんな薬を作れるなんて、さすが私の妹よ! ルイはね、やれば何でも出来る子なの!」

「ぐっ……あ、アマリアお姉様……苦し……!」

「ありがとう、ルイ! 本当にありがとう!」

喜びの勢いそのままの抱擁は、正直かなり苦しい。必死に耐えていると、横からファルスお兄様が苦笑しながら割って入った。

「こらこら。抱き潰したら元も子もないよ」

「あ……ご、ごめんなさい。つい嬉しくなってしまって……」

アマリアお姉様は名残惜しそうに腕を離す。

「それにしても……もう、そんなに動けるんだね」

「えぇ。体に力を入れても、全然痛くないの」

そう言って、アマリアお姉様は軽く腕を動かし、腰をひねってみせる。

「まるで……怪我をする前に戻ったみたい」

私をぎゅっと抱きしめられても平気なほど、回復している。それが何よりの証拠だった。

とにかく、ポーションが期待通りの効果を発揮してくれて、本当に良かった。

それまで黙っていたロザンお父様が、深く息を吐いた。

「……いやはや。これは、とんでもないことだ。傷が一瞬で塞がり、しかも痕も残らないとは……」

呆然とした様子で、もう一度アマリアお姉様の脇腹を見つめる。

「まるで回復魔法をかけたかのようだ。神の奇跡……それ以上かもしれん。正直に言おう。こんな光景は、長年生きてきて初めて見た」

そう言ってから、私へと視線を向けた。

「ルイ。お前は本当に、とんでもない物を作ったな。今までの薬も十分に驚かされたが……これは別格だ」

「え、えっと……」

急に褒めてきて、思わず口ごもってしまった。やっぱり、この世にない物を作ったから?

「そんなに凄いかな? ちゃんと効くように、考えただけなんだけど……」

「それが凄いんだよ」

今度はファルスお兄様が、くすっと笑って口を挟んだ。

「ちゃんと効くように考えたら、誰も見たことのない薬が出来た。それを、凄いと言わずして何と言うんだい?」

「う……」

言われて、言葉に詰まる。

「ルイは、本当に大したものだ。家族として、これほど嬉しいことはない」

笑顔で頭を撫でられた。家族に褒められるのって、案外照れるものだ。

「そうだわ! せっかく元気になったんだもの、お母様にも知らせないと!」

アマリアお姉様は、ぱっと顔を輝かせる。

「ルイがどれだけ凄いことをしたのか、いっぱい話してあげるわ!」

そう言うや否や、ベッドから飛び降りて、私の手をぐいっと引いた。

「えっ、ちょ、ちょっと……いいよ、そんな……」

「いいえ、ダメよ!」

アマリアお姉様は振り返って、きっぱりと言い切る。

「ルイが頑張ったことなんだから。お母様だって、絶対に知りたいはずよ」

「そうだな、知らせてやろう。どれ……みんなで行くか」

「賛成だね。家族みんなで、ルイを褒めないと」

どうやら、イザベルお母様のもとへ行って、そろって私を褒めるつもりらしい。

「もう……大げさだよ……」

そう言いながらも、引かれる手を振りほどくことはしなかった。胸の奥が、むずむずと落ち着かない。恥ずかしいけれど――本当は、とても嬉しい。

私の作ったポーションが、アマリアお姉様の体を癒し、そして今、家族みんなの表情を明るくしている。

それだけで、もう十分すぎるほどだった。手を引かれながら、私は小さく笑う。

この温かさを守れて、本当に良かった。