軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.新しい錬金術の魔法

「まずは、素材を調べるところからだよね」

屋敷に戻ると、私は机に向かい、生活圏素材辞典を開いた。

「欲しいのは、ファルスお兄様の筋力を増強する成分。それさえあれば、移動の時や体を動かす時に、きっと役に立ってくれるはず」

ただ単純に筋肉を大きくするだけじゃ駄目だ。一時的に力が上がっても、体に負担が掛かれば意味がない。

「理想は……自然に筋肉の働きを底上げして、疲労を溜めにくくする感じ」

そう呟きながら、私は指先で空中のページをなぞる。

筋力増強、と一口に言っても分類は多い。瞬間的な爆発力を高めるもの、持久力を伸ばすもの、回復を早めるもの――。

「ファルスお兄様の場合、必要なのは瞬発力よりも安定性かな」

領地を見回るため、移動が多い以上、長時間動ける体の方が重要だ。となると、狙うべきは――。

「筋繊維の強化とか、魔力循環で補助的な役割を担うとか……それに、疲労物質の分解」

条件を思い浮かべると、自然と候補が絞られてくる。それを元にページを開いて、素材を探していく。

「あっ、これは……? グラストの実。筋肉の伸縮性を助ける成分が含まれている……」

指先で文字をなぞりながら、私は小さく唸った。

「うーん……惜しい。伸縮性じゃないんだよね」

悪くはない。けれど、私が求めているのは筋肉そのものの働きを底上げする素材だ。力を出す時、体を動かす時、その一歩を支えてくれるような――そんな成分。

ページを繰り、また繰り、視線を走らせる。けれど、筋肉の働きを直接助けると明記された素材は、どこにも見当たらなかった。

「そ、そんな……ないの? ……い、いや……」

思わず声が裏返りかけて、私は深呼吸をひとつする。

「……考え方を変えよう。直接じゃなくて、魔力循環を補助する素材なら……」

ファルスお兄様は、体は弱い。けれど、魔力そのものは決して少なくない。

それはきっと、高名な冒険者だったロザンお父様の血を引いているから。ロザンお父様も、いつもそう言っている。

あいつには、俺と同じだけのポテンシャルがある、って。

もし、体が万全になったなら。いつか家族みんなで、魔物討伐に向かう日が来るかもしれない。

ロザンお父様も、ファルスお兄様も、アマリアお姉様も。きっと、並んで立つ姿はとても格好いい。

「……はっ、いけない」

ふと気づいて、私は首を振った。

「今は、素材探しに集中しなくっちゃ」

少しだけ頬が熱くなりながら、私は気持ちを切り替えて辞典をめくる。

「えっと……魔力回復系。魔力の伝導率を高めるもの。魔力の発現を助けるもの……」

一つ一つ、丁寧に確認していく。

「……うーん。やっぱり、魔力循環を補助的に支えるタイプの素材は見当たらないなぁ」

辞典を閉じるには、まだ早い。きっと、どこかにヒントはあるはずだ。そう信じて、私はもう一度、ページをめくった。

「えーっと……あ、あった」

私は思わず前のめりになった。

「成分を強化する素材……それに、血の循環を助ける成分もある……」

指先で項目を追いながら、頭の中で次々と線が繋がっていく。

「もし、これらを筋肉に作用する成分と、魔力の流れと、同時に噛み合わせることが出来たら……」

そこまで考えた瞬間、背筋に電流が走った。

「――あっ」

心臓が、どくんと大きく跳ねる。

確か、そうだ。前世で遊んでいたあのゲームでは――。

複数の成分や効果をただ足すんじゃない。一つに束ねて、まったく新しい能力として再構築する技術が存在していた。

私は、確かにそれを使っていた。あり得ない組み合わせを組み上げて、想定外の効果を引き出して――。

「……待って」

胸の奥が、じわじわと熱くなる。

「もしかして……私の錬金術でも、それが出来る……?」

考えるよりも先に、体が動いていた。

「調べよ……!」

勢いよくステータス画面を開き、錬金術の項目へ。魔法一覧を一つずつ、息を詰めるように確認していく。

そして――。

「あった……」

指が、自然とその文字の上で止まった。

「『合成』」

たった二文字の魔法名。なのに、それはこれまで不可能だと思っていた壁を、軽々と飛び越える鍵に見えた。

単なる素材の調合じゃない。概念そのものを繋ぎ合わせ、新しい力を生み出す魔法。

その文字を意識した瞬間、視界の端が淡く光り、説明文が静かに展開された。

【合成】

・二つ以上の成分・効果・能力を一つに束ね、再構築する錬金魔法。

・単純な足し算ではなく、相互作用を利用して新たな性質を生み出す。

・組み合わせ次第では、既存の分類に存在しない未知の成分、能力が発現する可能性がある。

※結果は素材の相性、術者の理解度、魔力の質に左右される。

「……なるほど」

私は思わず息を吐いた。

「成分を混ぜるんじゃなくて……一つの形に作り直すんだ」

だからこそ、未知が生まれる。だからこそ、既存の辞典には載っていない効果が現れる。

「筋肉に作用する成分には、成分を強化する素材を合成して。血の循環を助ける成分を血じゃなくて魔力に変えることが出来れば」

単なる筋力増強じゃない。体に無理をさせず、魔力の流れで支え、自然に動ける体を作る。

「……うん」

これは、いける。

辞典には載っていなくてもいい。この世界にまだ存在しなくてもいい。

「なら、作ればいいんだ」

合成の文字を見つめながら、私は小さく笑った。

未知の成分。未知の効果。

その未知への第一歩が、今、ここにあった。