作品タイトル不明
17.素材採取(1)
「まずは、ラクリマの枝からだね」
そう呟いて、私は家を出た。
「確か……ラクリマの枝は森じゃなくて、平原に生えてるんだったよね」
生活圏素材辞典に載っていた挿絵を、頭の中で思い浮かべる。
幹は細く、背丈はひざくらい。枝先には、細かい葉っぱが沢山ついているのが特徴。一見するとただの低木だけれど、近づくと独特の甘く青い香りがする――そんな説明だった。
「見覚えは、あるんだけど……」
視線を平原へ向ける。村の外には、なだらかな草地が広がっていて、似たような低木はいくらでも生えている。
「場所までは、さすがに覚えてないよね」
闇雲に歩き回れば見つかるかもしれない。でも、それだと時間も体力も無駄に使ってしまう。
「……うん、もっと良い方法がある」
私は歩みを止め、村の方へ振り返った。
畑仕事をする人。家畜の世話をする人。薪を運ぶ人。この土地で暮らし、この土地を毎日見ている人たち。
「村の人なら、きっと知ってる」
薬草として使われることは少なくても、邪魔にならない低木なら、草刈りの時や家畜を放している時に目にしているはずだ。
「ラクリマの枝が生えてる場所、聞いてみよう」
そう決めて、私は村の中へと足を向けた。
知識だけじゃ足りない時は、人に頼る。それも、大事な選択だ。平原に吹く風の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、私は素材探しの第一歩を踏み出した。
◇
「こんにちは!」
声をかけると、畑へ向かおうとしていた村人が足を止めた。
「おぉ、ルイ様。今日もお出かけですか?」
「うん、素材を探しに来たの!」
鍬を肩に担いだ村人は、にこやかに目を細める。陽射しを浴びたその笑顔は、いつもと変わらず穏やかだった。
「そういえば……成人になられましたな。おめでとうございます」
「ありがとう!」
十二歳で行われる職業選定の儀式。あれは進路を決めるだけでなく、「大人として扱われる」節目でもある。
だからこうして、以前より少しだけ対等な目で見てもらえるのが、少しくすぐったい。
「どんな職業を言い渡されたんですか?」
「錬金術師だよ」
「……聞き慣れない職業ですな」
一瞬だけ考え込むような顔をしてから、村人はゆっくりとうなずいた。
「ですが、ルイ様のことです。きっと立派に務めを果たしてくださるでしょう」
「えへへ……そんなこと言われると照れるよ」
でも、その言葉が嬉しかった。
「見てて。みんなの体も治すし、村ももっと住みやすくしてみせるから!」
「それは心強い。ルイ様が頑張れば、良いことがたくさん起きますな」
まるで自分の子どもを応援するみたいな口調。だからこそ、この村が好きだと思う。
この人たちのためにも、錬金術を活用したい。
「それはそうと、素材を探していると仰いましたな。何かに使うのですか?」
「ロザンお父様の不調を治すために、薬を作ろうと思ってるの。その素材を集めてるんだ」
「それは……素晴らしい。私に出来ることがあれば、何でも言ってください」
その言葉を待ってました!
「じゃあ……この低木、見たことある?」
【素材保管】から生活圏素材辞典を取り出し、ラクリマの枝の挿絵を見せる。
「あぁ、ありますあります」
村人は絵を覗き込み、すぐに頷いた。
「道の脇によく生えている低木ですね。草刈りの時に気を付けるやつです」
「本当!? じゃあ、案内してもらってもいい?」
「もちろんです。こちらですよ」
即答だった。やっぱり、聞いて正解だった。
村人と並んで歩きながら、他愛のない話を交わす。畑の作物の話や、最近の天気の話。そんな雑談をしているうちに、目的地はすぐに見えてきた。
「ほら、あれです」
指さされた先。道の脇に、辞典の挿絵とそっくりの低木が生えている。
ひざ丈ほどの高さ。細い枝の先は沢山の葉で覆われている。
「気を付けてください。触るとかぶれますから」
「うん、分かってる! 教えてくれてありがとう!」
「いえいえ。男爵様が早く楽になるといいですな」
村人は軽く会釈をすると、そのまま畑の方へ戻っていった。私はその背中を見送ってから、低木へと向き直る。
「念のため……」
鑑定をかける。
【ラクリマの木】
・草原に自生する低木
・独特の甘く青い香りを放つ
・枝に筋肉の緊張を和らげる成分を含む
・表皮には皮膚刺激性の成分あり
「うん、間違いないね。じゃあ【道具召喚】!」
光と共に現れたのは、厚手の軍手。しっかりと手にはめ、指先まで覆うのを確認する。
「これなら直接触れないし、安全」
それから慎重に枝を掴る。軍手越しなら、かぶれの心配はない。ぱき、ぽき、と乾いた音を立てて枝が折れる。
「思ったより簡単!」
枝は脆く、無理に力を入れなくても採取できた。葉を払い、必要な部分だけを選んで折っていく。気づけば、両手に収まりきらないほどの量になっていた。
「これだけあれば十分だね。よし、ラクリマの枝、ゲット!」
一つ目の素材、確保。
「次は……ルーファの根だね」
私は採取した枝を【素材保管】へとしまい、次の目的地へ向けて歩き出した。