軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.未来への希望

「今まで以上の効能を引き出し、有害な成分を消去する。それがどれほど凄いことか! これは、間違いなく革命が起きますよ!」

イルセ先生は、もはや興奮を隠そうともせず、力強く声を張り上げた。

「錬金術――そう呼びましたね。その能力があれば、既存の薬を改良することも、新しい薬を生み出すことも可能です」

「えっ!? じゃあ、イザベルお母様を治す薬も作れるの!?」

「ええ。可能性は十分にあります。錬金術とは、それほどの力を秘めた技術なのです」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥から温かなものが込み上げてきた。

まだ何をすればいいのか、具体的な道筋は見えていない。それでも、不可能ではない。と、はっきり告げられた事実が、心を強く支えてくれる。

「この世には、効能があると分かっていながら、毒性や副作用のせいで薬に出来なかった素材が数多く存在します。ですが錬金術があれば、それらから必要な部分だけを抽出し、薬へと昇華させることが出来る」

「じゃあ……その中に、お母様を治す素材も……?」

「必ずあります。そしてそれを形にするのは、ルイ様です」

自分が、やる。

誰かが代わりにやってくれるわけじゃない。偶然でも、奇跡でもなく、この手で掴み取らなければならない役目。

部屋の空気が、ふっと重みを増した気がした。喜びと同時に、逃げ場のない現実が輪郭を持って迫ってくる。

私しか……出来ない、かもしれない。

そう思った瞬間、胸がきゅっと締め付けられる。怖い。失敗したらどうなるのか、考えたくもない。それでも――。

寝台に横たわるイザベルお母様の姿が、脳裏に浮かんだ。苦しみを隠すように微笑う顔。痛みを堪えながら、家族を気遣う優しい声。

もう、あんな顔をさせたくない。

錬金術は、万能じゃないかもしれない。すぐに答えが出るとも限らない。何度も失敗して、遠回りをするかもしれない。それでも、「可能性がある」と言われた以上、立ち止まる理由はなかった。

小さな両手を、ぎゅっと握りしめる。指先がわずかに震えているのが分かった。それでも、その震えは次第に、確かな熱へと変わっていく。

「……私がやる」

声は小さい。それでも、不思議と揺らがなかった。イルセ先生が、静かに目を細める。

「覚悟は、簡単に持てるものではありませんよ」

「分かってる。でも……出来るかもしれないのに、何もしない方が、もっと怖い」

それは、背伸びでも、無理をした言葉でもなかった。心の奥から、自然と湧き上がった本音だった。

誰にも出来ないかもしれない。けれど、自分なら出来るかもしれない。

その「かもしれない」に、賭ける価値がある。

自分の胸に、静かだが揺るぎない決意が根を下ろしていく。それは、恐怖を押し消すほど強い勇気ではない。けれど、どんな困難にも折れずに前へ進ませる、確かな芯だった。

絶対に、諦めない。その想いだけが、はっきりと胸に残っていた。

その時、私の頭に乗せられた大きな手が、ゆっくりと撫でるように動いた。

「……聞いていたぞ、ルイ」

低く、けれど温かい声。顔を上げると、そこにはロザンお父様が立っていた。驚くほど穏やかな表情をしている。

「自分がやる、と言ったな」

ごつごつした指が、そっと私の頭から離れ、今度は肩に置かれる。その重みは、不思議と心を落ち着かせてくれた。

「その覚悟……簡単なものじゃない。大人でも、逃げたくなる重さだ」

「……うん」

ロザンお父様は、小さく息を吐き、そしてはっきりと言った。

「だが、誇らしい」

その一言が、胸の奥に深く突き刺さる。

「誰かに押し付けられたわけでも、強いられたわけでもない。自分で考え、自分で選んだ。その上で進もうとしている。私は……父として、それを誇りに思う」

視界が、じんわりと滲んだ。

「もちろん、一人で背負えとは言わない。失敗してもいい。立ち止まってもいい。困った時は、必ず私たちを頼れ」

「……うん、ありがとう」

声が少し、震えた。

すると今度は私の手をイザベルお母様が握った。

「……ルイ」

弱々しくも、優しい声。イザベルお母様が、私を見つめていた。いつものように微笑もうとして、少しだけ眉を下げる。

「あなたが頑張ろうとしてくれる気持ちは、とても嬉しいわ。本当に……胸がいっぱいになるくらい」

「イザベルお母様……」

けれど、その手はきゅっと握られ手震えていた。

「でもね、無理はしないで」

「……」

「あなたが苦しんだり、傷ついたりするくらいなら……私は、治らなくてもいい」

その言葉に、胸が強く締め付けられる。

「あなたは、もう十分すぎるほど、私たちに希望をくれているの。だから……それ以上、重荷を背負わなくていいのよ」

それは、逃げ道を用意する言葉だった。責任から解き放とうとする、母の優しさ。

ロザンお父様も、静かに頷く。

「そうだ。お前の人生は、お前のものだ。誰かのために壊す必要はない」

二人の視線が、まっすぐに私へ向けられる。責めるでも、期待を押し付けるでもない。ただ、私を守ろうとする眼差し。

なんて、優しい人たちなんだろう。胸の奥が、熱くなって、息が詰まりそうになる。

「……ありがとう」

小さく、でも精一杯の声でそう言った。

怖くないわけじゃない。失敗するかもしれないし、遠回りもする。それでも、何もせずに時間が過ぎていく方が、ずっと怖かった。

イザベルお母様の手を、そっと両手で包む。

「すぐに治せるなんて言えない。でも、学ぶ。考える。頼れるところは、ちゃんと頼る。だから、無理はしない。でも……諦めない」

顔を上げると、ロザンお父様が力強く頷いた。イザベルお母様も、涙を浮かべながら微笑んでいる。

「希望がある限り、私は前を向く。それが、私の選んだ道だから」

胸に灯った小さな光は、確かに消えない。

この手で、未来を掴んでみせる。