軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

義弟と姫君2(ナイジェル視点)

「今回の襲撃犯たちから、黒幕へと繋がる証拠が出る可能性は低いと思うわ」

……それは、わかっている。『いつも』そうだからだ。

「お母様のお腹の中には、男児かもしれないお子がいる。その上、私とナイジェルが婚約するとなれば……王位継承権を持つ者が側室側に加わる上に、新たな男児のための『畑』ができる。あちらが焦ってボロを出す可能性も、上がるんじゃなくて?」

エメリナ様はそう言って、頬杖をつきながらコツコツと爪で机を鳴らす。

……これは、マッケンジー卿の影響なのだろう。

慣れた相手といる時の彼女は、言葉の端々や所作が時折王女らしくない。

「貴方も早く、この面倒な状況から離れたいのでしょう? そのためには、お母様のお腹の子が無事生まれることが一番大事。そして次に、暗殺の首謀者の頭を押さえることがね。違う? 協力しなさい、ナイジェル・ガザード」

「そう……ですね」

王家の『男児』問題が解決すれば、私はいざという時の『スペア』という面倒な立場から脱することができる。

そして……自分で生き方が選べる身となるのだ。

「姉様に……偽装だと話してはいけないのですか?」

「そして貴方の素性のことも話すの? そこから世間に漏れたらどうなさるおつもり? ……貴重な王家の男子である貴方が今好き勝手にできているのは、その正体が世間に向けて隠されているからこそということをお忘れでなくて? ガザード公爵の今までの努力を、なんだと思っているの」

「ぐっ……。しかし姉様が、すでに私の素性のことを察している可能性も……」

「察するのと実際に知ることには、大きな差があるのよ」

正論で、叩きつけるように言われて私は言葉に詰まる。

「あちらの目を引きつけ、かき回し、尻尾を掴むためにも。そして自由の身となるためにも。せいぜい仲よくしましょうね?」

エメリナ様はそう言って、整った顔に美しい笑みを浮かべた。

「……ご出産の予定はいつなのです?」

「三ヶ月後よ」

「三ヶ月後? ずいぶんと公表が遅いのですね」

エメリナ様の答えに、私は眉を顰めた。

もうすぐ、生まれるのではないか。こんな時期まで世間に公表されていないのは、異常と断言できる。

「陛下とも話し合って懸命に隠したもの。本当は生まれるまで隠しておきたかったくらいよ。来週には正式な発表がされるわ」

「……なるほど」

もともと陛下はご側室に肩入れされている。だからそんな話も通ってしまうのだろう。

「私のしたかった話は、これでお終い。ナイジェル、扉を少し開けて。気軽な『ふつう』のお話をここからは楽しみましょう?」

「わかりました」

話がはじまる前にきっちりと閉じていた扉を、少しだけ開ける。すると、バタバタと忙しなく行き交う兵士たちの足音が部屋へと流れ込んできた。

――姉様とマッケンジー卿は、まだお戻りにならないのかな。

そんなことを考えながら席へと戻る。

「……マッケンジー、遅いわね」

エメリナ様も同じことを考えていたようで、ぽつりとそう零した。

「ウィレミナ様ったらずるいわ。マッケンジーにエスコートされるなんて。どうしましょう、二人がいい雰囲気になっていたら……」

エメリナ様の『想い人』は、マッケンジー卿だ。

四十歳も年上の騎士に、彼女はとにかく夢中である。

姉様もマッケンジー卿に好意があるご様子だし……あの男には年下の女性を惹きつけるなにかがあるのだろうか。たしかに国一番に強く、頼りになり、公平で優しく、ユーモアの類もあるが……

――姉様とマッケンジー卿を二人きりにしたのは、失敗だったかな。

胸の中に、不安が一気に渦巻いていく。

「いい雰囲気になんて、なるはずがないでしょう。ええ、なるはずがありません」

「あら、なるかもしれないじゃない。マッケンジーは素敵だもの」

「たしかに、姉様は素敵なので……わからなくもないですけれど」

「なによ。その言い方だと、マッケンジーに魅力がないみたいじゃない」

「そうは言っておりません」

「……この姉馬鹿」

「……老人の尻を追いかけ回す、物好き姫」

私たちは睨み合い……どちらともなくため息をついた。

「マッケンジーの魅力を理解していないなんて。本当に馬鹿ね、ナイジェルは」

「馬鹿とはなんですか、馬鹿とは」

「あら。自覚がないのなら、さらに大馬鹿よ」

「エメリナ様にそんなふうに言われる筋合いはありませんよ。エメリナ様だって――」

そんなふうに言い合いをしていると、部屋の外に待ちに待った気配を感じた。

兵士たちの足音に混じっていても聞き分けられる――姉様の上品な足音だ。

喜色を顔に溢れさせ、部屋を出た私が目にしたのは――マッケンジー卿と腕を組んだ、姉様の姿だった。