軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 タゼア家の秘密

コクリと頷いたアイリーン様の頬に、大粒の涙が流れていった。

「毒の作り方だけではありません。禁書には、他にもさまざまな危険なことが書かれています。でも、禁書は暗号で記されていて、普通の人には読めないのです」

私は気がつけば、「暗号……」と呟いていた。なるほど。だから、禁書が失われてから何十年も経つのに、今まで悪用されていなかったのね。

アイリーン様は、ハンカチで涙をぬぐっている。

「もちろん、この件と禁書が関係ない可能性もあります。でも、禁書を悪用している者がいるのなら、このまま野放しにはできません」

それまで静かに耳を傾けていたリオ様が口を開いた。

「もし禁書の悪用だとすると、銀食器に反応しない毒に、タゼア家の者がかかわっていることになるが?」

リオ様のいうことはもっともで、タゼア家の者しか禁書の暗号が解けないのなら、そういうことになってしまう。

顔を上げたアイリーン様の瞳には、覚悟が見えた。

「はい……。だからこそ、カルロス陛下の許可を得て私が使者としてここに参りました。どうかバルゴアの力をお貸しください」

「なるほど、そちらの事情はわかった。あの毒については、実はバルゴアでも調べていたんだ」

「そうだったのですか?」と驚く私に、リオ様は頷いて見せる。

「セレナや俺にもかかわりがあることだったし、バルゴア領でも使用されていないか知る必要があったから」

そう言いながらリオ様は、部屋の隅に控えていたエディ様を手招きした。

エディ様は、姿勢正しく丁寧な口調で報告する。

「調べた結果、バルゴア領内では、その毒を使用されて死亡したと思われる事例はまだ見つかっていません」

リオ様が「王都のように裏家業で稼いでいる情報屋なんてバルゴアにはないからなぁ。それがよかったのかもしれない」と続ける。

王都の情報屋に多額の金銭を支払って、銀食器に反応しない毒を手に入れた人物こそ私の実の父だ。父が毒を購入したようなルートがバルゴア領にはないとのことで、私はホッと胸を撫で下ろす。

その後は、アイリーン様もタイセン国が持っている情報を共有してくれた。

「我が国でも、とんでもない金額で取引されていました。そのせいか、実際にその毒が使われた事件は、まだ一件しかありません」

私は静かに頷いたあと、リオ様を見つめる。

「希少価値が高いのですね。毒を一度にたくさん作れないのかも?」

「だろうな」

リオ様は、アイリーン様に向き直った。

「ひとまず、協力要請の内容はわかった。この件で、辺境伯である父が反対することはないだろうが、少し時間をいただきたい」

「もちろんです」

ソファーから立ち上がったアイリーン様は、メイドによって客室へと案内される。その後ろ姿を見送ったあと、リオ様は悩むように腕を組んだ。

「うーん。まずは、王都で使われた毒と、タイセン国で使われた毒が同じものなのか調べるところから始めたほうがいいな」

私はハッとなった。てっきり同じ毒だと思い込んでいたけど、もし違う毒だった場合、さらに話が複雑化する。

そのことに気がつくなんて、やっぱりリオ様はすごい。

エディ様がリオ様に「でもよ」と声をかけた。アイリーン様がいなくなったので、いつもの気心が知れた話し方に戻っている。

「セレナ様の実家で使われた毒は、王都側が回収しているぞ。どうするんだ?」

「王家に協力願いを出すしかないだろうな。でも、そうなってくると、この件はだいぶややこしくなりそうだな。俺は、考えるより体を動かすほうが得意なんだが……」

ため息をつくリオ様の肩に、私はそっと触れた。

「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」

「セレナがそう言ってくれるなら頑張れる」

パッと表情を明るくして人懐こく笑うリオ様の後ろで、エディ様がボソッと呟いた。

「さすがは猛獣使いセレナ様。あなたが幼少期からリオのそばにいてくださったら……。コイツは、礼儀作法の先生からも逃げ出さなかったんだろうな」

遠い目をするエディ様とは違い、リオ様はニコニコしている。

「セレナの幼少期かぁ、すごく可愛かったんだろうなぁ。今ももちろん、ものすごく可愛いが」

リオ様とエディ様は、同時に「ハァ」とため息をついた。でもそこに込められた意味はまったく違っているので、私はクスッと笑ってしまった。