軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 悪者で敵②【リオ視点】

俺は勢いよくディークを振り返った。ディークは、まだ現状を理解できていないようで、剣を向けられているアイリーン嬢を見て呆然と立ち尽くしている。

「ディーク!」

強い口調で名前を呼ぶと、ようやく我に返ったのか、ディークは慌てて王宮騎士達の前に出た。

「何をしているの⁉」

隊長と思われる騎士が「陛下のご命令です」と伝える。

「父さんの?」

ディークは、騎士とアイリーン嬢を交互に見たあと「じゃあ、行こう」と言った。

セレナが「アイリーン様は私とずっとここにいました。彼女は犯人ではありません」と訴えても、誰も聞こうとしない。

アイリーン嬢だけがセレナをチラリと見て、全てをあきらめたような笑みを浮かべながら、少し頭を下げた。

俺を振り返ったセレナは、今にも泣きだしそうな顔をしている。

「リオ様、アイリーン様は犯人ではありません」

「分かっている」

セレナの耳元で、「ディークがコニーとアレッタを攫った犯人だった」と囁くと、セレナは驚きながら「何が目的だったのですか?」と眉をひそめる。

「セレナが社交界の毒婦と呼ばれていることをディークが知って、激しく誤解したらしい」

「あっ、それは……」

セレナは、アイリーン嬢が胸に抱えている紙束が、セレナを貶める内容が書かれたウソの文書だったと説明してくれた。

「アイリーン様は、何者かが私を貶めようと文書を偽造したと言っていました」

「なるほど。ディークがライラ嬢のメイドからもらったというセレナの情報は、その偽造文書のようだな」

俺は腕を組むと、「ううっ」と思わず小さく唸ってしまう。

「なんというか、話がだいぶややこしくなってきたな」

「はい。私も、少し混乱してきました……」

こそこそと会話をする俺達の前に王宮騎士が来て「あなた方も証人として来てください」と丁寧な態度で伝えた。

元より冤罪をかけられているアイリーン嬢をそのままにするつもりはない。

俺とセレナは視線を交わし、お互いに小さく頷いてから、王宮騎士のあとを追った。

そのまま謁見室に招かれた俺達は、客人としての扱いを受けたが、アイリーン嬢はまるで罪人のように王宮騎士に取り囲まれている。

王座に座っているタイセン国王は、二人の王子と同じ金髪碧眼で、若いころはカルロスやディークによく似ていたのだろうなと思わせる風貌だった。

俺が子どもの頃に会ったときより、だいぶ年を重ねている。

タイセン国王は、険しい表情をしていたが、ディークが「父さん!」と言いながら王座に駆け寄ると、その表情は和らぎ口元に笑みを浮かべた。

「おおっ、ディーク! ケガをしたと聞いたが無事か?」

「無事じゃないよ! 鼻から血が出て大変だったんだ」

再び表情を険しくしたタイセン国王は、なぜかアイリーン嬢を睨みつける。

「アイリーン。おまえがついていながら、なんという失態だ。まったく、タゼア家だからと期待しすぎたようだな」

吐き捨てるようにそう言ってから、タイセン国王は俺に視線を向けた。

「リオ、久しいな。そなたには迷惑をかけた」

迷惑をかけたと言いながら、タイセン国王からは殺意に近い悪意を感じる。本当なら俺を殺してしまいたいが、そうもいかないから我慢しているといった感じだろう。

タイセン国王の威圧から、セレナを守るように俺は一歩前に出た。ここで大人しく引く気はない。

「迷惑とは、どの件のことですか?」

俺の態度は不敬と取られても仕方ないものだったが、こちらに悪意を持っている者に礼儀を払う必要はない。

「火事と誘拐のことだ。どちらもアイリーンの仕業だと分かった。アイリーンはこちらで厳重に処罰する。慰謝料はそちらが望むだけ支払おう。……リオ、これで手を打たないか?」

意味ありげな視線を向けられて気分が悪くなる。何かを含んだ遠回しな言い方は苦手だ。でも、分かっていることは、タイセン国王は全ての罪をアイリーン嬢に被せることで、この場を収めようとしている。

そうなってしまえば、アイリーン嬢は死罪を免れない。

ディークを『平和の象徴』と言い、平和を願っているといいながら、こんな残酷な提案をするなど理解できない。

俺はタイセン国王の問いに返事をせず、代わりに「どうしてアイリーン嬢が犯人なのですか?」と思ったことをそのまま返した。

タイセン国王は分かりやすく不快そうな表情を浮かべる。

「それは、実行犯である騎士達が、アイリーンに命じられたと証言したからだ」

「実行犯の騎士達に、俺も会わせてください」

「なんのために?」

「真実を知るためです」

「断る。これは我が国で起こったことだ。我が国の法で対処する」

そう言われれば、さらに踏み込むことは難しい。でも、俺はこのままタイセン国王の言いなりになるつもりはない。

「バルゴアの民を攫うように指示したのは、ディークです。ディークの顔のケガは、攫った護衛騎士にやられたと本人が言っていましたよ」

ディークは気まずそうに俯いた。

「何か誤解があるようだ。そうだな、ディーク?」

タイセン国王の言葉に、ディークは「う、うん」と戸惑いながら返事をする。

そのやりとりで、タイセン国王は誘拐した犯人がディークだと知った上で庇っていることが分かった。

国王は次にアイリーン嬢に声をかける。

「アイリーンよ。お前がこのまま罪を認めて大人しく罰せられれば、タゼア家の長年の悲願を叶えてやろう。どうだ?」

俺の背後でセレナが、アイリーン嬢の事情をこそっと教えてくれる。

「王家は、アイリーン様がディーク殿下の婚約者になり彼を補佐することの褒美として、タゼア家が戦争時に盗まれてしまった大切な書物や資料を捜索することを約束していたそうです。なので、アイリーン様がこのままディーク殿下の罪を被れば、その褒美にタゼア家の書物の捜索をしてやろう、という意味かと」

「なるほど」

ようするに、タイセン国王は、タゼア家の願いを叶えてほしかったら、ディークの代わりに死ねと言っているということか。そして、バルゴアには、金を払うから今回のことを見逃がせと言っている。

舐めた真似を……。

こんなことを平気で言ってくる男が、隣国の王を続けていれば、いつどんな理由でバルゴアを攻撃してくるか分かったものじゃない。

俺の中で、タイセン国王をここで潰しておかなければという気持ちが強くなる。俺は再びタイセン国王に質問した。

「では、火事は? アイリーン嬢が火をつけた証拠はあるのですか?」

ニヤリと笑ったタイセン国王は、「証拠がある」と言い切った。

「火事の現場からアイリーンが出て来たのを見た者がいる」

タイセン国王が手招きすると、真っ青な顔のメイドが震えながら出て来た。国王に「先ほど見たことを証言しろ」と言われて、今にも消えてしまいそうな声で、アイリーン嬢が火事の現場から出てきたことを話す。

メイドの証言が終わるとタイセン国王は得意げに、自分のあごを撫でた。

「どうだ? これならリオも納得できるだろう」

「そのメイドの証言は、たしかなのですか?」

「もちろん」

「タイセン国王の名にかけて?」

「リオ、何が言いたいんだ?」

苛立つタイセン国王を俺は睨みつけた。

「あなたの言うことはウソばかりだ。ディークの顔のケガは、こちらの護衛騎士の証言で証明できるし、王宮に火をつけた犯人が別にいることを俺は知っている。アイリーン嬢は犯人ではない」

俺の言葉にセレナも頷く。

「私もアイリーン様が犯人ではないことを知っています。いくらでも証言できます。無実の者が裁かれるなど許されることではありません」

それまで黙っていたアイリーン嬢が「セレナ様……」と震える声で呟いた。

タイセン国王は「アイリーン! おまえが罪を認めれば、全て丸く収まるのだ」と威圧したが、アイリーンはセレナだけを見ていた。

セレナはアイリーンに優しく微笑みかけている。

「アイリーン様、これが終われば一緒にドレスを買いに行きましょう。美しく着飾って、今までバカにしてきた者達を見返すのです。だから、決してあきらめないで」

アイリーン嬢の瞳から涙が溢れた。胸に抱えていた紙束をギュッと抱きしめる。

「わ、私は犯人ではありません! タゼア家の未来のためにも、このまま冤罪をかけられるわけにはいきません‼ 私が知っていることを今この場で全てお話ししてでも、無罪を証明してみせます。それを話されて困るのは陛下やディーク殿下です。ディーク殿下が騙された証拠だってここにあります。私は、最後まで、あきらめずに戦います!」

「貴様ら、いい加減にしろ! この無礼者が‼ この者達を牢へ――」

「面白そうな話をしていますね」

タイセン国王の命令をかき消すように、凛とした女性の声が辺りに響いた。

「お、王妃か。なぜここに?」

動揺するタイセン国王を無視して、王妃は辺りを見回しため息をつく。

「カルロスと聖女ライラが戻ってきましたよ」

それと同時に、結婚式を挙げたときのままの白い衣装に身を包んだカルロスとライラが謁見室に現れた。

「私達が結婚式を挙げたばかりだというのに、王宮では火事や誘拐など大変なことが起こっているようですね」

そういうカルロスの後ろで、ライラ嬢は青い顔をしている。

「母上、この件は父に代わり、私が再度調べて事実を明らかにすると約束しましょう。リオ、それでどうだ?」

「かまわない」

「父上もそれでかまいませんね?」

王座から立ち上がったタイセン国王は「カルロス、出しゃばるな!」と叫んだ。

「おまえのような小賢しい者は、平和な世に相応しくない! やはり王太子はディークにするべきだった!」

カルロスは「それは残念ですね」と言いながら、ライラ嬢の肩を抱き寄せる。

「あなたの命令で私は王太子に任命されたあとです。しかも、ライラを妻に迎えたことで神殿も私を次期国王として支持しています。そして今日、結婚した私は無事に王位を継ぐ権利を得ました。ここまで本当に長かったです」

「おまえが王になるなど認めん!」

カルロスはフッと鼻で笑う。

「だから、もう、あなたは私を王太子に認めたあとなんですよ。今さら撤回できません。私がなんのために今まで恋に溺れた愚かな男の振りをして、あなたを 欺(あざむ) き、神殿の後ろ盾を得たと思っているのですか?」

王妃は深いため息をついた。

「王はご乱心のご様子。王位を今すぐカルロスに譲るべきです」

「なっ⁉ 戦争で荒れた国を、誰がここまで豊かにしてやったと思っているんだ!」

「その点に関しては認めます」

「そうであろう! 今の平和な世は、私が作り上げたものなのだ!」

興奮しているタイセン国王に対して、王妃はどこまでも冷静だ。

「このままリオ卿を捕えていれば、それこそ戦争になっていましたよ。あなたが大嫌いな戦争を、たった今、あなたが引き起こそうとしていたのです。そんなことも分からなくなるくらい老いたのですか?」

「わ、私は……。ただ、平和の象徴であるディークを守ろうと……」

「平和の象徴を守るために、戦争を起こしてもいいというのが、今のあなたの考えなのですね。この国の若者達の未来を私利私欲で潰す。あなたのような者を老害というのです。そんなあなたを止めることができなかった私も、同じく身を引くべきでしょう」

カルロスが「父上を北の塔へお連れしろ。ディークも部屋に戻れ。私の許可があるまで部屋から出ることは許さない」と告げると、王宮騎士達はタイセン国王とディークをそれぞれ取り囲んだ。

「違うんだ、兄さん! 僕の話を聞いてほしい!」

そう叫ぶディークに、カルロスは「あとから聞くよ」と優しく微笑む。

タイセン国王は「カルロス……。やはりおまえは私に歯向かうのだな! あのとき、確実に殺しておくべきだった‼」と憎しみを込めた目でカルロスを睨んだ。

その言葉にカルロスは驚いた顔をする。

「私が愚か者を演じる前、毒で私を殺そうとしていたのは、あなたでしたか。神殿関係者なのかあなたなのか分からず困っていたのです。しかも、銀食器に反応しない毒だったので、何度か飲んでしまい大変な目に 遭(あ) いましたよ」

ハハッとカルロスは笑う。

「でも、母上やディーク、ライラの側にいるときは、毒を盛られなかったので、こうして、なんとか生き残ることができました。それにしても、戦争を繰り返した王ですらしなかった子殺しを、あなたはしようとしていたのですね。これを知ったのちの歴史家達は、あなたのように残忍で卑劣な王のことをなんて呼ぶのでしょう」

「そ、それは……」

冷酷なカルロスの視線が、タイセン国王を突き刺している。

「どうやら、平和の世の王に相応しくなかったのは、私ではなくあなただったようだ」

ガックリと両膝をついたタイセン国王と、まだ「兄さん、話を!」と叫んでいるディークは、王宮騎士達に引きずられるように連れて行かれた。

「さてと」

それを見届けたカルロスが俺のほうに歩いてくる。

「まさか、リオからの結婚祝いに王位がもらえるとは思っていなかったよ。これから何年かかってでも父を引きずり降ろしてやろうと計画していたのに」

「なんというか、すまない」

カルロスは俺の肩に手を置いた。

「何を謝っているんだ? 私は感謝している」

「あ、えっと……」

「ん? まさか、火事や誘拐の他に、まだ何か問題があるのか?」

「その、実は王宮を燃やしたのは俺だ。俺達が泊まっていた客室を燃やしたんだ」

大きく目を見開いたカルロスは、口をパクパクさせたあと、盛大に噴き出した。

「あははは、正気か?」

一通り笑ったあとで、カルロスは「正気を持ったままでは、あの父を王位から引きずり下ろすのは難しかったということか」と納得する。

「今の言葉は聞かなかったことにしておく。あとの処理は私に任せてくれ。悪いようにはしない。リオは、こういうのは苦手だろう?」

「助かる」

セレナを見ると、ボロボロと涙を流すアイリーン嬢の背中をさすっていた。

「カルロス、アイリーン嬢をこちらで一時的に保護しても構わないか? 彼女は多くを知りすぎている。口封じのために命を狙われる可能性が高い」

「任せた。バルゴアの騎士に守られていたら安心だ。新しく部屋を用意しよう。今日はそこに泊まってくれ。昨日までリオ達が泊まっていた部屋は、誰かさんのせいで燃えてしまったらしいからな」

「……そのことは、なかったことにしてくれるんじゃなかったのか?」

もう一度噴き出したカルロスは「すまない。おかげさまで最高の気分でな。冗談を言いたくなった」と笑う。

「さっさと帰ろうとしていた俺達にとっては、最悪の展開だった」

「まぁ、そう言うな。礼にいい部屋を使わせてやるから」

カルロスは俺の肩をポンポンと叩くと、ライラ嬢の肩を抱き寄せ謁見室から出て行く。

それを見た俺は、無性にセレナをぎゅうぎゅうと抱きしめたい気持ちになりながら、カルロスが準備してくれた部屋に向かった。