軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 やらかしてしまった……?【リオ視点】

ワイン会がようやく終わった。

カルロスが主催しているだけあってとても楽しい会だったが、会場にディークがいないことがずっと気になっていた。

カルロスに「ディークは?」と聞いても「さぁ?」としか返ってこない。

まさかと思うが、セレナ目当てにお茶会会場のほうに行っていないだろうな?

さすがにそれはないだろうと思う気持ちと、今のディークならもしかして……という気持ちが入り混じる。

かといって、俺がワイン会を抜け出してお茶会会場に乗り込むわけにはいかない。

ここはバルゴア領ではないし、そんなことをすればセレナに恥をかかせることになってしまう。

ワイン会が終わったあとで、エディに「だから、終わるまで我慢していたんだ」と伝えると、エディは「うっ」と言いながら目頭を押さえた。

「あのリオが戦闘以外で、そこまで考えて行動できるようになったなんて……。おまえはセレナ様に出会えたことを一生感謝して生きたほうがいい」

「俺がセレナに一生感謝して生きるのは、当たり前のことだが?」

速足でお茶会が開かれている庭園へと向かう。お茶会はもう終わっているようで、庭園の出入り口からぞろぞろと人が出て来ていた。参加者が全員女性なので、俺達がこれ以上近づくと目立ってしまう。

周囲を見渡していたエディが「ここにディーク殿下はいないようだな。どうする?」と俺に聞いた。

「俺はここでセレナが出てくるのを待つ。エディは念のためセレナが部屋に戻っているか確認してくれ。セレナが戻っていれば俺に報告を、戻っていなければそのままディークを探してほしい」

「わかった」

招待客の波が途切れても、セレナは姿を現さない。

エディが戻ってこないので、セレナはまだ部屋に戻っていないようだ。

「待つしかないか……」

セレナを待っている俺に近づいてくる女性がいた。

確か、この顔はカルロスの婚約者ライラ嬢だ。彼女は俺を見ると作り笑いをした。

「リオ様、ですよね? セレナ様の婚約者の」

「そうです」

俺を見るライラ嬢の目は少しも笑っていない。

「またお会いできて光栄です」

ライラ嬢は俺に好意的な振りをしている。その証拠に、彼女からねっとりとした悪意を感じた。

うまく隠しているつもりのようだが、やはり演技力でセレナに勝てるものはいないんだな。

セレナの演技は、本当によく観察しないと気がつくことができない。特に悪役令嬢の演技はうますぎる。本人に聞いたところ、鏡を見ながら意地悪そうな笑い方を練習していたとか。

俺に出会う前のセレナの生活は、失敗すれば父に食事を抜かれたり、異母妹に暴力を振るわれたりするというひどいものだったので、生きるために必死に演じていたんだろう。

そんな環境のせいで、場の空気を読むのがうまくなったそうだ。そんなセレナだからこそ、考えるのが苦手な俺のような男にも、いろいろ察して寄り添ってくれるんだろうな。

セレナが演技力を高めるしかなかった状況に胸が苦しくなりながら、俺は目の前のライラ嬢に意識を戻した。

なぜかライラ嬢は俺に向かって右手を出して、何かを待っている。

意味がわからず俺が首をかしげると、ライラ嬢は「特別に許します」と言った。

「何をですか?」

わからないから素直に聞くと、ライラ嬢の瞳が大きく見開く。

「隣国には女性の手の甲にキスをして、敬愛の気持ちを表す文化がないのかしら?」とブツブツ言っている。

あっ、それか。

バルゴア領でも学んだし、セレナにも教えてもらったので、もちろん知っていた。でも、セレナ以外にそんなことはしたくない。しかも、敬愛の気持ちが少しもない相手だったので、その発想はなかった。

ライラ嬢は、すぐに気持ちを切り替えたようだ。

「そちらのワイン会は終わったようですね」

「はい」

「お茶会も終わりましたよ」

「そうですか。セレナももうすぐ出てきますか?」

俺がそう尋ねると、ライラ嬢は悲しそうに眉を下げてうつむいた。

手で隠そうとしているが、口元が笑っているのが見える。

本当に演技がヘタだな……。

「セレナ様は今……ディークでん――」

ディークの名前を聞いたとたんに、俺はお茶会会場に向かって歩き出した。ライラ嬢が驚いた様子で俺の腕に触れようとしたので、とっさにその手首を掴んで腕を背後に回し締め上げてしまう。

「ぎゃあ⁉」

潰れたカエルのような声を聞いて、俺は慌ててライラ嬢を解放した。

「すみません! つい、うっかり!」

「ど、どんなうっかりよ⁉ ひ、ひどい! 痛いわ‼」

ライラ嬢は手首を抑えながらその場にうずくまってしまう。叫び声を聞きつけたようで、王宮騎士がこちらに駆けて来るのが見えた。

まずい。一瞬、締め上げただけだから、骨を折ったりケガをさせたりはしていないはず。

でも、いくらライラ嬢が悪意を持っていたとしても、女性の腕を締め上げたなんて知られたら、セレナに軽蔑されてしまうかもしれない。

俺の脳内で想像のセレナが眉をひそめながら「うっかりで女性に手を上げる方は、ちょっと……」と言いながら、俺と距離を取っている。

わ、わぁあああ‼

焦った俺はライラ嬢をヒョイと持ち上げて小脇に抱えると、駆け寄ってきた王宮騎士に「医務室はどこだ⁉」と尋ねた。

ポカンと口を開けながら、俺とライラ様を交互に見た王宮騎士は「あっ、え? あ、あっちです」と指をさす。

「助かった! 礼を言う!」

「い、いえ……え? その荷物のように、小脇に抱えているの、まさか聖女様……? そ、そんなわけ、ないか。ハハ」

俺は混乱しているであろう王宮騎士を残して、教えてもらった方角へと逃げた。

脇に抱えたライラ嬢に「すみません! 医務室に運ぶので許してください!」と伝えたが返事はない。

俺に抱えられたライラ嬢は、手足をブラーンと投げ出し、長い髪がさかさまになっているので、どんな表情をしているのかわからない。

なんとなく、今の俺は、初めての夜会でセレナの腕を折ってしまったときと同じくらいかそれ以上に、やらかしてしまっているような気がした。