軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 ライラ様主催のお茶会にて

皆で対策を考えた、次の日。

リオ様はカルロス殿下が主催のワイン会に、私はライラ様が主催のお茶会へ向かった。

男女別での交流会のため、普通なら私がディーク殿下に会うことはない。でも、念には念を入れて、私は普段と雰囲気を変えた姿で参加した。

ドレスの露出は多くないけど、体にピッタリとしたものを選んだ。アレッタがうまく化粧を濃くしてくれたおかげで、今の私は普段より性格がきつそうに見える。

その姿は、毒婦とまではいかないけれど、悪女という言葉がピッタリのような気がする。

これでうまくディーク殿下の好みから外れたらいいんだけど……。

ライラ様のお茶会は、王宮の庭園で開かれる。

護衛騎士やお付きのメイドが入れるところは決まっていて、それから先は王宮騎士たちが警護してくれるようになっていた。

私はここまでついてきてくれたコニーとアレッタに別れを告げ、お茶会会場へと入る。

その途中で、ディーク殿下に出くわした。

王宮騎士は何をしているの? と思ったけど、自国の王子をつまみ出すわけにはいかないのかもしれない。

ディーク殿下は、お茶会に参加するご婦人たちをキョロキョロと見まわして、誰かを探しているようだった。

ライラ様を探しているのかしら? まさか私じゃないわよね?

こんなに大勢いる中で、以前のようにディーク殿下に声をかけられたら嫌な注目をされてしまう。おかしなウワサを立てられるわけにはいかない。

私はこそこそせずにあえて堂々とディーク殿下の前を通り過ぎた。声をかけられなかったことにホッと胸を撫で下ろす。

背後からは、ディーク殿下が王宮騎士に「セレナ嬢を見なかったか?」と尋ねる声が聞こえてきた。

私を探していたのね、とゾッとするのと同時に、化粧と髪型を変えただけで、私のことを見つけることもできないなんて、と呆れてしまう。

庭園にはいくつもの白い丸テーブルと椅子が置かれていた。机の上には可愛らしいピンクの花が飾られている。

派手過ぎず、でも質素ではない、とても雰囲気のいいお茶会会場だった。

このお茶会の準備をライラ様がしているのだとしたら、彼女はとても優秀なのかもしれない。

お茶会では席が決められていて、私はライラ様と同じテーブルだった。ディーク殿下の婚約者であるアイリーン様は私の隣に座っている。

ライラ様の右隣に座っている女性が、私に「そこはバルゴア辺境伯令息の婚約者、セレナ様の席ですよ」と言いながら不快そうに眉をひそめた。

この女性、どこかで見たことがあると思ったら、夜会でアイリーン様を見下すように笑っていた人だわ。

ライラ様の左隣の女性もあの夜会で、アイリーン様を笑っていた女性だった。

なんだか、嫌な席ね……と思いながら、私は内心でため息をつきながら名乗った。

「はい、そうですよ。私がリオ様の婚約者、セレナです」

「えっ⁉」

「ウソ⁉」

その場にいた全員が驚いたので、私のほうが驚いてしまう。そんなにあのときと雰囲気が違って見えるのかしら?

夜会のときに、しっかりと名乗って挨拶をしたライラ様とアイリーン様も目を見開いているので、私だと気がついてなかったようだ。

ということは、私だと気がつかなかったディーク殿下がぼんやりしているのではなく、どんな格好をしていても私だと分かって褒めてくれるリオ様がすごいのね……。

しばらくすると、ライラ様が招待客に挨拶をしてお茶会が始まった。

各テーブルに運ばれてくる茶菓子はどれも色鮮やかで味も美味しい。お茶も高級品のようで、苦みがなく飲みやすい。

お茶会の雰囲気も和やかでとてもいい。

ライラ様は神殿の聖女だと聞いているけど、こんなお茶会が開けるなんて、貴族としても立派な方なのね。

私はまだお茶会を主催したことがないし、毒婦とよばれるようになってからは誰からもお茶会に呼んでもらえなかった。だから、この素敵なお茶会はとても勉強になる。

終始穏やかなライラ様を見ていると、前に私の異母妹マリンと似ているなんて思ってしまって、なんだか申し訳ない。

そのとき、ライラ様の両隣に座っている女性たちが、ライラ様に満面の笑みで話しかけた。

「このお茶とても美味しいですわ」

「このお菓子も」

ライラ様はフワッと微笑む。

「皆さんに喜んでいただけて嬉しいです」

それはまさしく聖女の笑み。そこまでは良かったのに、その後から嫌な流れになってきた。

「きっとライラ様のことですから、私たちのことを思って最高級なものを用意してくださったのね」

「でも、高級すぎてお口に合わない方もいるんじゃないかしら?」

そう言いながら女性たちは、チラッとアイリーン様を見てクスクス笑う。アイリーン様は、気まずそうにうつむいた。

この遠回しな嫌み。あまりの貴族らしさに、なんだか懐かしさすら覚えてしまう。

そういえば、バルゴア領では、こんな遠回しな話し方をする人はいなかったわね。

「セレナ様もそう思いません?」

意識がバルゴア領に飛んで行きそうになっていた私は、話を振られて我に返った。

ぼんやりしてはダメよ、しっかりしないと!

「なんのお話ですか?」

私に話しかけた女性に、念のためそう尋ねた。

女性はなぜか一瞬ビクッとしてから苦笑いする。

「で、ですから、このお茶が合わない方もいるのではないかと……。例えばアイリーン様とか?」

もう一人の女性がプッと噴き出す。

私が「そうなのですか?」とアイリーン様に尋ねると「い、いいえ」とアイリーン様。

「お口に合うようですよ? ライラ様が準備したお茶なのですから、誰の口にも合いますわ」

そう言っておけば、これ以上この話を続けることはできない。なぜなら、これ以上その話をすると、アイリーン様ではなくライラ様が準備したお茶が悪いということになってしまう。

ふと視線を感じてライラ様を見ると、ものすごい形相で私を睨みつけていた。両脇の女性たちは、そんなライラ様を見て慌てている。

空気を読むのが得意な私は、その様子で現状を理解した。

なるほど、アイリーン様への嫌がらせはライラ様が裏で糸を引いているのね。夜会のときのライラ様は、アイリーン様が自分の希望通りに苦しめられているところを見て笑っていたんだわ。

貴族として優秀なのに、なんて性格の悪い……。でも、貴族としてはこれが正しい姿なのかもしれない。

ライラ様は心配そうな顔を作ってから私に話しかけた。

「セレナ様のお口にも合いましたか?」

「もちろんです」

「よかった……。心ここにあらずといったようなので、私の不手際かと心配だったのです」

ようするにこれは『人のお茶会でぼんやりしてんじゃないわよ』ってことね。

両隣の女性たちが、すぐにライラ様を慰める。

「大丈夫ですわ」

「私たちはとても楽しんでおります」

「でも、私はセレナ様にも楽しんでいただきたいのです」

大きな瞳にうっすらと涙を浮かべるライラ様。それを見た女性たちが私を睨みつけた。

「お優しいライラ様のお心を乱すなんて」と、ヒソヒソ声が聞こえてくる。

辺りには『ライラ様の気分を害したこと謝りなさい』という空気が漂っていた。

アイリーン様を庇ったからか、ターゲットが私に移ったようね。

他国から来た招待客にこんな態度を取るなんて、愚かとしか言いようがない。

でも、このまま放置すると、明日には私がこのお茶会に不満を持ち、ライラ様を泣かせたなんてウワサが広まってしまうかもしれない。バカらしいけど、社交界のウワサなんて刺激があればなんでもいいのだから。

私は顔に笑顔を貼りつけながら、心の中でため息をついた。

なんというか……やり方が生温いわ。これがマリンなら、私にこの場で一切の口答えをさせないように、事前に手回ししてから私に悪役を押しつけたはず。

そんなことをされていない私は、なんとでも言い返せてしまう。もちろん、この程度のことでライラ様に謝るつもりはない。

私はニッコリと微笑んだ。

「ライラ様のお茶会があまりに素敵でうっとりしてしまいました」

「……ありがとうございます」

笑っているはずのライラ様は、私が謝らないことが不服そう。

「テーブルのお花、初めてみました。特別なお花なのですか?」

とたんにライラ様の顔から笑みが消えた。

不思議に思いながらも私は話を続ける。

「可愛いお花ですよね」

何故か返事をしないライラ様は、「すみませんが、他のテーブルの方々に挨拶に行ってきます」と言いながら席を立った。

ライラ様はどうして答えなかったのかしら?

何かこの国での問題発言をしてしまったのかもしれないと思い、こっそりアイリーン様に「お花の話をしてはいけませんでしたか?」と私は尋ねた。

「いいえ」と首を振ったアイリーン様。

会話の内容に問題はなかった。とういうことは、もしかして、ライラ様は答えなかったのではなく、答えられなかった、とか?

ライラ様が答えられなかったことを、アイリーン様はスラスラと答えた。

「その花は、王宮の温室で育てている特別なものです。王室関係者しか使うことができない花なので、ライラ様が王室に入られることを祝うために、特別に使われたのでしょう」

「そうなのですね」

王室を代表するような貴重な花なのに、これから王太子妃になるライラ様は知らなかったの?

もし、ライラ様がお茶会を準備していたら、そんなことはありえない。ということは、このお茶会は、ライラ様が準備したものではないということ。

私はまたアイリーン様の耳元で囁いた。

「ライラ様は、聖女になる前は貴族だったのでしょうか?」

「そうです。男爵家の出だと聞いています」

「男爵……」

普通なら、王太子と結婚できるような身分ではない。

それができてしまうということは、この国での聖女という地位は、公爵家や侯爵家に匹敵するということ。そして、それは神殿の力がとても強いということでもある。

そうなると、カルロス殿下は、本当にライラ様を愛しているのかしら? もしかして、神殿の力が目的とか?

リオ様が絶賛するような切れ者王子の結婚相手がライラ様なことに、私は違和感を覚えた。