軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06【リオ視点】

急に背中にくっついてきたセレナになんとか離れてもらい、俺は浴室に向かった。

こんな汗だくで手に泥がついていなかったら、セレナを抱きしめられたのに。どうして今なんだ……。

あとからついて来たエディが、タオルと着替えを置いてくれる。

「リオ、カルロス殿下を待たせているんだ。急いだほうがいい」

「わかっている」

鍛錬中にカルロスが来て、「久しぶりに二人で話さないか?」と誘われた。汗だくだったので「着替えてくる。少し待っていてくれ」と伝えて今に至る。

忙しいであろうカルロスを待たせているので、できるだけ早く戻ったほうがいい。

汗を流し清潔な服に着替えてから、俺は浴室から出た。セレナはこれから、バルコニーで読書をしながらお茶をするそうだ。

「リオ様も一緒にどうですか?」と聞いてくれたのに、『はい』と言えず泣く泣く断った。そんな俺をセレナは「いってらっしゃい」と笑みを浮かべながら見送ってくれる。

「ああ、行ってくる」

なんだか新婚っぽいやりとりに、思わず頬が緩んでしまう。

俺の顔を見たエディが何か言いたそうな顔をしていた。

「……リオ、顔」

「わかっているから!」

自分の顔を両手で叩いて、にやけている顔を引き締める。

「まぁ、リオの気持ちもわかるけどな。タイセンに来たら、急にセレナ様との距離が近くなったから嬉しいんだろ?」

「そうなんだ……」

王都からバルゴア領までの旅の間、セレナの側にいるのが当たり前だった。

なのに、バルゴア領に着いたら部屋は別々だし、結婚式の準備で忙しいしで、会う時間がどんどん減っていった。

カルロスから結婚式の招待状が届いたおかげで、ようやく出発までの間、セレナとのんびりした時間を過ごせた。

それでも、セレナはバルゴア領の暮らしに早く慣れようと散策したり、俺の母と交流したり、出不精で部屋に籠っている俺の妹とお茶してくれたりと忙しい。

セレナが自室でゆったり本を読んでいるかと思えば、タイセンの歴史や風習を調べていた。

一生懸命なセレナの邪魔をしたくない。だけど、セレナと過ごす時間もほしかったので、俺は静かにセレナの側にいるようにした。

バルゴア領で初めて見たものに瞳を輝かせるセレナも、本を読みふけって俺に気がついていないセレナも、どの瞬間も愛らしく美しい。セレナを見ているだけで幸せな気分になれた。

そんな微妙な距離感になっていたので、さっきは急に抱き着かれて驚いた。今更ながらに、じわじわと喜びが込みあがってくる。

「セレナに抱き着いてもらえたし、ナイトドレス姿も見れたし、結婚式に招待してくれたカルロスには感謝してもしきれないな!」

「それ、カルロス殿下には言うなよ……」

エディとそんな会話をしながら、カルロスが待っていた場所に戻った。そこには、カルロスの姿はなく、代わりに騎士が立っている。

「こちらにどうぞ」

案内された部屋に入ると、ソファに座るカルロスが片手をあげた。

部屋の中にカルロスの護衛の姿はない。俺はエディに部屋の外で待つように伝えてから、カルロスに声をかけた。

「待たせたな」

「そうでもないさ」

テーブルには、ボトルとグラスが二つ。

カルロスは、慣れた手つきでボトルの栓を抜きグラスに注いだ。

透明感のある黄味がかった液体から、果物の芳醇な香りと酒独特の香りが広がっていく。

「白ワインか」

「まぁな」

カルロスの言葉を不思議に思いながら、俺はグラスを受け取った。

香りを嗅いでも特に怪しいところはない。俺が口をつけるのを見てカルロスは「毒は入っていないのか」と呟いた。

「俺に毒見をさせたのか⁉」

「おまえは鼻が利くからな……って冗談だよ。このワイン、修道女が作っている希少なワインでな。神殿が結婚祝いにくれたから、リオと一緒に飲みたかったんだ」

ははっと笑うカルロスは、昔から冗談か本気かわからないようなことを言う癖がある。あきれた俺は、ため息をついた。

「で、話はなんだ?」

気を取り直して尋ねると、カルロスは気まずそうに視線をそらす。

「弟のことだが」

「ディークがどうかしたのか?」

「セレナ嬢のことを気に入っているみたいでな」

「……は? セレナは俺の婚約者だが?」

「いや、もちろんディークも、セレナ嬢はリオの婚約者だとわかっているんだ。それでも、惹かれているみたいで、少し迷惑をかけるかもしれない」

強烈な不快感と共に、疑問が湧きおこる。

「それを俺に言う目的はなんだ?」

「ディークは、私の可愛い弟だ」

「可愛いだと? ディークはライラ嬢に惚れていると聞いているが?」

「知っていたのか」

自分の愛する女性を奪おうと狙う奴を『可愛い』と表現する気持ちがわからない。

「弟は少し惚れっぽいんだよ。昔から無邪気でな。まるで平和の象徴のようだと、国王陛下である父も可愛がっている」

「だから、セレナにまとわりついても許せと?」

「できる限り迷惑をかけないようにする。だから、リオもセレナ嬢のことを気にかけてやってくれ」

そんなこと言われるまでもない。

「カルロスは、ライラ嬢とディークのことを、どう思っているんだ?」

「どちらも、とても可愛い存在だ」

「可愛い、か」

「おまえだって、妹は可愛いだろう?」

「そうだが……」

これとそれは同じ話だろうか?

なんだか納得できない。

「今の私がいるのは、あの可愛い二人のおかげだ。いてくれないと困る」

そう言いながらカルロスは、先ほど開けたワインボトルと同じ銘柄のボトルを一本寄越した。

「迷惑料だ。可憐な婚約者殿と一緒に飲んでくれ」

「ワインはありがたく受け取るが、ディークがセレナに手を出そうとしたら、無事は約束できない」

「それでいい。だが、殺すのだけはやめてくれ」

また冗談か本気かわからないことを言っている。

セレナのことが心配になった俺は、ソファから立ち上がった。