軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

薬師ココ、犬を拾う(※Web版)②

クロエが犬を拾った、ちょうどその頃。

冒険者ギルドでは、深刻な話し合いがされていた。

なんと、新たな伝染病にかかった冒険者が、サイファの街でも出てしまったのだ。

会議室で、ギルド長が険しい顔で口を開いた。

「とうとう我が街にも例の病気の患者が出てしまったな」

「ええ、大変なことになりました」

ギルド職員たちが深刻な顔で同意する。

「患者たちの状態はどうだ?」

「高熱が出て風邪と似たような症状が出て、体中が真っ赤になっています。現在北のギルド本部跡地に隔離中ですが、広がるのも時間の問題かと」

ギルド長が厳しい顔で言った。

「まずは、彼らから行動経路を聞き出して、どこで病原があるか突き止めるんだ」

「分かりました、今すぐ取り掛かります」

ギルド職員たちはうなずくと、慌ただしく会議室を出て行った。

◇◇◇

犬を拾った翌日、雲一つない青空が広がるお昼過ぎ。

服の袖を捲り上げたクロエが、裏庭の井戸の横で犬を洗っていた。

なぜ彼女が犬を洗っているかというと、朝の光で見た犬がとても汚れていることに気が付いたからだ。

というわけで、井戸の水と自分用のシャンプーを使ってゴシゴシと洗っているわけだが、

(これは相当汚れているわね……、シャンプーが全く泡立たない)

予想以上の汚れに大苦戦。

犬の方は洗われることに慣れているらしく、奮闘しているクロエの横で、指示に従って首を上げたり立ち上がったりと非常に協力的だ。

そしてシャンプーをボトル一本使い切ったころ、昨日の艶のない茶色い犬から一転。

そこには白と茶色の犬が立っていた。

つぶらな瞳でクロエをジッと見ている。

(もとはこんな色だったのね)

えも言われぬ達成感を覚えながら、クロエはしゃがみ込んで犬の前に手を差し出した。

「お手!」

犬が面倒くさそうに前足をクロエの手に置く。

「おかわり!」

そうくると思いましたよ、と言いたげな犬が、だるそうに逆の前足をクロエの手に置く。

「おお!」

クロエは喜んだ。

まさかできるとは思わなかった。

(これは相当しつけられた犬なんじゃないかしら)

これはすぐ飼い主が見つかりそうね、と思いながら、クロエは水とエサを犬の前に置いた。

「食べていいわよ」

ちなみに犬のエサは、肉屋で買って来た犬用の肉なのだが……。

「……食べないわね。もしかして体調が悪いのかしら」

熱があるのかしらと水を飲む犬の額に手を当ててみるが、そもそも犬の体温など分からない。

見つめながら「体調悪い?」と尋ねてみても、つぶらな瞳で見返されるのみ。

当たり前だが答えは返ってこない。

ふうむ、と腕を組んで悩むクロエ。言葉が通じないというのは実に不便だ。

そして、とりあえず外はこれから暑くなるから家に入れてあげようと、濡れたおしぼりで肉球を拭いていたそのとき。

彼女は後ろ脚の肉球が紫色になっていることに気が付いた。

「もしかして、怪我?」

そっと左右の肉球を押し比べてみるが、どちらもぷにぷにしていて触り心地に変わりはない。

犬もちょっと嫌そうな顔をするくらいで、痛そうな素振りはない。

「……これって、もしかして毒なんじゃないかしら」

前世にこういう症状の出る毒を見たことがある気がするわ、と考える。

もしかすると毒草などをうっかり食べてしまったのかもしれない。

(とりあえず、解毒薬を飲ませる必要があるけど……この時代の解毒薬って大雑把なのよね)

前世では毒成分を分析し、その毒に合う薬が作られていたので、解毒薬は種類がたくさんあった。

しかし、今世は複数種類の薬を一本に入れた「解毒薬」として出回っており、一本で効かなければ二本飲め、という考えだ。

(……これは魔道具の出番ね)

要は犬の体内にある毒の種類を調べる魔道具を作ればいいのだ。

(やった! 魔道具!)

久々の開発に、クロエはワクワクしながら急ぎ足で作業場に戻った。

彼女が作ろうとしているのは、簡易成分分析の魔道具だ。

魔石に毒を垂らすと、その毒の種類が分かるという優れモノだ。

今世の魔道具知識から考えると明らかにオーバーテクノロジーだが、外に出さなければ問題ない。

「よし、やるわよ!」

まず、クロエが訪れたのは、冒険者ギルドだ。

魔道具の材料である空の魔石を購入するためだ。

冒険者ギルドに入ると、受付嬢がニコニコしながら出迎えてくれた。

「ココさん、こんにちは。今日はどうされました」

「空の魔石を買いたいんですけど、ありますか?」

「はい、ありますよ」

受付嬢が魔石が入った箱を持ってくる。

クロエはその中から適当な大きさの魔石を選んだ。

お金を払って、おつりをもらう。

袋に入れてもらっている間、クロエはフロア内を見回した。

(何だか空気がいつもと違うわね)

いつもはのんびり座っている受付の女性達が、紙とペンを持って冒険者の間を忙しそうに歩き回っている。

「なんだか慌ただしい感じですね。例の件ですか」

「はい。この街で、昨日から患者が立て続けに出ているんです」

受付嬢が紙袋に封をしながら声を潜めた。

「幸い死者は出ていないので、患者は隔離して様子見をしている状態ですけど、来週には王都から人が来て今後について話し合うことになっています。――ココさんも気を付けて」

「はい、ありがとうございます」

クロエは、魔石の入った袋を受け取るとカウンターを離れた。

受付嬢に手を振ってギルド建物を出る。

――そして、その夜。

「できた……」

彼女は作業机の上のランプを近づけると、まじまじと完成したての魔道具を見た。

(かなりいい出来だわ)

手の平ほどの大きさの金属板の上に、魔法を付与した魔石が埋め込まれている。

その上に液体を垂らすと、何の毒かが分かる仕組みだ。

「こんばんは、はじめまして。これからよろしくね」

優しく撫でながら魔道具にそう声をかけると、クロエは作業場の奥の扉を開けて外に出た。

軒下には、犬が静かに眠っていた。

このまま寝せてあげようかなと思いつつも、魔道具の使用を待ちきれず。

「ごめん、起きて。ちょっとこれ舐めて」

クロエは犬を起こすと、迷惑そうな顔で金属板を舐めてもらい、無事に効く薬をつきとめることに成功した。

(続く)