作品タイトル不明
このままじゃ、このままじゃまずいぞ
「今から私がいくつかの探索者チームをお伝えします。その連中を、どうにかして当日、ご参加できないようにしていただけないでしょうか」
道宗にはどうしても離脱させたい参加者がいくつかいた。その筆頭はギルド【リベリオン】の探索者である。
他にもできる限り、当日の参加者を削っておきたい。彼の辞書に正々堂々などという言葉は存在しなかった。
「それは、どうやって?」
「あなた達の中には、今も探索者ギルドで事務的な仕事をされている方がいるはずです。その人達と連絡を取り、まずは彼らの連絡先や住所を調べ上げます。あとは当日ご参加できないよう、お金を使うか妨害するか……細かいやり方はお任せいたします」
小五郎はハッとした。そして思わず額に流れる汗をハンカチで抑える。
「それは、個人情報の抜き取りや、催しへの参加を止めるということですよね。しかし、それは犯罪——」
「小五郎さん。会長がもし自殺されたら……そしてダンジョン事業が潰されてしまったらどうなるか、知らないあなたではないでしょう」
「……!」
道宗の説明を理解しきれずにいた二人だったが、かつての冷静な判断力が鈍っている。それは年齢とともに、誰もが生じかねない危うさでもあった。
「しかし、動くとしても多額のお金が必要です。それに、あと二日……たった二日しかないということですよね?」
「お金なら問題ありません。いくらでも用意しますので、私に仰ってください。すみませんが、その二日でどうにかしてほしい問題なのです。……どうか!」
畳を擦る勢いで、道宗は最後の一押し土下座を行なった。この姿に心を打たれてしまった湯河原夫婦は、とうとう決意を固めてしまう。
「道宗さん、顔を上げて下さい。分かりました。会長のおかげでこれまで生きてこれたのです。ここで私達に、恩返しをさせて下さい」
道宗は土下座で見えないその顔に、いやらしい笑みを浮かべていた。笑いを堪えすぎてなぜか口元がひょっとこのようになっているが、湯河原夫婦からは見えない。
それから夫婦はひたすらに電話をかけ、全国の同志達にギルドの情報を集めさせた。
さらに営業が得意な者に直接探索者と面談をさせ、多額の金を支払うことを条件に当日参加をボイコットさせる。
また、当日参加者の何名かは現地に向かう間に、ダンジョン探索経験のある者を向わせ、電車の中で眠りの魔法をかけるなどといった方法で物理的に参加できないようにする手も使った。
この物理的な妨害工作には、実はアイとノエル有栖川も絡んでいる。妨害は重大な違反行為である。二人は当初こそ拒否していたが、イベントで確実に上位に入れると思うと結局は承諾した。
膨大な人員をさいて行なったこの妨害工作にかかった費用は、軽く億を超えている。なんと道宗は、これを会社の金を使って解決させようとしていた。
道宗はこれだけの真似をしながら、今のところはバレないと高を括っている。
ダンジョンフェスティバルで上位入賞をすれば、結果的には何十倍も利益を生むチャンスが生じる。
その高い恩恵でどうにか誤魔化せるはずだ、という浅い目論見があったのである。
さらに道宗は、一連の工作を終えた小五郎が、会長に電話をかけたことをまだ知らない。
◇
話は現在に戻るが、すでにこれ以上ないほど爆弾を抱えていた道宗は、それでも自信に満ち溢れていた。
「ではお前達、そろそろ配信を再開するぞ。ここまで止まっていては、さすがに怪しまれるだろうからな」
アイ達はそれぞれ配信を再開した。ようやく気分を持ち直したアイは、化粧が取れかかった顔に笑顔を浮かべ、まずは視聴者に挨拶をする。
「はぁーい! みんなごめんねえ。ここってなんか繋がりにくいみたいでぇ」
「ああ!?」
しかしその途中、ノエル有栖川の叫びが響いた。
「どうしたのー?」
青筋を浮かべながらも、顔は笑顔のアイが慌てた男に質問を投げかける。
「抜かれた……」
「は?」
ふと見れば、まるでスーパーカーのような疾走で彼らを追い抜いた探索者達がいた。
四つの背中はすでに見えなくなりつつある。先ほど景虎達に挨拶をしていた、ダンジョンブレイカーズであった。
この状況に誰よりも慌てたのは道宗である。
「ちょ、待てコラァ! お前ら追いかけろ! このままじゃ、このままじゃまずいぞ」
「あ、あああ! 社長、後ろ!」
荷物持ちが怯えながら彼らの背後を撮影していた。
「ああ? は、はうあ!?」
苛立って睨みつけた道宗の瞳に、禍々しいオーラを充満させながら歩いてくる巨大な影が映る。
先ほど合流地点側に消えていったはずの、闇竜ジャーマが戻ってきているのだ。
「こ、こいつ! 今度こそ俺が!」
「やめろやロリコン川! ってか走れや!」
慌てたアイが叫びながら、ダンジョンブレイカーズが消えた先へと走り出した。
「くそ! 命拾いしたな、闇竜!」
先ほどの惨敗が記憶からなくなっているのか、ノエル有栖川は勇ましい捨て台詞を吐きながら疾走した。
「くそ……くそがぁ。なんとしても一位を取り返せ! そして死守するんだぁーーーーーー!」
道宗のやかましい叫びがダンジョンに響き渡る。
今やチーム袋小路は、本当に袋小路になりつつあった。