作品タイトル不明
召喚カード交流機能が開放されました
雑談配信はめちゃくちゃ好評だった。
俺としては嬉しい限りなんだけど、実は喜んでばかりもいられないことがある。
一夜明けて、兄から電話がかかってきた。それがもう、キツい内容だったわけで。
『虎。お前はいつまでそうやってフラフラしているつもりだ。もう二十二歳になるんだぞ。少しは大人としての自覚を持て』
「分かってるよ。それくらい」
兄貴はこうして、いつも俺に延々と文句を言う。それは心配してるからだって言うのは分かってるけど、やっぱ言われるとしんどい。
気分転換にやってきた河川敷に寝転がりながら、説教を右から左へと流そうとしていた。
でも、今日の兄貴はとにかくアツい。
『お前がそんなことでは、親父もお袋も心配するぞ。俺だって恥ずかしい限りだ。いい加減、真っ当な仕事につけ』
「仕事……っていうのか分からないけど、稼げることはやってる」
俺はダンジョン探索で、今までよりも稼げいでいることを伝えてみた。でも、むしろそれは火に油だったみたい。
『何がダンジョン探索だ! あんなものにハマって、良いことなんてあるわけがない。ちゃんと真っ当な仕事につけ!』
「でも、好きになったんだ」
『馬鹿野郎! 好きなことで飯が食えるなど、甘いんだよ』
それからも兄貴の猛攻は続く。俺はいい加減嫌になり、とうとう我慢できなくなった。
「大丈夫だって! それに俺だって、本気でやってんだよ」
『お前の本気だと?』
「そうだよ。次の探索で、ちゃんとやってるってところ見せるからさ。見ててくれよ」
この一言は余計だった気がする。でも、一つ喋り出したら胸につかえていた何かが吹き出した感じがして、止められなくなった。
「別にどんな生き方だっていいじゃねえかよ。大人になったって、安定感がなくなって、世間に何を言われたって、やりたいことをやって生きて何が悪いんだ。俺は今ダンジョン探索が好きなんだよ。だから何より、それをやりたいんだ」
恥ずいことを次々と口走っちゃった気がする。気がつけば兄貴はしばらく黙っていて、俺は川を眺めながら後悔しまくり。
でも、探索で頑張っていこうっていう気持ちは嘘じゃない。ずっとミーハーだったけど、最近になってやっと打ち込めるものを見つけた気がする。
だから……、
『いつだ?』
「……え?」
『いつなんだ? その配信とやらは』
「あ、えーと、次の土曜日!」
『分かった。お前がそこまでいうなら、見せてもらうぞ。親父とお袋と一緒にな』
「え!? 兄貴だけじゃねえの?」
『そうだ。もし不甲斐ない姿を晒したら承知しないぞ。じゃあな』
「いや、ちょ——」
やべー恥ずかしい、と思って止めようとしたが遅かった。電話は切れてしまい、俺はしばらくただ川を眺めていた。
親父とお袋にまで配信見られちゃうのかよ。
でも、ここまで言ったからには引けない。勝手に背水の陣になっちゃった俺は、普段よりも無駄に気合を入れながらマンションに帰って行った。
◇
「ただいまー」
『お帰りなさいませ。召喚カード交流機能が開放されました』
「……へ? な、なんて?」
こりゃまた謎に満ちた機能が開放されてるじゃん。
ね、ねえ。本当にこのサブスクって月額三千円で合ってる? この前は確かに三千円しか払わなかったけどさ。
『召喚カード交流機能です。お好きなカードを選び、交流をすることによって好感度が上がり、召喚カードの性能がアップします』
「交流……かぁ。なんか、いろいろとあるんだな」
もう初耳のことばっかりで、感覚が麻痺してるんだが。
『交流は一日一回。好感度を上げたいモンスターを選んで行うことができます。交流する条件は二つあり、一つはモンスターを召喚したことがあること、もう一つはモンスターが好む物を所持していることです。本日のログインボーナスで一つ、多くのモンスターが好むキラービーの蜂蜜を獲得しています』
「へえー! 確かにこれは美味そう! じゃあ試してみるかな」
とはいえ、召喚カードは沢山持ってるけど、実際使ったカードは少ないんだよな。
俺はとりあえず、以前使ったことのあるピクシーを選んでみる。
『では、交流画面に移動します』
「はいよ! どんな画面なんだろ」
『実際にモンスターの棲家にワープします』
「え?」
直後、俺の体は一瞬にして真っ暗な世界にダイブ。その後、猛烈な速度で体がどこかに運ばれていった。
「う、うわああああーー!?」
そして気がつくと、どこかのお花畑に落下。なんてメルヘンな世界なんだ。
「も……もしかして、ワープ完了?」
『はい。これより召喚したピクシーと交流が始まります』
「誰もいないみたいだけど……お?」
すると、ちょっと遠くにあった花の周りを、見覚えのある小さなモンスターが飛び回っていた。
とりあえず話しかけてみるか。
「ない! 今日全然ない。困ったー」
「よう! 何がないんだ?」
「きゃあ!?」
ピクシーは話しかけられた瞬間、花の後ろに隠れてしまった。でも、ちょっとしてから恐る恐る出てくる。
「あれー? もしかして召喚してたお兄さん?」
「あ、そうだよ! よく手伝ってくれてるよね? 今日はサブスクの力で会いにきたんだ。これ、お礼」
「え!」
妖精は思わず目を輝かせて、キラービーの蜂蜜にずずいっと近づくと、めちゃくちゃ嬉しそうに笑っている。
「くれるのー? 嬉しい! これでみんなも助かるよ」
「ああ。またダンジョンでお世話になると思うけど、よろしくな」
「うん! ありがとう!」
その後、俺とピクシーはちょっとした雑談をした。ダンジョンのことについて、僅かだけど知識をもらったところで、ミリアの声が響く。
『もうすぐ交流時間が終了します』
「えー! 残念。じゃあお兄さん、またね!」
「ああ、じゃあなー」
ん? なんかピクシーの姿がふわふわ光ってないか?
妖精自身も「あ!? すごーい!」とか叫んでる。でもそのことについて話そうという頃合いで、唐突に視界がぐにゃぐにゃに。
少しだけ真っ暗な世界に移動した後、気がつけばボロマンションに戻っていた。
「すげーほっこりした。交流機能ってマジでいいね」
『お楽しみいただけて何よりです。好感度が上がったことで、カードに変化が起きています』
「え? お、おお!?」
なんとレアリティがSだったはずのカードが白く光り続け、直後に虹色の輝きが部屋全体に放たれた。
カードが俄然派手な模様に変わっており、ピクシーの姿も変化してる!?
『好感度上昇により、SRハイピクシーに進化しました。召喚カードは好感度が上がることで、レアリティの上昇や新しいスキルを覚えることがあります』
「マジか! めちゃくちゃ良いじゃん」
これでSRカードが一枚増えた。ダンジョン攻略において召喚カードはすげー大事だから、この結果はありがたい。
俺はダンフェスに向けて、より気持ちが高まるのを感じていた。今までの人生にはなかった、強い衝動が湧き上がっている。
次の土曜まではもう時間がない。その後はダンフェスの準備を進めるべく、ひたすら動きまわる日々が続いた。