軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

みんなー作戦……ぎやああああ!?

今回アイ達が探索を開始したダンジョンは、都内に出現した非常に有名な場所であり、大抵の配信者は潜った経験がある。

ダンジョンにおいての基本構造である、上層、中層、下層、深層といった区分けで名称がされており、地下に降りるほど強いモンスターと遭遇する作りとなっていた。

しかし、このダンジョンを最後まで踏破できた探索者はいない。恐らくは深層と表現されている階層で最後と予想されているが、最奥に辿り着いた者は皆無である。

「今日はもしかしたら、最後まで行っちゃうかもー、なーんてね。みんなー、ちゃーんとアイについてきてね!」

「ああ、任せてよ!」

軽快に応えるノエルとは対照的に、他メンバー達は少々重苦しい返事をしていた。

アイと有栖川に対して、あまり信頼関係を築けていないまま、探索に乗り出してしまったせいである。

それでも彼らはそれなりに優秀であり、上層におけるスライムやゴブリン、昆虫や植物系のモンスターには苦戦することはなかった。

「せいやっ!」

ノエル有栖川も自慢の大剣を鮮やかに振り回し、迫り来るゴブリン達を切り倒している。

ここに乗ってきたのがアイである。彼が剣を降ろした時、背中を合わせるようにして魔法を放ったのだ。

「アイ・サンダー!」

すると、既に消えかけであったモンスター達に雷の追い討ちが入り、なんとなくだがアイが仕留めたかのような画面映りになった。

ちなみにアイ・サンダーとはただのサンダーという雷魔法であり、彼女は自分の名前を入れることで特別感を出している。

:キタ! 愛サンダー!

:痺れるぅうう!

:やっぱ雑魚なんて一撃や

:うほおおおお

:カッコかわいいアイちゃん

:イケメンと背中合わせって、絵になるなぁ

:これだよこれ!

:今日一発目のサンダーいただきました

:普通のサンダーとは威力が違いすぎるな

:僕の心も痺れたよ

:うおー!

:オーバーキルで草

:この調子で行こうぜ!

(んだよ。俺の剣でカタはついてただろ)

有栖川はアイの追撃に、明らかに不満を持った。彼女が配信の演出として、モンスターを倒す際に派手な方法を取ることは聞いていたが、それでも納得はできずにいる。

アイは物理攻撃と魔法、どちらも使える万能タイプだが、より得意なのは魔法であった。

そして、自らが得意とする魔法を配信ではふんだんに使い、視聴者をわかせるのだ。地味なものを、彼女は何よりも嫌った。

さらにはそのこだわりを、仲間にも求めるのが彼女である。

「次はデビルドッグだね。みんな、作戦Cでいくよ」

「「「「了解」」」」

彼女の仲間達は皆、グループチャットでアイが考えたありとあらゆる作戦を暗記することを求められている。

今回の作戦Cは、武器と魔法でモンスターを追い詰め、最後にアイが召喚カードで華麗に決めるというもの。

デビルドッグは上層に現れるモンスターであり、本来ならばここまで魔力とカードを使う必要はないが、何よりも映えを意識するリーダーならではの選択である。

モンスターと化した犬は、なすすべもなく追い詰められ、最後にアイが「いけ! デモンズソード」と叫び召喚したモンスターに瞬殺された。

この時、チャット欄は不穏なコメントは散見されつつも、全体的には盛り上がっていた。

(おっし順調! このまま今日は新記録……深層クリア狙っちゃおーっと)

アイはまさにノリに乗っていた。

しかし、中層を超えて下層に到達した時点で、明らかにチーム内に異変が起きてしまう。

「は? 魔力回復アイテムがないって、どういうこと?」

アイは小声で、荷物持ちの男に詰め寄った。今は配信画面の外であり、目にはギラついた怒りがこもっている。

「いえ、その。まさか下層に来るまで、こんなに使うなんて思ってなかったんです」

「はあ? 全然想定が足りてないよ。このアホが」

「残りの個数については、事前に報告したはずです」

「うわー、言い訳。冷めるわぁ」

詰め寄るリーダーを、有栖川は冷めた目で見ていた。彼を含め、実はもう大半のメンバーが召喚カードを使い切っている。全ては配信映えのため。

「まあいいや。深層までなら楽に行けるっしょ」

そう言い、彼女は配信画面に戻り、また爽やかな笑顔を浮かべる。

「お待たせー! 休憩終わり! じゃあ下層を進んじゃうね。……あれー?」

一行がほんの僅かに下層を進んだ時のこと。開けた空間で、巨大な影がのしのしと歩いている。

ビッグトロールと呼ばれるモンスターで、下層ではボスにあたる存在だ。思わずアイと有栖川以外のメンバーが凍りつく。

人間をそのまま叩き潰せるほど巨大な棍棒は、多くの探索者をぶちのめしてきた。その怪物を前にして、自分達は既に多くの手札を失ってしまっている。

だが、彼らはこうも考えた。ビッグトロールは非常に鈍く、気付かれずに通過することが容易な相手である。

静かにやり過ごしていけば良い、そう考えていたのだが。

「いよいよボスのお出ましかい。いくぜ!」

「よし! あたし達も続くよー」

アイと有栖川の考えは違っていた。一直線に相手へと向かっていく。

「アイ・ファイアー!」

軽快に放たれた火球が、背中を向けていたトロールの尻部分に直撃した。飛び跳ねながら振り返ったその目は、既に怒り心頭に達していた。

すぐに棍棒を振り上げながら駆けてくるが、前に立ちはだかったのは有栖川である。大剣を構える姿は、やはり映えているのだが。

「フッ! ハッ!」

彼は棍棒を避けながら、大剣で相手を切り裂こうとする。しかし、それが上手く当たらない。これまでは探索者仲間の支援により成功していたのだが、新しく組んだ今の編成では上手く機能していなかった。

(お、おかしくね? 前はわりと楽勝だったんだけど)

もちろん、二人の助っ人も同時に攻撃に参加している。しかし巨体に攻撃を当てるのは予想以上に難しく、誰もが決定打を与えられない。

「みんなー! 作戦V7ー!」

((((なんだっけ??))))

誰もが何のことか分からないまま、V7作戦は決行された。アイの渾身の魔法を浴びせた後、四方から囲んで攻撃せよ、という意味だったが、彼女以外に覚えているものはいない。

「アイ・サンダー!」

「ぎゃああああ!?」

前方で戦っていた助っ人に雷が直撃した。もしかしたらアイ自身も作戦を覚えていないかもしれない。

「見えた!」

しかしここで、有栖川が意地を見せる。何かに覚醒したかのように、一瞬の閃きとともに彼は跳躍した。

それはまさに、ビッグトロールの正面。中心から華麗に切りつけようという、英雄の動きそのもの。

対するモンスターはそれを見るや、棍棒を両手持ちにして、振りかぶる姿勢となる。まるで野球の打者のようであった。

次の瞬間、パカーンという甲高い音と共に、ノエル有栖川は飛んだ。ダンジョンの壁にぶつからなければホームラン間違いなしだった。

「みんなー作戦……ぎやああああ!?」

そこからはまさに地獄絵図のような配信となる。怒りにまかせたトロールは、アイをはじめとした探索者一同を、これでもかと棍棒で叩こうとする。

ビターン、ビターンと、まるで家に現れたゴキブリを、新聞紙で叩き殺そうとでもするかのように、猛烈なラッシュを仕掛けたのだ。

:やばい

:あああああああ!

:逃げてえええええ!

:有栖川、何やってんだアホ!

:アイちゃん、仲間を撃ってどうするの?

:ひえええええ

:ちょ、ちょっとこれは

:モグラ叩きかよ

:全滅する!

:まだ下層のはじめなのに

:逃げろおおおおお

:アイちゃーん!

:放送事故すぎる

:お、終わった

:荷物係だけ頑張ってる

:ひいいいい

:通報しないと

:逃げろ逃げろ

:惨敗すぎる

:逃げ切ったみたいだけど、こりゃひどいな

この後、幸いにも死者は出ることなく、全員が逃げ帰ることはできた。

しかし、アイの配信史上最悪の結果になってしまったことは、疑いの余地がなかった。