軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第66話 空鳴(別視点)

アイリスが六階層に降りる背中を見送った空鳴一行。

「行ったか……」

「えぇ」

バルドスの呟きにロナが応えた。

「それにしても、あのアイリスという女の子、明らかにおかしかったな」

「本当にね。五階まで何の対策もせずにやってこれるなんてありえないわ」

状態異常や環境トラップの影響を受けず、平然とダンジョンを進むアイリスの姿は彼らにとって異様でしかない。

「あの従魔も相当おかしい。ブラックウルフにしか見えないが、あの戦闘力はその範疇を超えている」

「俺も背中に乗せられたけど、あのスピードはブラックウルフには出せないよ」

ブラックウルフは確かに狼型のモンスターとして一般人とっては脅威だが、Dランク以上の冒険者にとっては敵じゃない。

しかし、アイリスが連れているブラックウルフに酷似している従魔からは、ブラックウルフから感じられない威圧感と存在感が放たれていた。

「おそらくスキルなんでしょうけど、どんな状態異常も効かない、なんてスキルは聞いたことないし、想像もつかないわね」

ロナの予想は的を射ていたが、未だかつてそのようなスキルの存在は確認されていないため、その考えを除外してしまう。

「本当ですね。それにあの薬。並みの代物ではありません」

「あれも自分で作ったらしいよ」

「あれ程の薬を自分で作ったというんですか!? 信じられません」

ただでさえ、おかしなところが満載のアイリス。その上、異常な効果を持つ魔法薬を調合できる技術さえ持っているなんて、異常を通り越して意味不明でしかない。

「本当に何者なんだろうな、アイリスの嬢ちゃんは……」

「そうね……」

四人の間を沈黙が支配した。

「まぁでも、俺たちにとって恩人なのは間違いないし、あれだけ規格外ならこのダンジョンも簡単に踏破してしまうかもね」

ダンジョンに入ってからその異常性を見せつけられたセインが沈黙を破る。

「確かに。なんだかそんな気がするわ」

「まぁ、任せた以上、俺たちはただ信じて待つしかないな」

「そうですね」

空鳴のメンバーたちは六階への入口を見つめながら、アイリスの生還を祈った。

「でも、六階層以降は誰も知らないけど、いったい何階まであるんだろうな」

バルドスが思い出したように呟く。

モスマンダンジョンは五階までしか踏破されていない。実際何階まであるのか誰も知らなかった。

勿論、気にはなるが、六階以降に行った冒険者は誰一人帰ってきていない。そんな、なんの情報もない場所に無策で飛び込むようなことはしない。

冒険者になりたての頃ならいざ知らず、様々な経験を経てBランクまで上り詰めた今、その行為のリスクを十分理解しているからだ。

彼らは冒険者だが、無謀なことをしたりしない。

「最高でも十階は超えないはずよ。このレベルのモンスターがいるダンジョンはそれくらいで終わるらしいからね」

「それなら最高五つの状態異常が待ち構えているんだな……」

一階層に一つなんらかの環境トラップが仕掛けられているモスマンダンジョン。

十階まであるならまだ五つも状態異常が残っていることになる。六階以降の対策ができていない彼らは、想像するだけでゾッとした。

「まぁ、あの二人ならどんな状態異常が襲って来ても平気で踏破していきそうだよな」

「本当ですね」

四人の脳裏にはアイリスたちが状態異常もものともせずにダンジョンをガンガン踏破していく姿がありありと想像できた。

「でもさ、六階以降って誰も戻ってきたことないわけじゃない?」

「そうだな」

「それって、もしかしたら、六階以降にモンスターがひしめき合っていてもおかしくないってことだよね?」

「確かに……」

ダンジョンによって周期は異なるが、ダンジョンからモンスターが外に溢れ出す現象、スタンピードはある程度モンスターを間引かないことで起こると言われている。

今までモスマンダンジョンはスタンピードを起こしたことはないが、六階以降にモンスターが詰まっていてもおかしくはない。

四人はその光景を想像して体を震わせる。

「でも、不思議とあの二人が死ぬ姿が想像できないんだよね」

「あぁ、それ分かります」

しかし、そんなヤバい状態に巻き込まれても二人が負けるとは全く思えなかった。

「ここのボスもなんかヤバそうな気がしたけど、あっさり倒したりしてな」

「流石にそれはないんじゃない? 曲がりになりにもボスだし」

「あいつらが苦戦するボスって想像できるか?」

「……空を飛んでるとか?」

「こんな洞窟系ダンジョンの中でか?」

「……ないわね」

「だよな」

四人は周りを警戒しつつも、アイリスの活躍を想像しながら帰りを待つ。

「どのくらいかかるんだろうな?」

「数日くらいは見ておいた方がいいんじゃないか?」

未知の階層を踏破するには何日もかかることはざらにある。

幸い彼らは高ランク冒険者。そういう備えは万全だ。アイリスによって体の状態も万全。それくらいなら待つつもりだった。

「まぁ、そのくらいならマジックバッグがある――」

しかし、彼らの会話を遮り、聞こえるはずのない声が彼らの鼓膜を震わせる。

「ただいま戻りましたぁ!!」

『はぁああああああああっ!?』

空鳴の驚きの声が洞窟に反響して響き渡った。