軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 不届きモノの末路

食事の後、私とアークのペアとマリンダさん一人とで、交代で夜番をすることになった。

マリンダさんが前半で、私たちは後半。

夜番の注意点は、道中で気を付けるべきこととほとんど同じ。

違うのは、眠気に負けないようにすることと、仲間の様子にも気を配ることらしい。

「……」

私はテントの中で横になり、ぼんやりと天幕を見つめる。

外から聞こえる焚き火の音や、離れた場所から耳に届く談笑。

そのどれもが旅をしてるって感じがして物凄く――良い!!

『どうした? 早く寝ろ』

寝袋の中でもぞもぞと身動きしていると、外にいるアークから念話が飛んできた。

匂いで私が寝てないことが分かったみたい。

本音を言えば、前みたいにアークのお腹にくるまって寝たかったけど、元の大きさに戻ったらみんなが驚くだろうし、今のサイズでもテントで一緒に寝るには狭い。

仕方なく別々だ。

『だって勿体ないんだもん』

寝袋の中で、寝返りを打ってアークがいる方を向いた。

『何がだ』

『私、こうやって冒険者らしい野営をするの初めてだから。何もかもが新鮮でとっても楽しいの。だから、寝るなんて勿体ないじゃない』

憧れの冒険者としての野営体験。夜の焚き火や仲間とのおしゃべり。また新たな実績を解除してしまったね。

奈落の外に出た直後に森の中で寝たのは、野営とはいいにくいから除外する。

『……ふんっ、そんなもの、これからいくらでもできるであろう』

『初めては一回しかないんだよ』

『いいから寝ろ。交代の時間は決まってるぞ』

『忘れたの? 私は寝なくても大丈夫なんだよ』

眠ろうと思えば眠れるけど、別に寝なくても私の体には何も問題ない。

『ふんっ、勝手にしろ。起きられなくても知らないからな!』

『はいはい』

今日はマリンダさんに沢山のことを教わった。

旅立つ前にやるべきこと、必要な道具や武器防具の選び方、それに旅の注意点も。おかげで旅についての最低限の知識はついたと思う。

最初はびっくりしたけど、ギルドマスターにこの依頼を勧めてもらえて良かった。

明日はどんな出来事が待ってるんだろう。楽しみだなぁ。

◆ ◆ ◆

――パチパチッ

薪が爆ぜ、乾いた音を鳴らす。

「ふぅ……全くとんでもない子だねぇ……」

私――マリンダは、ゆらゆらと揺れる焚き火の炎を見つめながら独り言ちる。

私はそれなりに実績にあるCランク冒険者だ。私自身の気質もあって、若い連中をよく面倒を見ている。だから、新人冒険者の教育を引き受けることはよくある。

今回の依頼もいつも通りだと思っていた。

でも、蓋を開けてみれば、Eランクの割に冒険者のことをほとんど何も知らないド素人。

こりゃあ、とんでもない依頼を引き受けちまったか、と思ったが、一度引き受けた依頼は最後までやり遂げるのが信条。

旅の前にやるべきことを一から教え、村に行くまでに冒険者の常識をしっかり叩き込んでやることにした。

『は?』

でも、私に待っていたのは非常識の連続だった。

私でもびくともしない荷物を軽々と持ち上げ、ペグを素手で地面に突き刺し、かみ砕けないほど硬いパンをクッキーみたいに食べる。

その上、そこまで強いとは言えない従魔のブラックウルフのアーク。こいつはブラックウルフの皮を被った化け物だった。

雷を呼び、地形が変わるほどに地盤を隆起させ、遠くから一目で分かるほどの大爆発を引き起こす。

そんなモンスター、私では手も足も出ない。

正体を知る前、濃密な血の匂いが漂ってきた瞬間、一目散に逃げだしたよね。でも、どんどん距離を縮められて追い付かれてしまった。

アレが馬車の前に着地した時は死を覚悟したね。でも、その正体がまさかアークだったと知った時は本当にびっくりした。

それと同時に気が抜けたよ。

この化け物がいる限り、アイリスに危害が及ぶことはない。だから、依頼の失敗はありえない。そう思えば、気が楽になった。

それからは、ただただアイリスに冒険者のいろはを教えることに専念した。

彼女は持っている力に対して、知識が偏っている。それに、かなり容姿が整っていたし、手も肌も信じられないほど綺麗だった。

詳しくは聞かなかったけど、おそらく訳アリの貴族の令嬢か何かなんだろうね。

ただ、ある程度自分の力に自覚的だけど、人間の悪意に疎い部分がある。その辺りをもう少し教えられるといいんだけどね。

まぁ、その辺りはアークがどうにかするだろう。

今日はアークがいるせいで、辺りが不自然なくらい静まり返っている。

焚き火と人の声以外、虫の声ひとつ聞こえない。おそらく怯えて隠れてしまってるんだろうね。

よっぽどの馬鹿じゃない限り、本来の気配を露わにしたアークの前に姿を現そうというやつはいない。

思えば、今日の馬車を引いていた馬も声を引きつらせていた。逃げ出さなかったのは、アークが抑え込んでいたんだろうね。

「さて、そろそろいこうかね」

マリンダはそっと立ち上がる。

冒険者慣れしてなさそうなアイリスの手前、一度は逃がしてやったが、女子供や新人冒険者を食い物にする犯罪者は生かしてはおけない。

――パチッ

再び薪が爆ぜ、小気味のいい音が静寂の中に広がった。