作品タイトル不明
第157話 謎は深まるばかり
※前話の最後の流れを変更しました。
カジノを満喫した私たちは宿へと帰ってきた。
「おかえりなさい」
艶めかしい寝間着をきた女将さんがちょうど入り口を通りかかる。
「ただいま戻りました」
「どうだったかしら?」
「とっても楽しめました」
「それは良かったわ。そういえば、この宿はお風呂が目玉なの。いつでも入れるからぜひ入ってちょうだい」
「分かりました。入らせてもらいますね」
女将さんにお勧めされたので、私たちは早速お風呂に向かった。
部屋にお風呂はついてなくて、地下に共同の大浴場があるらしい。
階段を降りていくと、動画で見たスーパー銭湯のように大きな脱衣所があった。服を脱いで浴場への扉を開ける。
「えぇ!? 何これ!?」
そこには思いがけない光景が──。
『ふむ、地底温泉か』
「ピピィ!!」
そう。
鍾乳洞のような空間に白く濁った水が張った湖が広がっていた。
その水から湯気が立ち昇っていて、それがお湯になっていることが分かる。
人工的に造られたような跡はなく、天然の地底温泉にしか見えない。こんなものが魔女の館の下にあるなんて驚きだ。
バッカーノは発展してるだけあって、一応下水とかもあると思うんだけど、ここはそんな設備とは無縁に無縁にしか見えない。
いったいどうなってるんだろう。これも魔法だろうか。こんなものまで用意できるなんて女将さんはいったい何者なんだろう。本当に謎が多い人だ。
『離すのだぁ!!』
「ダメ」
もちろんアークは逃さない。尻尾を引っ掴んで連行し、しっかり丸洗いした。
『あぁ〜』
四人で温泉に浸かる。
不思議と硫黄臭さはない。錆臭さに似た、それでいて不快にならない独特な匂いが香ってくる。
ほんの少し粘性があって肌にうっすらと包み込まれているようだ。もの凄く美容に良さそう。
「ピピ〜」
エアはプカプカとお湯に浮かんで鼻歌を歌っている。
「高濃度の魔力を感知。エネルギーが満たされていきます。抜け出すのが困難です」
「それが気持ちいいってことだよ」
「理解しました。これが気持ちいいなのですね」
レインもほんのりと頬を緩ませていた。
「クゥン」
ただ一人、アークだけが情けのないぐったりとした姿で温泉に浸かっていた。
皆気持ちよさそうで何よりだ。
翌日。
昨日は地底温泉のおかげか、いつも以上にグッスリと眠ることができた。
「おはようございます」
「よく眠れたかしら?」
「はい、お蔭様でぐっすりと眠れました」
「それは良かったわ。それじゃあ、朝食にしましょうか」
「はい、いただきます」
私たちは朝食をとる。
スクランブルエッグやパンやサラダ。スープと切られたフルーツなど。夕食と違い、割と普通の料理だった
「そういえば、この宿は女将さん一人で切り盛りしてるんですか?」
ふと疑問に思った。
この宿に着てから女将さん以外の人間を見ていない。他にいたのは、光の玉、それに妖精みたいな不思議生物だけ。
「えぇ、そうよ」
「大丈夫なんですか?」
洋館みたいな感じでそれなりの広さがある。一人で接客から掃除、炊事、洗濯までするのはもの凄く大変だと思うんだけど。
「私にはこの子たちがいるから大丈夫よ」
疑問に答えるように、女将さんがパチンと指を鳴らす。
しばらくすると、食堂の外から何かが近づいてくるのを感じた。
食堂の出入り口をジッと見ていたら、動くホウキやチリトリ、それにぞうきんやバケツなどの掃除道具が独りでに動いて近づいてくる。
「な、なんですか、あれ」
「自動で掃除をしてくれる生きた道具よ。料理や洗濯をしてくれるのも居るわ」
女将さんの言葉通り、動くホウキが床に掃き始め、雑巾が窓や床を拭き始めた。
その後に、料理を運んでくる椅子みたいな奴や、鍋が独りでに動きだしたりする。
「なんてファンタジーな……」
私は衝撃で言葉を失ってしまった。
その動きはぬいぐるみみたいで可愛らしい。
まさか魔法と同じかそれ以上に不思議な体験をすることになるとは思わなかった。
「この子たちがいるから私一人でもこの宿を運営できるの。分かったかしら?」
「女将さんって凄いんですね」
「このくらい魔法を使える人間なら簡単よ」
絶対嘘だ。
私はこの世界の記憶も持っている。魔道具として水道やコンロみたいなものはあったけど、実家にもそんな道具はなかった。
この宿と言い、カジノのことと言い、この生きた道具と言い、どこからツッコんだらいいか分からない。
でも、何か聞いてもはぐらかされる気がする。
「今日は出かけようと思うんですが、この街でお勧めの場所はありますか?」
私は話題を変えた。
「そうねぇ、サーカスや劇場はとても人気があるわ。評判もいいわよ」
「サーカスと劇場ですか」
小さい頃、サーカスに行ってみたいと思ったことがある。結局体が弱すぎていくことができなかった。
今日はサーカスや劇場を含めてバッカーノを見て回ってみよう。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。気を付けていってきなさいね」
「分かりました」
朝食を終えた私たちは着替えて街にくり出した。